ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2023.01.18
トーンアーム

トーンアームについて Vol.2 基礎編Ⅱ

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時に使用するトーンアームについての概要をご紹介します。

トーンアーム調整方法について重点的に扱っていたり、基礎的な内容について解説したページもございますので、先に「トーンアームの調整方法について」および「トーンアームについて Vol.1 基礎編Ⅰ」のお目通しをお勧めします。


Ⅰ.スタティック・バランスとダイナミック・バランス

トーンアームは、ほぼ全ての機種がスタティック・バランス型ダイナミック・バランス型の2つに大別されます。それぞれの機構や動作原理などについては次項以降で解説しますので、ここではその基礎となるポイントのみ述べてゆきます。


ⅰ.スタティック・バランス型

スタティック・バランス型トーンアーム、Ortofon AS-212R


スタティック・バランス型トーンアームの基本構造


スタティック・バランス型トーンアームの特徴は、構造が非常にシンプルで(一部を除く、基本的な構造のアームの場合)調整が容易であることが第一に挙げられます。基本構造はほぼ全てのアームで同一のため、調整時の操作方法が似通っています。トーンアームが取り付けられた状態で販売されているレコードプレーヤー(例:Technics SL-1200シリーズなど)の付属アームは、ほとんどがスタティック・バランス型です。

Technics SL-1200M7Lに取り付けられているスタティック・バランス型トーンアーム


スタティック・バランス型トーンアームについての更なる詳細は、「トーンアームについて Vol.3 スタティック・バランス編」をご覧ください。



ⅱ.ダイナミック・バランス型

ダイナミック・バランス型トーンアーム、Ortofon RSG-309(生産完了)


ダイナミック・バランス型トーンアームの基本構造


ダイナミック・バランス型トーンアームの最大の特徴は、バネなどを用いて針圧の加圧を行う点にあります。そのため、カウンターウェイトは基本的にゼロバランスの調整のみに用いられ、針圧の加圧を行うために動作させることはありません。

そして最もシンプルな機構のダイナミック・バランス型トーンアームの例として、下図のOrtofon RMG-309を示すことができます。本機はアーム中心部分とカウンターウェイトの間にうず巻き状のスプリング(バネ)が張られており、カウンターウェイト後端の針圧目盛ノブを回すことでスプリングが引っ張られ、針圧が加圧される仕組みとなっています。

針圧加圧用スプリングの使用例(Ortofon RMG-309)

ダイナミック・バランス型トーンアームについての更なる詳細は、「トーンアームについて Vol.4 ダイナミック・バランス編」をご覧ください。


そして、下の動画は本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老澤 徹 先生がトーンアームの構造とカートリッジとの相性について解説しているものです。本項に書かれた内容についても詳しく述べられておりますので、あわせてご参照ください。



Ⅱ.トーンアームのオプションウェイトについて

Ortofon AS-212R/309Rのカウンターウェイト

トーンアームは一種の天秤でもあるため、ゼロバランス調整時に水平を取るためにはカートリッジやヘッドシェルなど(以降、便宜上「ヘッド部分」と呼称)の質量にあわせてカウンターウェイト自体の質量も対応させる必要があります。その結果、多くのトーンアームではアーム後端に取り付けられたカウンターウェイトを差し換えたり、質量追加用の小型ウェイトを増結することが可能な構造となっています。オルトフォンのAS-212R/AS-309Rでは、下の写真のように標準ウェイトと重量ウェイトの2つが用意されており、必要に応じてウェイトを差し換えることで様々な質量のヘッド部分に対応しています。

Ortofon AS-212Rトーンアームの標準ウェイト(右)と重量ウェイト(左)


その具体的な例として、ここではオルトフォンの3種類のカートリッジを挙げて各機種に対応するカウンターウェイトを解説してゆきます。

ⅰ.Concorde MkⅡ Elite

ヘッド部分の自重18.5gのOrtofon Concorde MkⅡ Elite

Concorde MkⅡ Eliteはヘッドシェルとカートリッジ本体が一体型となっており、ヘッド部分はスペック上18.5gです。これはオルトフォン製品だけでなく多くのカートリッジの中でも軽量な部類に属するため、AS-212/309Rでの使用時に適合するカウンターウェイトは標準ウェイトです。

