本ページでは、レコード針(カートリッジ)の音がビリ付いたり、もしくは割れるなどの場合の対処方法についてご説明します。
カートリッジの使用時、実際に発生しうる症状をいくつかのパターンに分け、弊社公式YouTube動画も交えて具体的な対処方法をお伝えします。
レコード再生時に音楽が途切れずに鳴っているものの、音がビリ付いたり、もしくは割れたりする場合も、まずは先述の「レコード再生時の音かすれ・途切れへの対処について」の内容を試してください。針先のクリーニングや針圧確認を行っても状況が改善しない場合は、下記内容を読み、対処を行ってみましょう。
再生音がビリ付いたり割れたりする場合は、まずカートリッジの取付角度と位置を確認してみましょう。ここで言う角度と位置とは、以下の4点が挙げられます。
①レコード再生中、トーンアームのパイプ下面とレコード盤面の間隔が平行になっているか→アーム高さ調整
上の写真は、トーンアームのパイプ下面とレコードの盤面との間隔が平行になるようにトーンアームの高さを適正位置に合わせた様子を示したものです。この状態が保たれず、カートリッジが前後方向に傾くとスタイラスチップがレコードの音溝に当たる角度が変わってしまいます。特に、カートリッジに対してトーンアームの高さ位置が低い(俗に「尻下がり」と呼ばれる状態)と、場合によってはカートリッジの後ろ部分がレコード盤面に接触してしまう可能性があります。その場合は、再生音のビリ付きや割れ、更には音のかすれや途切れが症状として現れますのでトーンアームの高さ調整を行いましょう。なお、一部にはアームの高さ調整が不可能なレコードプレーヤーもありますのでご注意ください。
②再生中のカートリッジを正面から見た際、本体が盤面に対して垂直になっているか→ヘッドシェルなどによるラテラル(アジマス)調整
上の写真は、レコード再生中のカートリッジ本体(および針先)が盤面に対して垂直にセットされている様子を示したものです。カートリッジがレコード盤面に対して垂直ではなく、左右方向に傾いて取り付けられている場合もまた、先述①同様に再生音に異常が出る可能性があります。
一部のヘッドシェル(例:オルトフォン LH-4000/LH-9000/LH-10000)やトーンアームでは、ヘッドシェルのコネクター部分が可動式となっていて左右方向の傾きを調整し、カートリッジが盤面に対して垂直となるようにヘッドシェルの水平を保つことができるモデルもあります。このヘッドシェルの水平調整を、専門用語でラテラル(アジマス)調整と呼びます。
また、オルトフォンのSPUシリーズを除いた全てのMCカートリッジは、上の写真のようにカートリッジ天面が三点支持方式となっており、取付ネジの締め具合を調整することでカートリッジ側でも傾きの微調整を可能としています。下の弊社およびデンマーク本社(英語)の公式YouTube動画も併せてご参照ください。
③ヘッドシェルに取り付けられたカートリッジの位置を確認する→オーバーハングの確認・調整
トーンアームのオーバーハングがずれていると、再生音がビリ付いたり割れたりする原因となることがあります。これはレコード盤の音溝に対し、スタイラスチップが正しい角度で接触できていないために発生するものです。上の写真は、オーバーハングとは何かを分かりやすく解説するために意図的なセッティングを行って撮影したもので、レコードプレーヤーのセンタースピンドル(レコード盤の中心穴を挿すための中心軸)からカートリッジの針先位置までの長さを15㎜(例:オルトフォン AS-212Sの場合)に設定しています。
このオーバーハングは、トーンアームの設計時に決められる重要なスペックのひとつではありますが、長さの共通規格が存在しないためメーカー各社、また型番によっても異なります。同一メーカー・同一シリーズのショート/ロングでも値が異なる場合がありますので、必ずトーンアームもしくはレコードプレーヤーの取扱説明書に書かれたスペックを確認するようにしましょう。
