ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2022.04.18
DJ

カートリッジについて Vol.17 DJカートリッジ編Ⅰ

このページでは、「カートリッジについて」のVol.17をお送りします。

本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、DJ用カートリッジについての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

Ⅰ.「DJカートリッジ」とは

レコード針(カートリッジ)はレコードで音楽を聴く際、盤に刻まれた音溝から音楽信号をピックアップ(拾い上げる)するための機材です。

このカートリッジのうち、上の写真のようにナイトクラブなどでディスク・ジョッキー、「DJ」がレコードとレコードプレーヤーを楽器として演奏(プレイ)やパフォーマンスを行うことができるように設計されたものを、一般のリスニング用カートリッジと分別して「DJカートリッジ」と呼称しています。本項では、このDJカートリッジについて説明します。

なお前提条件として、DJカートリッジはDJプレイやパフォーマンス以外に使用できない製品、というわけではありません。多くのDJカートリッジはリスニング用に開発されたカートリッジをベースとして設計されているため、一般の音楽再生を行うことも可能です。特にオルトフォンのDJカートリッジはDJ用途に求められる要件を満たすことは当然として、再生音のクオリティもハイレベルであることを念頭に設計されています。

Ⅱ.DJカートリッジの構造について

先に述べた通り、DJカートリッジの基本構造は音楽再生専用に設計されたカートリッジをベースとしており、上の図に示したMM型もしくはそれに類するものが大半を占めます。オルトフォンのDJカートリッジは全てMM型の構造を採用しており、ミキサーやフォノアンプなどのPHONO(フォノ)入力に接続することで再生が可能です。

下の図は、オルトフォンのDJカートリッジであるConcorde MkⅡ Mixの内部構造を示したものです。Concordeシリーズの基本構造もまた、先に示したMM型カートリッジであることがわかります。そして下図の①は音溝から音声信号を振動として読み取るスタイラスチップ②はそれを伝達するカンチレバー③は振動を電気信号に変換するマグネット(磁石)で、この部分が消耗したり破損するなどした場合は、針先(スタイラス)交換によって新しいパーツに交換することができます。交換用のスタイラスは、DJ機器の販売店様やオンラインショップ(本リンク先での取扱はオルトフォン製品のみ)などで購入することができます。


DJカートリッジの特徴は、ハードなプレイに耐えられるよう堅牢につくられていること、また消耗品である針先の交換が容易であることが挙げられます。オルトフォンのDJカートリッジを例として述べると、アルミのパイプでつくられているカンチレバーは基本的には一重ですが、カンチレバー内部にもう1本のアルミパイプを通して二重パイプとしているものもあります。

そしてDJカートリッジは、プレイ時にスクラッチやバックキューイング(逆回転再生)が多用されることを想定して、大多数の機種でスタイラスチップに丸針(上図左)が使用されています。これはレコード盤に刻まれたV字型の音溝に対し、丸針であれば音溝表面に刻まれている凹凸状の音声信号をなぞる程度で済みますが、リスニング用に高精度化された楕円針(上図中央)やラインコンタクト針(上図右)などを用いると、針先が信号の凹凸(下図)を細部まで忠実に読み取ってしまいます。

ステレオLP盤の音溝構造模式図

これは高音質を追求するレコード再生では非常に大切なことではありますが、DJプレイ時に信号を忠実に読む、つまり盤面の凹凸に対して針先の食い付きが深すぎるとスクラッチやバックキューイングを行った際に針先と盤面との間で大きな摩擦が発生し、双方に負荷がかかってしまいカンチレバーや針先部分の破損を招く場合もあります。

この知見は、ラジオの放送局などでレコードを再生する業務用カートリッジの開発・生産から得られたものです。放送の現場では曲の頭出しを行うためにターンテーブルを日常的に手で逆回転させるため、堅牢な振動系をもった丸針のカートリッジが不可欠です。これは奇しくもDJカートリッジに求められる仕様と全く同一であったため、オルトフォンはこれを活かして1980年代からDJ用カートリッジの生産を行ってきました。

Concorde MkⅡ Club

なお、DJプレイが可能でありながら高音質再生を目指したカートリッジも存在します。オルトフォンではConcorde MkⅡ Clubがこれに該当し、本機専用に開発された特殊楕円針が採用されています。この針はリスニング用に用いられる楕円針よりも先端に厚みをもたせ、レコード盤の音溝表面の凹凸への食い付きを浅く抑えることでバックキューイングを可能としています。そして丸針よりは高精度な信号の読み取りが可能なため、解像度やレンジ感にも優れたDJカートリッジとなっています。

