このページでは、「カートリッジについて」のVol.2をお送りします。
本ページは、レコード針(カートリッジ)に関する解説の中でも専門的な内容となる、スタイラスチップに関する記述を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
カートリッジのカンチレバー先端には、スタイラスチップと呼ばれる宝石素材でできた針が取り付けられています。この部分こそカートリッジがレコード針と呼ばれる所以で、レコード盤の音溝(グルーヴ)に直接触れて音楽をピックアップする極めて重要なパーツです。多くはサファイアやダイアモンドなどの熱や摩耗に強い硬質な宝石素材が用いられていますが、摩耗のスピードや耐久性を考えると、ダイアモンドを用いたスタイラスがベストです。サファイアのスタイラスはダイアモンドに比べ摩耗しやすいため、カートリッジ、もしくはその針先を頻繁に交換する必要があります。
摩耗した状態のスタイラスチップでレコード再生を続けると、音のビリ付きや途切れ、針飛びなどが発生する原因となり、レコード盤の音溝や盤面に傷を付けて痛めてしまう場合もあります。
下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者、海老沢 徹 先生がダイアモンド以外の素材のスタイラスについて解説しているものです。針先の摩耗が盤に与える影響についても述べられておりますので、併せてご参照ください。
ご愛聴盤のコンディションを最良に保つためにも、よく聴いている盤で音が変だな?と感じた場合はカートリッジやその針先を交換しましょう。MMカートリッジの場合は、販売店様で交換針(スタイラス)を入手し、ご自身で針先交換を行うことが可能です。
下の動画は弊社2Mシリーズの針先交換方法を示したものです。こちらもご参照ください。
※接合針と無垢針について
ダイアモンド製のスタイラスチップには接合針と無垢(Nude)針の2種類があります。接合針は針の先端がダイアモンド、ベース部分が硬質な金属であり、それらを接合したもの、無垢針とはスタイラスチップ全体が無垢のダイアモンドで形成されたものを指します。2種を比較した際の大まかな音色の傾向としては、接合針は密度のあるエネルギッシュな音色をもち、無垢針はクリアかつワイドなレンジ感となります。
スタイラスチップは、素材だけではなく形状でも数種類に分類されます。
代表的なものに、
①丸針
②楕円針
③ファインライン針
④シバタ針(ラインコンタクト針)
があり、オルトフォンではこの4種全てを採用しています。そして究極のスタイラスチップとして、オルトフォンが誇る「オルトフォン・レプリカント100」が挙げられます。これらの特徴についてご説明していきます。
なお、下の動画では海老沢 徹 先生が様々なスタイラスチップが誕生した経緯について解説しております。こちらも併せてお目通しください。
最もシンプルな形状をしたスタイラスで、コニカル針とも呼ばれます。スタイラス部分の形状は円錐型で、先端は球形。このため、「丸」針と呼ばれるようになりました。
この針先形状により、丸針は前後どちらの方向に再生しても、また多少(正面から見た)左右方向の角度がずれていても、ある程度は安定したトレースを行うことができます。過酷な条件下でも音割れや歪みなどを発生させにくく、頭出しを行う放送局などのプロユース用カートリッジや、バックキューイングを伴ったプレイを頻繁に行うDJカートリッジなどに多用されています。
しかし、楕円針などの他のスタイラスに比べてチップの先端サイズが大きいため、レコード盤最内周などで(針飛びこそしないものの)音溝のセンターからずれた軌跡でトレースしたり、細かい起伏を忠実にトレースしきれずに高音域が曇ったり、わずかに再生音が歪む場合があります。
なお、オルトフォンSPU #1Sの末尾にある「S」は、丸針のSphericalの頭文字を取ったものです。またSPUシリーズのうち、丸針を使用したモデルはボトムカバーもしくはシェルに「DIAM. 17」もしくは「DIAM. 25」と書かれたシールが貼られています。
楕円針は、円錐形スタイラスの前・後部を削ったことにより針先の断面が楕円形となったことから名づけられました。カンチレバーに対しては楕円長軸側の先端部が音溝の起伏に当たるように取り付けられており、丸針に比べると忠実に音溝の細かな起伏をトレースすることが可能です。このため、先述の音溝のセンターからずれた軌跡でトレースされてしまう問題や、再生音の歪み感を減少させることに成功しています。
なお、オルトフォンSPU #1Eの末尾にある「E」は、楕円針のEllipticalの頭文字を取ったものです。またSPUシリーズのうち、楕円針を使用したモデルはボトムカバーもしくはシェルに「ELLIPTICAL DIAMOND」と書かれたシールが貼られています。
ファインライン針は、盤面とスタイラスチップの接点を細くした楕円針の一種です。楕円針に比べて音溝の細かな起伏を忠実にトレースすることができ、音溝のセンターからの軌跡ずれや、再生音の歪み感を減少させています。
楕円針に比べると再生可能な周波数帯域が広く、オルトフォンではこのファインライン針を2M Bronze、MC Q20とMC Cadenza Red、創業100周年を記念して開発されたThe Concorde Centuryに採用しています。
楕円針の更なる高性能化を目指して誕生したもので、楕円針に比べるとスタイラスチップとレコード盤の音溝が接触する面がライン状に長く伸び、線接触するようになっています。このため、シバタ針を含むいくつかのスタイラスはラインコンタクト針とも呼ばれています。
シバタ針の名は考案者である日本ビクター株式会社(当時)の柴田 憲男 氏に由来し、1970年代に実用化したCD-4(4チャンネルステレオ)再生に際して必要な、50kHzまでの極めて広い周波数帯域を再生するために開発されました。
当時としては非常に画期的、かつ現代でも高性能なスタイラスチップの代名詞であるシバタ針の特徴は、再生可能な周波数帯域が極めて広いこと、またレコード盤面とスタイラスチップの接触面がライン状に長くなることで圧力が分散されて盤とスタイラス双方にかかる負荷が減ることが挙げられます。
オルトフォンはこのシバタ針を、各シリーズの最上位モデルである2M Blackと2M Black LVB 250、MC Q30S、MC Cadenza Black、創業100周年を記念して開発されたThe SPU Centuryに採用しています。
海老沢 徹 先生がシバタ針の開発経緯について解説する下の動画も、併せてお目通しください。
このスタイラスもラインコンタクト針の一種で、オルトフォンが自社の名を冠した至高の逸品です。最大の特徴は、カッターヘッドと呼ばれる機械に使用されている針とほぼ同じ形状となっていることです。
上の写真は、かつてオルトフォンが自社で設計・生産していたカッターヘッドです。この機械はレコード盤の大元となるラッカーマスターをつくるカッティングマシンの先端に付けられており、盤に音を刻むためのカートリッジとも言えます。レプリカント100はこのカッターヘッドに取り付けられた針であるカッティングスタイラスに最も近い形状につき、全てのスタイラスチップの中で最も忠実に、かつ精細に音溝をトレースすることができます。
オルトフォンはこのレプリカント100をMC Cadenza BronzeとSPU Royal Gシリーズ、SPU Royal Nに採用しています。そして、更なる特殊研磨を施した特別バージョンのレプリカント100を、MC Windfeld Ti、MC Xpression、MC A Mono、MC Anna、MC Anna Diamondと創業100周年を記念して開発されたThe MC Centuryに採用しています。
海老沢 徹 先生がレプリカント100についての所感と概要を解説する下の動画も、併せてお目通しください。