そして、この症状はスタイラスチップの形状によっても発生の可能性が変わります。丸針(下図左)ではオーバーハングが数㎜ずれた程度では発生しづらい、もしくは異常を判別しづらいものの、シバタ針(下図中央)やレプリカント100(下図右)などの場合は明らかな症状として認識できる可能性が高くなります。こういった高性能なチップを使用しているカートリッジを使用している場合は、なるべくオーバーハング位置を細かく合わせるようにしましょう。
最後に、オルトフォンのカートリッジにはヘッドシェルとカートリッジ本体が一体になったモデルがあります。SPUシリーズ(下図左)、MC Xpression(下図右)、Concordeシリーズがこれに該当しますが、これらは全てシェルコネクター根元→針先間の距離が52㎜に設定されています。これらの製品を使用し、オーバーハング位置を合わせる場合はご使用のレコードプレーヤーが52㎜対応になっているか(例:Technics SL-1200シリーズ)、またプレーヤーやトーンアーム側である程度の微調整が可能か(例:SME社のトーンアーム)を確認することを推奨します。
④カートリッジをヘッドシェルに付けた際のネジ位置を確認する→シェル天面のネジ位置確認
多くの場合、カートリッジをヘッドシェルに取り付ける際は2本の固定ネジが使用されます。このネジの取付位置は左右で同じとなるのが基本的な方法です(一部のストレートアームなどで例外あり)が、この位置がずれているとカートリッジ本体の左右も傾いて取り付けられてしまいます。これを避けるため、下の公式YouTubeチャンネルも参考としながらカートリッジ取付位置を確認してみましょう。
再生音のビリ付きや割れは、カートリッジ針先のゴミだけではなくレコード盤表面の音溝に溜まったホコリや汚れが原因となっている場合も多くみられます。そのため、日頃からレコード盤面をレコードクリーニング用ブラシ(例:オルトフォン Record Brush、弊社公式オンラインショップはこちら)などでクリーニングするように習慣づけておきましょう。また、古い盤などで汚れやゴミの付着が目立つ盤は、再生前に必ず市販のレコードクリーニング用アクセサリー(詳細はレコードもしくはオーディオ製品の販売店様などでご相談ください)で汚れを落とし、かつ液体を用いた湿式レコードクリーナーを使用した場合は盤面を完全に乾かしてから再生するようにしましょう。
レコード盤面が綺麗であれば、カートリッジ針先にゴミが付着することも結果的に防ぐことができ、針先の寿命を長く保つことが可能です。
レコード盤によっては、盤自体の音声信号が歪んでいたり、どうしても盤内周で音割れが生じてしまうものもあるようです。他の盤では問題がないが、特定の盤でのみ症状が出るという場合はレコード盤の側に原因がある可能性も考えられます。
この現象への対処は極めて困難ですが、トーンアームの高さ調整を行ってカートリッジの針先角度を変えることで改善される可能性もあります。通常、トーンアームのパイプ下面とレコード盤面は平行とするのがセオリーですが、少しだけ高さを上げたり、下げたりして傾けると症状が和らいだというケースがあります。
MCカートリッジで特に起きやすい症状ですが、使用環境によっては(活火山が近くにある地域など)リスニングルームに鉄紛が舞い込み、それをカートリッジに内蔵された強力な磁石が鉄粉を引き寄せ、振動系に付着して音のビリ付きや割れを生じさせることがあります。オルトフォンのカートリッジはこれを防ぐため、上の写真のようにカンチレバー周囲に異物侵入を防ぐためのラバープロテクターが付いていたり、振動系部分をマグネットやハウジングなどで囲み、露出させないようにして鉄粉付着を防ぐための対策を行っているため基本的にこの症状が発生することはありません。
しかし、カートリッジ本体(特に底面)に鉄粉が付着しており、かつ再生時に音のビリ付きや音割れが生じる場合は、ほぼ間違いなく振動系部分に鉄粉が侵入しています。この場合、完全な除去は極めて困難につきオルトフォンでは針交換対応をご案内する可能性が高くなります。
鉄粉はカートリッジを含むオーディオ機器の天敵ですので、混入させないよう十分に注意して下さい。
最後に、オルトフォン製品をご使用で、かつ本ページを読んで対応策を施しても状況が改善しない場合は、弊社お問い合わせフォームよりご質問下さい。担当者より折り返しご連絡させて頂きます。