このページでは、「カートリッジについて」のVol.27をお送りします。
本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォンのConcordeシリーズについての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」および「カートリッジについて Vol.26 Concordeシリーズ編Ⅰ」のお目通しをお勧めします。
超音速旅客機の機首をモチーフとして1979年に発表されたConcordeシリーズは、ローマス・ハイコンプライアンスの追求という命題への回答として誕生した高性能なカートリッジです。そして先の「カートリッジについて Vol.26 Concordeシリーズ編Ⅰ」で述べたとおり、Concordeは現代のクラブシーンにおいてDJ用カートリッジとしてもその性能を遺憾なく発揮しています。
そして2024年、Concordeは久方ぶりにHi-Fi用のカートリッジとして蘇りました。本ページでは、Concorde Musicシリーズとしてラインナップされた5機種についてご紹介してゆきます。
MM型カートリッジであるConcorde Musicシリーズは、コイルが収められた本体側と、針(スタイラスチップ)・カンチレバー・ダンパーなどの振動系部分が収められたスタイラス(交換針)部分とに分けられます。本体側に収められたコイルの巻線には、Musicシリーズ全機種に共通で銀メッキ高純度銅線を採用しています。
なお、オルトフォンのもう1つのMM型カートリッジである2Mシリーズでは、銀メッキ高純度銅線を用いたコイルはBronze以上の上位機種にのみ採用されています。それに対し、Concorde Musicシリーズはオルトフォンが自社の象徴であるConcordeをHi-Fi用カートリッジとして蘇らせるべく、コストを度外視してボディ仕様を全機種共通とした自信作です。そして5タイプのスタイラス(交換針)全てに互換があるため、針先をRedからBlueへ、またはBlackやBlack LVB 250に挿し替えることも可能です。
Concorde Musicシリーズには、エントリーモデルのRedからフラッグシップのBlack LVB 250までの5機種がラインナップされています。先にも述べたとおり、各機種のボディ部分は全機種共通であり、5タイプのスタイラス(交換針)全てに互換があるため、針先をRedからBlueへ、またはBlackやBlack LVB 250に挿し替えることも可能です。
ここからは、各スタイラス使用時の特徴について解説してゆきます。
Concorde Musicシリーズは、エントリーモデルのRedにも高性能な楕円針を使用しています。このスタイラスは、一般的なエントリー帯の機種に多く用いられる丸針よりも細かな音声信号をピックアップすることができます。その理由としては、V字型の音溝表面にある凹凸をより正確に読み取れるように針先断面が楕円形となっていることが挙げられます(下図参照)。
また、凹凸を正確に読み取ることで、丸針に比べ針先の浮き上がり(ピンチ効果ひずみ)が減るメリットもあります。
そして下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、このピンチ効果ひずみについて述べているものです。音楽再生中の、丸針と楕円針の動作の違いについてもアニメーション動画を併用して解説しておりますので、あわせてお目通しください。
また、Concorde Music Redのスタイラスチップは、チタン製シャンク(軸)の先端にダイアモンドチップが取り付けられた接合針を用いています(下図参照)。接合針は、無垢のダイアモンド針に比べると金属シャンク部分の質量が加わるため、音色が重厚かつパワフルになる傾向があります。その上で、丸針よりも音声信号の読取能力が高い楕円形状のスタイラスを使用することで音のクリアさも両立させています。
下の動画は、「接合針」という呼称の名付け親である海老沢先生が、接合針の概要や開発時の秘話について解説しているものです。ここまでに述べた内容を更に詳しくお話されておりますので、併せてご参照ください。
Concorde Music Blueは、Redからのグレードアップ要素として無垢楕円針を採用しています。これは接合針と異なりスタイラスチップ全てをダイアモンドとしたもの(下図参照)で、チップの軽質量化とピックアップした信号の伝達スピード向上を可能としています。そのため、音色の面では接合針のような重厚感こそ減りますが(Redに比べ)クリアで高解像度、かつレンジ感に優れたサウンドとなります。また、スタイラスチップの軽量化により針先の質量が低減されているため、音溝のトレース能力向上も実現しています。
Concorde Music Bronzeは、アルミカンチレバーと高性能楕円針の一種である無垢ファインラインを採用しています。Blueに用いられている楕円針以上に音溝表面の凹凸を読み取る能力に優れたファインラインは、シルキーで滑らか、繊細な音色を得意とします。
そしてアルミカンチレバー特有の癖のなさも持ち味としており、Concordeシリーズが得意とするフラットな音色を体現したかのような存在です。
下の動画では、海老沢先生がアルミカンチレバーについて解説しています。ここまでに述べた内容を更に詳しくお話されておりますので、併せてご参照ください。
Concorde Music Blackは、レコード盤に刻まれた音溝の読取能力を高めるため、スタイラスチップに高性能な無垢シバタ針を採用した上位モデルです。そのため、Bronze以上の高解像度とクリアさ、音像定位の良好さを特徴とします。さらに、ニュートラルな音色を特徴とするアルミカンチレバーを使用することで、クリアでありながら懐の深い、絶妙なサウンドに仕上がっています。
なお下の動画は、海老沢 徹 先生がシバタ針の概要や開発時の経緯について解説しているものです。ここまでに述べた内容以上に詳しくお話されておりますので、併せてご参照ください。
Concorde Music Black LVB 250は、シリーズのフラッグシップとして誕生したモデルで、再生音のクリアさやレンジ感、シャープさなどにおいて他機種の追随を許さない圧倒的な高性能を誇ります。無垢シバタ針の採用は下位モデルのBlackと同一ですが、本機のみハイエンド製品に使用されるボロンをカンチレバー素材に採用しています。
そのため、各モデル専用につくられているMusicシリーズのダンパーの中でも、LVB 250のそれはさらに特別な仕様となっています。その上、マルチ・ウォール・カーボン・ナノチューブ(Multi Wall Carbon Nano Tubes、MWCNT)と呼ばれる微粉末をダンパーに配合したことで、MM型としては最高クラスのサウンドを実現しました。オルトフォンは、ダンパーこそがカートリッジの要であると考えています。デンマーク南部のナクスコウにある本社工場にはダンパー専門のラボラトリー(下の写真)があり、全てのオルトフォン製品に使用されるダンパーの研究開発や生産が行われています。
ダンパーの役目は、カートリッジの振動系を適切な位置や角度で「支持」することと、カンチレバーの素材やカートリッジの構造によって変化する動作時の不要振動を抑え、純粋に音声信号のみを抽出して伝送させる「制動」に大別されます。この2つの最適値はカートリッジの機種それぞれによって異なるため、オルトフォンは全ての自社カートリッジのダンパーを内製化してこれを精緻に作り分け、厳密な品質管理のもと製品に組み込んでいます。Concorde Musicシリーズ、そしてそのフラッグシップであるLVB 250もまた、オルトフォンの優れたダンパー技術の結晶です。