このページでは、「カートリッジについて」のVol.26をお送りします。
本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォンのConcordeシリーズについての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
オルトフォンには、自社の象徴となるカートリッジがいくつか存在しています。ベテランのオーディオファイルからは、伝統あるMC型のSPUシリーズやMC10・20・30のシリーズを推す声が挙がってくることでしょう。あるいは、特異な形状やクラブシーンでの活躍によりConcordeシリーズを挙げる方もおられることと思います。このConcordeシリーズは1979年の製品発表から40年以上にわたって生産されており、既にオルトフォンの新たな「伝統」のひとつとなっています。
本ページでは、Concordeシリーズの歴史や特徴、製品シリーズなどについて解説を行います。このページが、オルトフォンの「象徴」Concordeシリーズについて皆様が一段と理解を深めるための一助となりましたら幸いです。
オルトフォンのConcordeシリーズは、製品発表と同時期に就航した超音速旅客機の機首をモチーフとしたデザインで有名です。針先からシェル後端側に向かって徐々に質量を増してゆくテーパー型の形状は、当時各社の間で追求されていたローマス・ハイコンプライアンスへのひとつの回答として誕生しました。
カートリッジ本体とヘッドシェルを一体構造とし、リードワイヤーを内蔵したConcordeシリーズは、最初にVMS型(MM型に近似)のConcorde 10・20・30を発表しています。ヘッドシェル込みの自重は6.5g(現行モデルは18~18.5g)と、「ローマス」を体現する軽質量を誇りました。
上の図は、Concordeシリーズの基本的な内部構造を描いたものです。針(スタイラス)やカンチレバーなどの振動系部分を保持するダンパーは、針先動作時の支点となりますが一般的なカートリッジではこの直上部分に重量物であるコイルやマグネット(MC型の場合)が配置されます。これはそのまま支点直上の質量となって、針先の動作に影響を与えたり再生音を重くすることにもつながる場合があります。そのため、Concordeシリーズのコイルは振動系部分ではなくその後方に配置されるため、より正確なトレースを可能としています。
このコンセプトの極致として誕生したのが、ヘッドシェルのみならずトーンアームのパイプ部分までを一体型としたSME 30Hです。ローコンプライアンスの更なる先を見据えて開発され、その極致ともいえる製品として今なお熱狂的なファンが存在します。
またVMS型モデルの登場からしばらくして、オルトフォンはConcordeの先端に搭載可能なMC型用の超小型磁気回路を開発し、MC200/100シリーズとして発表しました。この磁気回路はSPUシリーズに比べて約4分の1まで小型化されており、MC型におけるローマス・ハイコンプライアンスの追求という命題への回答のひとつとして注目を集めました。
磁気回路を小型化するメリットについては、下の動画で海老沢 徹 先生が言及されています。こちらもあわせてお目通しください。
Concordeの特徴的なデザインは、カートリッジの性能を極限まで追求したことで誕生しました。カートリッジ先端(針先)側の質量を最低限としたConcordeは再生される音色が質量に影響されないため、よりAccuracy(正確)なレコード再生を行うことが可能です。
抜群の性能を誇ったConcordeシリーズは、アイコニックな形状、SL-1200シリーズを主としたDJ用ターンテーブルとの親和性、またヘッドシェル一体型という簡便さにより、1980年代末ごろからクラブカルチャーへの進出を始めます。
これに伴い、頑丈な二重アルミカンチレバーや専用ダンパーが開発されたり、出力向上をねらってコイルの巻数を大幅に増やしたモデルが登場しました。また全モデル共通の仕様として、針先位置の視認を容易とするためのU字状の開口部を設けたり(上の写真)、カートリッジ自重を18gもしくは18.5g(Hi-Fi仕様の旧Concordeは、モデルによるが6.5~16.5g程度)に重質量化させるなどして、過酷なDJプレイに対応可能なカートリッジに生まれ変わっています。
そしてクラブシーンの隆盛と共に、著名なターンテーブリストのアドバイスを受けて開発されたシグネチャーモデルも誕生しました。上の写真は「スクラッチの神様」と謳われるターンテーブリストのDJ Q.bertと、オルトフォンのチーフエンジニア(当時)Per Windfeld氏が共にカートリッジ開発を行う光景をとらえたものです。後にConcorde/OM Q.bertとして世に送り出されたこのカートリッジは、数多のスクラッチャーに愛用されるベストセラーとなりました。