カンチレバー・ダンパー・マグネット拡大写真

そして、可動部分であるカンチレバーとマグネットを支えているダンパー(上の写真の白色パーツ)は、激しいプレイを行っても針飛びを起こしづらいよう調整されたDJカートリッジ専用のものが使用されています。このダンパーを硬すぎず柔らかすぎず、ほど良い弾力に保たせて均一に量産することは非常に難しいですが、オルトフォンは全てのダンパーを徹底した管理下に置き、機種ごとに適切な弾力をもたせたダンパーの生産を行っています。

またDJカートリッジの針先は堅牢につくられているものの、いずれは消耗して交換する必要が生じます。これは楽器であるギターやヴァイオリンなどの弦が切れたら交換する、というイメージに近いかもしれません。楽器の弦が交換可能となっているように、DJカートリッジの針先も先端部分を抜き差しすることで簡単に交換することができます。また、先に述べたConcorde MkⅡシリーズの針先部分は抜き差しが容易でありながら、プレイ中の脱落を防ぐためのロック機構が設けられています。

針先を視認するためのU字型窓

なお、曲の頭出しや位置確認などを行う際に針先を直接見られるよう、Concordeシリーズの先端部分にはU字型の窓が設けられています。このように、DJカートリッジはプレイ中の事故やストレスから解き放たれ、DJが思い描く最高のパフォーマンスのみに没頭できることを願って考え出された様々な工夫の結晶でもあるのです。

Ⅲ.DJカートリッジのセッティングについて

多くの場合、DJカートリッジはDJプレイが可能なレコードプレーヤー(ターンテーブル、タンテと略称される場合あり)に取り付けて使用されます。これらのターンテーブルはただ置くだけでも使用することはできますが、設置時にいくつかのセッティングと調整を行うことで最大限のパフォーマンスを発揮することができますので、ターンテーブルの取扱説明書やはじめてのレコード再生・操作編 Vol.1およびVol.2、または下のオルトフォン公式YouTube動画などを参考に、セッティングを行ってみましょう。

トーンアームのユニバーサル型コネクター

またターンテーブルのうち、様々なヘッドシェルが脱着可能なユニバーサル型トーンアーム(上の写真参照)を搭載している製品も数多くあります。このタイプのトーンアームが使用されているターンテーブルでは、ユニバーサル型コネクターに対応するヘッドシェルを交換することで様々なカートリッジを容易に交換することができます。カートリッジをヘッドシェルに取り付ける方法については、「レコード針のヘッドシェル取付方法について」もしくは下のオルトフォン公式YouTube動画などを参考としてください。


Ⅳ.DJカートリッジやレコード盤のお手入れについて

DJ用途に限らず、カートリッジについてのお問い合わせで最も多いのが「片チャンネル、もしくは両チャンネルの音が出なくなった」というものです。ほとんどの場合、この症状が発生する理由はヘッドシェルコネクター先端にある4本の端子接点(上の写真の金色部分)が一時的な接触不良状態になっていることによるもので、無水エタノールを浸した綿棒などで磨くことで解消される可能性が非常に高いです。「レコード針の音が出ない時の対処について」や下の公式YouTubeも併せてご参照の上、カートリッジの脱着時などに端子部分のクリーニングも行うことをお勧めします。


またレコード盤面に直に触れるというDJプレイの性質上、一般的なレコード再生時に比べるとDJカートリッジの針先部分にはゴミや皮脂などが付着しやすい状況にあります。そのため、プレイを行った後はなるべくカートリッジの針先をブラシでクリーニングしましょう。それだけで針先の寿命は何倍にも伸びますし、(結果的に)クリーニング時に針先を凝視することで状態確認ができ、針折れやダメージ等に早く気づき、針先交換などの対処を行うことができます。現場に到着してから針折れに気づいた、という事態も防ぐことができますので、プレイ後は下の動画を参考にクリーニングすることをお勧めします。


そして根本的なお話として、ゴミやホコリなどが付着したレコード盤を再生した場合、それをなぞった(トレースした)カートリッジの針先には盤面のゴミが付着してしまいます。特にDJプレイ後の盤面にはゴミが付着している可能性が高いため、レコード盤面のクリーニング用ブラシなどを用いて小まめにクリーニングしましょう。カートリッジのみならず、レコード盤のコンディションを良い状態に保つことも大切です。

カートリッジについて Vol.18に続く

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