ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2021.10.25
カートリッジ

カートリッジについて Vol.8 WRD・WRAD編

このページでは、「カートリッジについて」のVol.8をお送りします。

本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォン独自のダンピングシステムであるWRDWRADに関する内容の記述を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

セレクティブ・ダンピングシステムの開発

オルトフォンは、後にオルトフォン・タイプと呼称されるようになるMCカートリッジの磁気回路を世界で最初に開発しました。カンチレバーが固定されたアーマチュア(コイル巻芯)の裏にダンパーを挟み、その中心位置で一点支持とするシンプルで自由度の高い方式はその後発売されたMCカートリッジの範となりましたが、CD-4をはじめとする4チャンネルステレオ(弊社公式YouTubeへ)の登場やオーディオ機器の飛躍的な性能向上により、更なる高性能なダンパーシステムが求められるようになりました。

これに応えるべく、ロバート・グッドマンセン氏らを中心とした当時のオルトフォンの技術陣は、より高精度なダンパーシステムの開発に取り掛かりました。低音・高音それぞれの振動に対して適切なダンパーを用いた方がより完璧な制震を行えることは、レコード再生時の振動解析などにより当時すでに理解されていましたが、ゴム素材の品質管理や素材特性の均一化高精度な成形が極めて難しいためなかなか製品化に踏み出せずにいました。しかし、オルトフォンは完全自社生産の強みを生かして各音域用のダンパーの個体差を減少させることで実用化に成功。特許も取得されたこの開発により、ダンパーの存在意義である「支持」と「制動」の精度はワンランク上のものとなり、その振動系は理想的な形で音溝の信号をピックアップすることが可能となりました。

この特徴的なダンパーシステムは当初セレクティブ・ダンピング方式と呼ばれていましたが、後にWRD(Wide Range Damping、ワイド・レンジ・ダンピング、後述)システムと呼称されるようになりました。WRDは1970年代末に発表されたMC30で初めて採用され、超音速旅客機に似た独特な形状で注目を集めたMC200などを含め、現代でもなおオルトフォンのハイエンドMCカートリッジの多くに使用されています。下図はMC200シリーズ先端部の内部構造を表したもので、実用化されたばかりのWRD、リング状のマグネットで覆われた振動系など、現代のオルトフォンMCカートリッジに用いられている技術の萌芽が既にみられます。

Ⅰ.WRD(Wide Range Damping)

WRD(Wide Range Damping、ワイド・レンジ・ダンピング)システムは、当初セレクティブ・ダンピング方式という呼称で実用化されたダンパーシステムの構造についての特許技術で、ダンパーを高音域用と低音域用に分割して2枚とし、その間に重質量な貴金属であるプラチナディスクを挟んだものです。低音と高音では発生する振動が異なるため、WRDシステムに用いられるダンパーゴムは高音域用と低音域用で硬さが異なります。そして前・後の各ダンパーの作用に互いが干渉することが無いよう、重質量のプラチナディスクを挟んでダンパー同士をセパレートし、同時にスタビライザーとしての役割も果たしています。WRDシステムは、MC XpressionMC Windfeld TiMC A Monoなどのハイエンド機やMC Cadenza Blackのダンパーに採用されています。

下の動画はWRDシステムを採用した最新機種、MC Verismo(ヴェリズモ)の内部構造を表した3D動画です。片側のダンパー中央に設けられた凸型部分に収まったプラチナディスクが、もう片側のダンパーに挟まれることで振動系内部で完全にフロートされ、振動系の動作に干渉しない構造となっていることがわかります。

Ⅱ.WRAD(Wide Range Armature Damping)

WRAD(Wide Range Armature Damping、ワイド・レンジ・アーマチュア・ダンピング)システムは、 WRDを更に改良してダンパーの支持能力を向上させた機構です。ダンパーを高域用・低域用で前後に分割し、間にプラチナディスクを挟んで不要な共振を抑えるという基本構造は共通ですが、非磁性体の十字型アーマチュアの先端をボビン状とし、突起部分を高精度なダンパーゴムの縁と嵌合させてダンパーがアーマチュアをより強固に支持できる構造とし、細かな角度ずれやブレを防いでステレオ的な見通しの向上や高いトランジェント特性(音の立ち上がり・立ち下がりが速いこと)を得ることに成功しています。

このWRADは空芯型アーマチュアのMC Annaで初めて採用され、The MC CenturyMC Anna Diamondでの使用に際してはカンチレバーがダイアモンドへと素材変更されたことに伴ってダンパー素材も配合比が見直され、新規開発が行われました。

なお、スタイラスチップについての解説は「カートリッジについて Vol.2 スタイラスチップ編」を、カンチレバーについては「カートリッジについて Vol.3 カンチレバー編」、磁気回路については「カートリッジについて Vol.4 磁気回路編」、ハウジングについては「カートリッジについて Vol.5 ハウジング編」、コイル巻線については「カートリッジについて Vol.6 コイル巻線編」、ダンパーについては「カートリッジについて Vol.7 ダンパー編」をご参照ください。


カートリッジについて Vol.9へ続く

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