また、「スクラッチ」の名を冠し、ヴィヴィッドなピンクカラーに包まれたConcorde/OM Scratch(旧モデル、生産完了)もDMCチャンピオンをはじめとする数多のターンテーブリストに愛用されています。これらのモデルを代表例として、DJ用の旧Concordeシリーズはバリエーションを増やしながら約30年にわたってクラブシーンと共にあり続けました。
2018年は、オルトフォンが創立100周年を迎えたアニバーサリーイヤーです。この年、DJ用のConcordeシリーズはこれまで多数存在していたラインナップを整理し、Mix・DJ・Scratch・Club・Digitalの5機種に再編成されました。
また、この5機種は新世代のMkⅡモデルとしてハウジングやスタイラス(交換針)の脱着機構がアップグレードされ、更に旧モデルでは一体型であったフィンガー(指かけ)部分は挿抜可能となりカラーのカスタマイズが可能となりました。
さらに、2022年にはDJ用モデルのフラッグシップとなるConcorde MkⅡ Eliteが加わりました。オルトフォンのDJ用カートリッジでは初めてスタイラスチップに無垢の楕円針を使用し、これに対応したアルミ・マグネシウム合金カンチレバーやダンパーが本機専用に開発されるなど、最上位モデルに相応しい仕様を実現しています。
DJ用のConcordeについては、「カートリッジについて Vol.17 DJカートリッジ編Ⅰ」および「カートリッジについて Vol.18 DJカートリッジ編Ⅱ」もあわせてご参照ください。
2018年の創立100周年には、DJ用モデルだけではなくHi-Fi用のConcordeも数量限定品として発表されています。MM型カートリッジ「2M」シリーズの上位モデル、2M Bronzeをベースとして開発されたThe Concorde Centuryは、オルトフォンが次の100年を示すものとして十分な性能を誇りました。
また、翌2019年にはConcordeシリーズ誕生40周年を記念したConcorde 40 Anniversaryも同じく数量限定品として発表され、久方ぶりのHi-Fi用モデルとして人気を博しました。この2モデルの好評は、次項で述べるConcorde Musicシリーズの誕生へとつながってゆきます。
ここまでの流れで、現代では「オルトフォンのConcorde」といえばDJ用カートリッジをイメージする方が多く見受けられます。歴代のDMCチャンピオンをはじめとするターンテーブリストたちと共に華々しく活躍するConcordeは、いまやクラブカルチャーのシンボルといっても過言ではない存在となりました。
しかし先にも述べた通り、元来Concordeは高性能なHi-Fi用カートリッジとして誕生した経緯をもちます。音楽ソフトとしてアナログレコードが再び注目されている昨今、取扱が容易で高性能なカートリッジとしてConcordeに白羽の矢が立ち、2024年に5機種の「Concorde Music」シリーズとしてレギュラーモデル入りすることとなりました。
先にも述べた通りですが、Concordeはかつてローマスを追求するためにカートリッジとヘッドシェルを一体とし、リードワイヤーを内蔵したテーパー型のハウジングとなった経緯があります。
この副産物として、Concordeは製品パッケージを開けたら即座にユニバーサル型トーンアームに取り付け、針圧調整を行うだけで使用することが可能となっています。そのため、ユニバーサル型トーンアームを備えたレコードプレーヤーさえ所有していればカートリッジのヘッドシェル取付やリードワイヤーの配線を行うことなく、極めて容易にレコード盤再生を行うことができます。これはオルトフォンがCG/CA、SPUシリーズといった業務用のプレイバック・スタンダードと共に培ってきた仕様をそのまま受け継いだもので、ConcordeがDJ用カートリッジとして一世を風靡した一因でもあります。
また、Concorde Musicシリーズのボディは先述のDJ用Concorde MkⅡシリーズと共通化されており、針先位置を視認可能なU字状の開口部や、様々なトーンアームに対応可能な18gのカートリッジ自重も継承されています。そして、Concorde MkⅡで実用化されたフィンガー(指かけ)部分の脱着も可能となり、パーツは共用となっています。
また、Concorde Musicシリーズでは交換可能なスタイラス(交換針)部分を除く本体が5機種全てで共通化されています。そのため、最初にMusic Redを導入した後でBlue→Bronzeなどとアップグレードを行ったり、数種類のスタイラスを差し換えて楽しむことも可能です。
Concorde Musicシリーズについては、次項「カートリッジについて Vol.27 Concordeシリーズ編Ⅱ(工事中)」で引き続き紹介を行います。あわせてご参照されることをお勧めします。