ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2021.12.20
カートリッジ

カートリッジについて Vol.14 SPU編Ⅳ

このページでは、「カートリッジについて」のVol.14をお送りします。

本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、MCトランス内蔵型のSPU GTシリーズについての記述とSPUシリーズのセッティング例ご紹介を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。


MC昇圧トランス内蔵のSPU、GTシリーズ

2023年に復活したトランス内蔵モデル、Ortofon SPU GTE 105

SPUシリーズにはかつて、Gシェルの内部にMC昇圧トランスを内蔵したSPU GTシリーズ(旧モデル)がラインナップされていました。シェルに昇圧トランスが内蔵されているためフォノイコライザーやアンプのPHONO入力側はMM用入力さえあればよく、アンプ側でMC/MMの切替を行ったり、別途に昇圧トランスを接続する必要がないため非常に重宝されたといわれています。

また、旧GTシリーズには丸針のSPU GT楕円針のSPU GTEがありました。製造年代やモデルによって幾分の差はありますが、下図(SPU Classic GT)のように軽量なGシェルの内部に取り付けられたSPUユニットのすぐ後ろにGTシリーズ専用の昇圧トランスが接続され、ヘッドシェルのコネクターに至る時点では既にMMカートリッジ同様の出力電圧を得ていました。

この仕様をそのまま、2023年に復活が決定したモデルが楕円針仕様のSPU GTE 105です。シリーズ専用のMC昇圧トランスヘッドシェルを完全新規設計とした本モデルの登場により、「GT」は数十年ぶりにSPUシリーズのレギュラーラインナップに加わることとなりました。

SPU GTE 105を含むGTシリーズの利点は2つあります。1つは上述のとおり一般的なMCカートリッジでは必須となるMCヘッドアンプやMC昇圧トランスを用意する必要がないこと、もうひとつは発電機構である磁気回路を収めたSPUユニットのすぐ後ろに昇圧トランスがあることです。

このSPUのユニットは、一般的なカートリッジではMCカートリッジの本体部分に該当します。通常の場合、ヘッドシェルに取り付けられたMCカートリッジの音声信号はリード線、トーンアーム、フォノケーブルを経て、場合によってはMC昇圧トランスなども通った上でアンプのMM入力に到達しますが、GTシリーズの場合は音声信号の増幅装置である昇圧トランスがユニットのすぐ後ろにあります。一般的なMCカートリッジの出力電圧は0.2~0.5mV程度ですが、ユニットに直結された昇圧トランスを通して数倍の値まで上げ、電圧が上がった状態でアームやフォノケーブルに音声信号を通すことで、端子やケーブルなどで発生する直流抵抗の影響を受けづらくなります。GTシリーズ特有のエネルギッシュな音色はまさに、このトランス内蔵という仕様の賜物でもあります。

下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、SPU GTシリーズについて解説しているものです。先に述べたトランス内蔵の利点やシリーズの特徴など、非常に踏み込んだ内容についても述べられておりますので併せてご参照ください。


SPUシリーズのセッティング方法について

SPUシリーズのセッティングを行う際は、通常のカートリッジのようにアームの高さ調整を行い、ゼロバランスを合わせて針圧調整を行うという一般的な手順は共通です。しかし、SPU特有の仕様を鑑み、注意するべき点が3つあります。それらの内容について、以下にご説明していきます。

Ⅰ.ユニバーサル型トーンアームでの使用

ユニバーサル型コネクターを装備したトーンアーム、Ortofon AS-212R

SPUシリーズは、Royal Nを除きトーンアームのユニバーサル型コネクター(上の写真)に対応したシェルに入った状態となっています。このため、シェルとアームパイプが一体となった、カートリッジをアームに直接取り付けるタイプのトーンアームに使用することはできません。

Ⅱ.アームの対応自重に注意

SPUシリーズの自重は、Gシェル・Aシェルともに28~35g程度の幅となっています。これは一般的なレコードプレーヤーに取り付けられているトーンアームにとっては重量過多である場合がほとんどで、多くの場合は上の写真に示したオルトフォンASシリーズ用のウェイトのような、重量級カートリッジ用のオプションウェイトや追加ウェイトを必要とします。

SPUシリーズをご使用の場合は、お手元のプレーヤー、もしくはトーンアームのスペック表や取扱説明書に記された対応自重の値をご確認の上、必要に応じてご対応下さい。

なお、多くの場合、トーンアームのオプションウェイトや追加ウェイトは汎用が効かず、トーンアームごとの専用設計となっている場合が多くみられます。また軽質量なカートリッジ専用に設計されたトーンアームに重量級のSPUを無理に取り付けた場合、過大な負荷をかけてアームの軸受機構を破損する場合もありますので十分にご注意ください。

Ⅲ.オーバーハング調整について

SPUは先述のGTシリーズでご紹介した図のとおり、シリーズ専用ヘッドシェルユニット(一般のカートリッジ本体にあたる部分)が固定され、ほぼ一体構造となっています。そして一般のヘッドシェルとカートリッジのように、カートリッジ本体を前後にスライドさせることは構造上不可能です。

このため、トーンアームにSPUを取り付けた際は、一般的にオーバーハングの微調整をすることができません(SME社製アームのようにスライドベースでアーム中心軸位置を調整できるもの、プレーヤー側でアーム位置の微調整ができるものを除く)。

これはSPUが開発された1950年代に、カートリッジとトーンアームが総称してピックアップ、またはピックアップシステムと呼称されていたことに起因します。SPUの名称がステレオ・ピック・アップの頭文字から取られたことがその最たる例であるように、当時は一般的にカートリッジとトーンアームは分割された2つの製品ではなく、ひとつのピックアップという製品であると認識されていました。よって、当然ながらSPUにも専用トーンアームであるRMG/RMAシリーズ(下図)が存在し、当時はこれらとセットで運用することが前提とされています。

当時は単体製品として設計されたトーンアームに様々なカートリッジを接続して楽しむというオーディオ文化はまだ存在せず、SPU誕生後に登場したSME社のトーンアームを嚆矢として、現在一般的となったカートリッジ交換を行って音色を楽しむ文化ユニバーサル型コネクターが普及したといわれています。なお、SME社のトーンアームに使用されたユニバーサルコネクターはSPUのシェル端子にあわせてつくられたという説もあり、現在のアナログオーディオの隆盛にはSPUが寄与していると言えるかもしれません。

SPUの針先からシェルコネクター根元(位置は上図参照)は、誕生時から変わらず52㎜です。これは後にオルトフォンのシェル一体型カートリッジであるConcordeMC Xpression(下図)にも引き継がれ、現代まで用いられている自社規格となっています。

こういった経緯により、SPUを適切な針先位置でセッティングするためには上記の52㎜に対応した位置に取り付けられているトーンアームを使用する必要があります。プレーヤーの取扱説明書やトーンアームの取付位置をよくご確認の上で、この仕様に沿った、あるいはなるべく近い位置でご使用頂くことを推奨します。

最後に、SPUのセッティング例としてTechnics SL-1200シリーズでSPUを使用する方法についてご紹介します。下の動画を参照の上、ご参考となれば幸いです。


カートリッジについて Vol.15へ続く

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