ⅱ.MC Diamond+LH-10000

ヘッド部分の自重33~34g程度のOrtofon MC Diamond+LH-10000

MC DiamondLH-10000ヘッドシェルは、取付ネジやリードワイヤーなどを含むとヘッド部分は合計で33~34g程度となります。オルトフォン製品だけでなく、多くのカートリッジの中でも重質量となるため、AS-212/309Rでの使用時に適合するカウンターウェイトは重量ウェイトです。

ⅲ.SPUシリーズ

ヘッド部分の自重28~35g程度のOrtofon SPU/CGシリーズ

重質量なカートリッジとして有名なSPUシリーズは、機種にもよりますがヘッド部分は28~35g程度となります。本シリーズ以上に重質量なカートリッジはほぼ存在せず、またAS-212/309Rの標準ウェイトが対応するヘッド部分の自重は26gまでにつき、シリーズ全体に適合するカウンターウェイトは重量ウェイトとなります。

なお、ここまではオルトフォンのAS-212/309Rを例として解説を行いましたが、このトーンアームはSPUなどの重針圧・重質量なカートリッジも再生できるよう堅牢に設計された製品です。しかしトーンアームの中には軽針圧・軽質量なカートリッジに合わせて設計されている製品も多く、それらはカートリッジに合わせて徹底した軽質量化が施されている場合があります。このようなトーンアームにSPUなどの重質量・重針圧なカートリッジを無理に取り付けて再生すると製品本来の性能を発揮できないばかりか、過度の荷重によって高精度なベアリング部分を破損するなどして使用不可能となる恐れもあります。トーンアームのウェイト質量を増すことを目的として、ベテランのレコードリスナーの間ではカウンターウェイトに鉛板などを巻くなどの方法が伝わっています。しかし、これはお勧めできかねます。トーンアームのスペック値で定められた対応自重(下記の「Ⅲ.トーンアーム関連の用語解説」ⅵを参照)を超えた範囲で製品を使用すると、先に述べた機構部の破損以外にもカートリッジに過度な負荷を与えてしまったり、再生音が歪むなどの症状が発生する恐れもありますのでお控えください。

Ⅲ.トーンアーム関連の用語について

ここからは、トーンアームの取付や調整時に必須となる用語の解説を行います。ここに挙げた6つの用語は一般的に取り違えて理解されていることが多く、また用語によっては製品の取扱い各社でその意味が異なる場合もあります。そのため本項ではその混乱状態を整理する意図も含みつつ、各用語の意味を述べてゆきます。

なお、別ページの「トーンアームについて Vol.8 用語一覧と解説編Ⅰ」および「トーンアームについて Vol.9 用語一覧と解説編Ⅱ」では、さらに詳細な内容の解説を行っています。

下記ⅰ~ⅴまでの位置関係を示した図



ⅰ.センタースピンドル

レコードプレーヤーのうち、回転する円盤部分(プラッター)の中心にはレコード盤の穴を挿すための軸が立っており、これを「センタースピンドル」と呼びます。

センタースピンドルはレコード盤を挿す用途だけでなく、トーンアームやカートリッジ取付時の位置決めを行う際の基準点にもなっています。この後で述べるオーバーハング有効長/実効長はこのセンタースピンドルを起点としています。


ⅱ.スタイラスポイント(針先位置)

Ortofon 2M Redの針先を拡大してスタイラスポイントを示した写真

カートリッジをヘッドシェルに取り付ける際やオーバーハング(後述)調整時に重要となるのが「スタイラスポイント」です。このスタイラスポイントは日本語では針先位置と表記される場合もあり、その位置を厳密に定義するとカートリッジのカンチレバー先端ではなく、スタイラスチップとレコード盤が接触しているポイントを指します。


ⅲ.オーバーハング

Ortofon AS-212Rを例とし、オーバーハングの位置を示した図

先に述べたセンタースピンドル→スタイラスポイント間を指して、「オーバーハング」と呼称します。なお一般的なトーンアームのオーバーハングは(基本的に)15㎜前後ですが、オルトフォンのAS-212R(18㎜)/309R(12.5㎜)のように、同一メーカーの製品でも機種やショート/ロングの違いでオーバーハングの値が異なることがありますので確認が必要です。そして、このオーバーハングはトーンアーム(もしくはトーンアームが取り付けられたレコードプレーヤー)に対して定められたスペック値のため、カートリッジによって変わることはありません。

