このページでは、「カートリッジについて」のVol.29をお送りします。
本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォンのMC Xシリーズについての説明を行います。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
前ページでは、オルトフォンのMC型カートリッジであるMC Qシリーズの後継モデル、MC Xシリーズに共通する仕様についての紹介と解説を行いました。このページでは、シリーズの各機種4モデルの仕様と特徴について述べるとともに、オルトフォンのMC10・20・30シリーズのナンバーそれぞれに込められた想いと長きにわたって愛された歴史についても解説します。
オルトフォンは数多くのMC型カートリッジを生産していますが、これら全てのエントリーモデルとなるのがMC X10です。しかしながら、前ページで解説したXシリーズ共通の仕様は全て本機にも採用されています。そういった点で、MC X10というカートリッジに対する我々の妥協はありません。
MC X10では、王道のアルミカンチレバーと接合型(後述)の楕円針を採用しています。これによりエネルギッシュで豊かな量感といった、いわゆるアナログ「らしい」サウンドの表情も残しつつ、最新鋭のMC型カートリッジと呼ぶにふさわしい音抜けの良さや定位感も得ています。レコードファンの方が最初に使うMC型として、またベテランの皆様がアナログオーディオを再開する際のカートリッジとしても、本機は十二分の性能を誇ります。
なお下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、スタイラスチップの形状によって発生しうる歪みについて述べているものです。この「位相ひずみ」と「ピンチ効果ひずみ」の発生する度合いは針先の形状によって異なり、特に丸針と楕円針では大きな差がみられます。この差はそのまま楕円針の利点にもつながりますので、別項「丸針と楕円針など、針先の形状で音が変わる理由」とあわせてお目通しください。
MC X20では、アルミカンチレバーに無垢(構造は下図参照)の楕円針を用いました。これにより針先の実効質量が小さく(軽く)なったことに加え、無垢針にのみ可能であるハイスピードな振動の伝送を可能としています。そのため、X10以上にクリアで明瞭、かつ立ち上がりの速いサウンドを楽しむことができます。加えてハニカムステンレスフレームを採用したことで本体の剛性が大幅に強化され、SPUシリーズともまた異なる腰の据わった低音が魅力的なカートリッジとなりました。
なお、歴代MCシリーズのうち「20」というモデルは、1960年代に発表されたS-15およびSL-15シリーズの後継モデルとして構想が練られ、1970年代からオルトフォンのチーフエンジニアをつとめたペア・ウィンフェルド氏を開発責任者として誕生しました。初代モデルの登場から約半世紀を経た現在もなお、多くの皆様に愛用され続けているMC型カートリッジの金字塔です。
MC X30では、同じくアルミカンチレバーに高性能な楕円針の一種である無垢ファインライン針を用いています。これにより、無垢楕円針のX20以上に再生音の繊細さや滑らかさ、レンジ感が向上しています。
「30」というナンバーは、これまでMC10・20・30シリーズの最上位モデルに与えられてきました。その祖となった初代MC30は、このX30と同一のアルミカンチレバー・無垢ファインライン、銀線コイルを使用していたため、本機は21世紀の最新技術を得て蘇ったネオ・MC30であるとも言えます。銘機とうたわれた初代MC30の栄光は揺るぎませんが、40年以上の年月を経て、カートリッジや磁気回路の性能と加工技術、そして音色のクオリティもまた格段に進化しました。その事実を、十分に実感できるカートリッジです。
MC Xシリーズではこれまでの10・20・30だけでなく、その上位モデルとなるMC X40が加わりました。かつてオルトフォンのフラッグシップであったMC Jubileeと同一のボロンカンチレバー/無垢シバタ針という構成をもつ本機は、まるでハイエンドモデルのような高解像度とワイドレンジ、音の立ち上がりの速さを誇ります。
また、ボロンとシバタ、高純度銀線の相乗効果によって極めて鮮明なサウンドを特徴としており、これは新世代のMC型カートリッジのあり方を示すものでもあります。
なお下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、シバタ針の開発経緯について述べているものです。こちらもあわせてお目通しください。