ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2021.11.29
カートリッジ

カートリッジについて Vol.11 SPU編Ⅰ

このページでは、「カートリッジについて」のVol.11をお送りします。

本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォンのMCカートリッジ全ての祖となったSPUに関する内容の記述を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

ステレオ・ピック・アップ

オルトフォンにとって、SPUとは単なる「レコード針」ではありません。誕生から60年以上を経てなお、このMCカートリッジはオルトフォンの象徴として現行製品のラインナップにあり続けインプルーブメントされたモデルや最先端技術をふんだんに盛り込まれたハイエンドモデルなどからなる多彩な製品群を構築しています。

ステレオ・ピック・アップ(Stereo Pick Up)の頭文字3文字を冠してSPUと名付けられたこのカートリッジは、これまでに多くのレコードファンやオーディオファンからの様々な評価を頂いてきました。すでに人口に膾炙しているものとしては、重厚にして骨太、艶やかで芯の通った特有のサウンドで、これはSPUからしか出てこないものである、というものが挙げられます。そして今日に至るまで、これこそがSPU、そしてオルトフォンの音であり、ひいてはアナログサウンドのあるべき姿であると断言する方も少なくありません。

半世紀以上前に日本で初めてSPUが紹介された時、オーディオファンの間でも非常に話題となったといわれています。その時代を直接知る生き証人にして、アナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が当時の様子を語ったのが下の動画ですので、あわせてご参照ください。

SPUの開発前夜

オルトフォンのデンマーク本社によると、SPUは1958(昭和33)年に発表されたと記されています。その前年末に米国でステレオLP盤の量産がスタート(発売は翌年)したばかりであることを鑑みると、オルトフォンの動きは極めてスピーディーであったように思えますし、何もないところから突如としてステレオカートリッジのSPUが誕生したという印象を抱くこともあるでしょう。

しかし実際には、SPUの誕生に至るまでにオルトフォンの技術陣が総力を挙げて様々な方向からアプローチを行い、試行錯誤を繰り返した一大開発史がありました。

すでにご紹介したとおり、オルトフォンは1940年代末のモノラルLP実用化に合わせ、レコード盤を刻むカッターヘッドと検聴用のカートリッジType-Cを開発しました(下図はType-Cを原型機とするCG/CAシリーズのユニット構造図)。

これらで培った当時最先端の技術を活用して開発されたのが、Type-SCと呼ばれたシリーズのステレオカートリッジです。下図に示したものはType-SCのうちC100と呼ばれた製品の内部構造を示したもので、モノラルカートリッジのType-Cで使用された構造のアーマチュア(コイル巻芯)2本(Type-Cのアーマチュアはモノラル仕様のため1本)を左右45度にそれぞれ傾け、サファイアを使用した精緻なベアリングを搭載した中心軸の部分とカンチレバーを一体とすることで上下左右にスムーズに稼働させ、ステレオ盤の音溝をトレースする構造となっていました。  

この極めて複雑な振動系をもつType-SCは、来たるステレオ時代を担う高性能カートリッジとして大いに期待されましたが、レコード会社でプレスされた盤の検聴や放送局での使用など、業務用途に使用するにはあまりに繊細すぎるという弱点がありました。これもあり、オルトフォンの技術陣はType-SCの開発を進めつつ、更に合理的で信頼性の高い構造を模索することとなります。


SPUで完成された「オルトフォン・タイプ」の磁気回路

上図はSPUの磁気回路を示したものです。当時はカートリッジ、ヘッドシェル、トーンアームを総称してピックアップ、もしくはピックアップシステムと呼称することが一般的だったためシンプルに「ステレオ・ピック・アップ」と名付けられた本機は、先述のType-SCで得られた知見もふんだんに取り入れて開発されました。

後に「ミスター・SPU」と称されたエンジニア、ロバート・グッドマンセンをはじめとする当時の技術陣が総力を挙げ、あらゆる試行錯誤を重ねた末に誕生したSPUの磁気回路は、コーン紙やドームを用いたダイナミック型のスピーカーユニットのように基本構造が現在に至るまで変化していません。そればかりか、この磁気回路は「オルトフォン・タイプ」という固有名詞をもって称されるほどに後世の規範となりました。

「オルトフォン・タイプ」の磁気回路の特徴はすでに述べましたが、あらためて説明しますと以下の内容に要約されます。

V字型の直角で刻まれた45-45方式のステレオレコードの音溝に合わせて左右2チャンネル分のコイルの巻かれた四角形のアーマチュアを菱型、機種によっては十字型のアーマチュアをX字型に配置。

アーマチュアの中心に取り付けられたサスペンションワイヤーを、ダンパーゴムを通した上で磁気回路に固定。

アーマチュアにはカンチレバーも取り付けられ、先端のスタイラスチップが盤の音溝からピックアップした音声信号がカンチレバーを伝い、根元のアーマチュアを動作させて発電を行う(音声信号を発生させる)。

アーマチュアを固定するサスペンションワイヤーは、中心にワンポイントで取り付けられているため、アーマチュアとカンチレバーは上下左右を問わず自在に動く。

(開発された当時としては)非常にトレース能力が高く、軽針圧であったためレコード盤の摩耗を懸念する必要がなかった。

この磁気回路は、後に小型化によって省スペース化されたものや、高精度・ハイパワー化されたモデルも開発され、SPUのそれと共に今なお現役の第一線にあります。

また、下の動画は本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、SPUで完成された「オルトフォン・タイプ」の磁気回路について解説しているものです。この磁気回路の利点や特徴、印象について述べられておりますので、あわせてご参照ください。


SPUのAシェルとGシェルについて

上の写真はどちらもSPU Royalですが、ヘッドシェルの形状によりAシェル(左)Gシェル(右)に区別されます。このように、SPUにはAシェルとGシェルの2つの規格があり、アームへの取付時や針交換の際にはお手持ちのSPUがどちらのモデルであるかを認識する必要がある場合があります。

また、SPU専用トーンアームであるRMA/RMGシリーズは、それぞれがAシェル専用(RMA)Gシェル専用(RMG)となっており、アームのパイプ長やゼロバランスのセッティングが専用の規格となっています。そのため、RMAでGシェルを使用したり、RMGでAシェルを使うことは想定しておりません。

そして、一般的なユニバーサル型トーンアームでAシェルを使用する場合、Gシェルに比べると全長が短いため下の写真のように専用のアダプターAPJ-1を使用する必要があります。


なお、スタイラスチップについての解説は「カートリッジについて Vol.2 スタイラスチップ編」を、カンチレバーについては「カートリッジについて Vol.3 カンチレバー編」、磁気回路については「カートリッジについて Vol.4 磁気回路編」、ハウジングについては「カートリッジについて Vol.5 ハウジング編」、コイル巻線については「カートリッジについて Vol.6 コイル巻線編」、ダンパーについては「カートリッジについて Vol.7 ダンパー編」、WRD・WRADについては「カートリッジについて Vol.8 WRD・WRAD編」、モノラルカートリッジ初級編については「カートリッジについて Vol.9 モノラル編Ⅰ」、モノラルカートリッジの針先については「カートリッジについて Vol.10 モノラル編Ⅱ」をご参照ください。


カートリッジについて Vol.12へ続く

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