また、製品のスペックで定められたオーバーハング値を極端に逸脱すると、レコード盤の音溝とスタイラスチップが接触する角度が変わってしまい再生音に影響が出る恐れもあります。病的なまでの高精度を求める必要はありませんが、ある程度は合わせるように意識しましょう。

ⅳ.「有効長」および「実効長」

この用語はトーンアームおよびレコードプレーヤーの取扱い各社で示している意味が異なっており、基本的には以下の2つに大別されます。

①:プレーヤーのセンタースピンドルからトーンアームの固定軸中心までの距離を示したもの(オーバーハングを含まない)

②:カートリッジ取付時のスタイラスポイントからトーンアームの固定軸中心までの距離を示したもの(オーバーハングを含む)

この2つについて、それぞれ「有効長」や「実効長」と記されていたり、もしくは片方のみの記載となっている事例が見受けられます。これは「有効長」および「実効長」の英語表記であるEffective lengthの日本語への翻訳時に生じた表記ゆれに起因するものと考えられます。そして海外での表記例としては、デンマークのオルトフォン本社がこのEffective lengthを上記②の意味として表記しています。

オルトフォンジャパンでは日本語表記時の混乱を避けるため「有効長」および「実効長」の表記を廃し、上記①部分についてを「アーム軸中心→センタースピンドル」と表記して製品スペック上に列挙しています。


ⅴ.スタイラスポイント(針先位置)→ヘッドシェル後端間の距離

スタイラスポイント→ヘッドシェル後端間の具体的な位置と、その間隔を示した例

トーンアーム(もしくはトーンアームが取り付けられたレコードプレーヤー)によっては、カートリッジをヘッドシェルに取り付ける際の位置が指定されている製品があります。これは先に述べたオーバーハング位置の調整を容易にすることを目的としており、多くの場合は上の写真のように、スタイラスポイント→シェルコネクターを除くヘッドシェル後端(黒のゴムリングが付いている場合はリングも含む)の間隔が指定されています。一般的に、この部分の間隔は48㎜~54㎜程度に指定されている場合が多いですが、オルトフォンのAS-212/309RやRSG-309、RMG/RMAシリーズやTechnics SL-1200シリーズなどではここを52㎜に指定しています。

その理由は、オルトフォンのSPUシリーズやConcordeシリーズ特有の仕様にあります。これらのシリーズはカートリッジ本体とヘッドシェルが一体となっているためスタイラスポイントが完全に固定されており、一般的な製品のようにヘッドシェル上でカートリッジをスライドさせてスタイラスポイントを調整することは出来ません。

オルトフォンのSPUシリーズは、針先→シェル後端間が52㎜で固定となっている
Ortofon MC Xpressionの外形寸法図

そのため、上図で示したSPUシリーズやMC Xpressionのような一体型カートリッジの使用を想定して、オルトフォンのトーンアームはスタイラスポイント→シェル後端を52㎜に設定している製品が多数を占めます。このような一体型カートリッジと一般的な本体・ヘッドシェル分割式のカートリッジを併用する場合は、一般的なカートリッジの位置を一体型と同一に合わせておくことを推奨します。


ⅵ.対応自重

ユニバーサル型アームの「対応自重」はカートリッジとヘッドシェルの合計値

トーンアームのスペック一覧に掲載された「対応自重」は、多くの場合は上述の「Ⅱ.トーンアームのオプションウェイトについて」で述べたヘッド部分(カートリッジ本体+ヘッドシェルや取付ネジなど)を取り付けた際、実際に使用可能な重量の範囲を示したものを指します。また、ヘッドシェルが付属品となっているユニバーサル型トーンアームの場合は、付属のシェルを使用した際の前提値が記されている場合もあります。オルトフォンのAS-212/309Rを例にとると、標準ウェイト使用時には18~26g重量ウェイト使用時には26~38gとなります。ヘッド部分の重量がこの範囲未満であったり、超過している場合は製品の仕様外となるため、使用は控えましょう。

ヘッドシェル一体型の場合、「対応自重」は取付可能なカートリッジの自重を指す

また、ヘッドシェル一体型トーンアームの場合、対応自重は取付可能なカートリッジ本体の自重を指します。

いずれの場合も、カートリッジやヘッドシェルのスペックに記載された自重をよく確認した上でトーンアーム側の対応自重の範囲内で取り付けるようにしましょう。


トーンアームについて Vol.3 スタティック・バランス編に続く

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