このページでは、Technics SL-1200シリーズでSPUなどの重質量なカートリッジを使用する際の方法や注意点についての解説を行います。
本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、重質量なカートリッジのセッティングやその注意点についての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
本項では、重質量カートリッジの一例としてオルトフォンのSPUシリーズを挙げ、これを比較的入手が容易なレコードプレーヤーに装着して使用する方法を解説します。
その前に、重質量カートリッジを使用する際の注意点を述べてゆきます。SPUシリーズを含む重質量なカートリッジは、トーンアームに取り付けた際にその対応自重を超過し、ゼロバランスが取れないケースが多くみられます。このパターンは特にプレーヤーとトーンアームが一体となっている廉価な製品や、軽針圧なカートリッジの使用を前提とした単品トーンアーム(1960年代後半~80年代の製品に多い)などで顕著です。
これらの製品に無理やり重質量なカートリッジを装着すると、適正な針圧を得ることができずにレコード盤やカートリッジの針先、トーンアームの可動機構を痛める恐れがあります。そのため、重質量カートリッジを使用する際は必ず使用しているプレーヤーもしくはトーンアームの取扱説明書で対応自重を確認するようにしましょう。
このように、質量の大きい(重い)カートリッジを使用する際には確認すべき事項があるなど、手軽に楽しむには障壁があるのも事実です。しかし、SPUなどの重質量カートリッジを手軽かつ簡単に使用する方法が皆無というわけではありません。
今回、本項でSPUの取付先として選択したプレーヤーは、ダイレクトドライブ式フォノモーターを使用したTechnics SL-1200シリーズです。
現行シリーズが存在し入手性もよく、また初心者でも取り扱いが容易なSL-1200シリーズは、プレーヤーに装着されたトーンアームの後端にサブウェイト取付用のネジ穴があります(初代モデルのSL-1200を除く)。ここにサブウェイトを装着すると、未装着時に比べてはるかに広い範囲のカートリッジ自重に対応することが可能となります。その方法を、以下に解説してゆきます。

1970(昭和45)年、松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社、ともに敬称略)のTechnicsブランドから、世界初のダイレクトドライブ方式ターンテーブル(フォノモーター)SP-10が発表されました。2年後には同じくダイレクトドライブ方式を用いたプレーヤーのSL-1200(初代モデル)が発表され、現在に至るまで数多くのレコードリスナーやDJに愛用され続けています。
1972年にSL-1200初代モデルが発表されたとき、これに搭載されているトーンアームは(取り付けるカートリッジの)針先→シェル後端間52㎜にあわせて開発されました。この仕様をもつのが、他ならぬSPUシリーズです(下図参照)。

SL-1200シリーズ側の仕様は、Mk2以降の現行モデルに至るまで継承されています。これにより、SL-1200シリーズのトーンアームにSPUシリーズを取り付けると、調整を行わなくとも適正な針先位置を得ることが可能となります。こういった点で、SL-1200シリーズは重質量カートリッジの代表格であるSPUシリーズのパートナーとしての適性が高いプレーヤーといえます。
なお余談ではありますが、SPUシリーズに端を発するオルトフォンの針先→シェル後端間52㎜の仕様は、DJやリスニング用途に多用されるConcordeシリーズでも継承されました。これにより、Concordeシリーズも1200シリーズに取り付けただけで針先のオーバーハングを適正位置に合わせることができます。これは、DJ用のConcordeがSL-1200シリーズで多用されている理由のひとつでもあります。
SL-1200シリーズには、かつて純正の重質量サブウェイトのセットSH-1200W-S(生産完了)があり、この中のSPU用ウェイトを使用すると自重30~33gまでの重質量カートリッジを使用することができました。このSPU用サブウェイトを装着した際の使用方法を解説しているのが、下の弊社公式YouTube動画です。
しかしながら、このSPU用ウェイトは(ヘッドシェルを含む)自重33gまでのカートリッジであれば対応可能ですが、これ以上の重量級カートリッジは対象外となります。オルトフォンは、これらにも対応可能なサブウェイトの開発を急務として取り組み、自重38gまでのカートリッジに余裕をもって対応することが可能なサブウェイトを発表しました。

オルトフォンが2024年に発表したOP-1200-SPUは、SL-1200シリーズのトーンアーム後端に装着してSPUなどの重量級カートリッジを使用するためのサブウェイトです。
なお、本モデルは初代モデルを除くSL-1200シリーズ用として開発されましたが、その後の検証により現行モデルのSL-1000R純正アーム、またSL-1300G、SL-1500Cでの使用も可能と判明しました。これらのモデルでも、OP-1200-SPUの使用によって重質量カートリッジを楽しむことが可能となります。

ここからは、SL-1200シリーズにOP-1200-SPUを取り付けた際のウェイト装着目安を解説してゆきます。
上の写真で示した通り、OP-1200-SPUはメインウェイトと追加ウェイト「小」および「大」との併結もしくは単独使用によってヘッドシェル+カートリッジの合計自重28~38gまでの製品を使用することができます。
SPUシリーズを例とした場合、軽量なSynergy(自重28g)やClassicシリーズ(30g前後)はメインウェイトのみでの使用が可能ですが、自重34gのGTE 105は追加ウェイト「小」の併結が必要となります。更に重量級となる37gのGTXシリーズの場合は、追加ウェイト「小」を外し「大」へ交換することで使用が可能となります。
なお、上記の対応一覧はあくまでも目安値です。実際の使用にあたっては、歴代SL-1200シリーズの仕様差や個体ごとのカウンターウェイト重量差などにより上記対応一覧から若干の差異が発生する可能性もあります。
また、本製品使用時に加圧可能な針圧の最大幅(目安値)は3.5~5.0gです。一部で最大針圧4.0gまでとなる個所もあります。
各ウェイト使用時に対応するカートリッジの例としましては、下記をご確認ください。
ⅰ.メインウェイトのみ:自重28~32g(目安)

上記の通り、OP-1200-SPUのメインウェイトのみ(追加ウェイトを併結しない)の状態では、ヘッドシェルを含むカートリッジ自重28~32gの製品に対応しています。SPUシリーズにおける対応機種例としては、以下の4機種が挙げられます。
・メインウェイトのみ装着時の対応機種例
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ⅱ.メインウェイト + 追加ウェイト「小」:自重32~36g(目安)

上記の通り、OP-1200-SPUのメインウェイトに追加ウェイト「小」を併結するとヘッドシェルを含むカートリッジ自重32~36gの製品に対応します。現行SPUシリーズのうち、この区分にはSPU GTE 105が当てはまります。
・メインウェイト+ 追加ウェイト「小」時の対応機種例

ⅲ.メインウェイト + 追加ウェイト「大」:自重36~38g(目安)

上記の通り、OP-1200-SPUのメインウェイトに追加ウェイト「大」を併結するとヘッドシェルを含むカートリッジ自重36~38gの製品に対応します。現行SPUシリーズのうち、この区分にはSPU GTX S/EとCG25/65Di MKⅡが当てはまります。
・メインウェイト+ 追加ウェイト「大」時の対応機種例(目安)
