ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2023.02.10
トーンアーム

トーンアームについて Vol.3 スタティック・バランス編

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時に使用するトーンアームのうち、「スタティック・バランス型」のトーンアームについての解説を行います。トーンアーム調整方法について重点的に扱っていたり、基礎的な内容について解説したページもございますので、先に「トーンアームの調整方法について」および「トーンアームについて Vol.1 基礎編Ⅰ」「トーンアームについて Vol.2 基礎編Ⅱ」のお目通しをお勧めします。

Ⅰ.スタティック・バランス型とは

スタティック・バランス型トーンアーム、Ortofon AS-212R/309R

先の「基礎編Ⅱ」でも述べたとおり、スタティック・バランス型トーンアームの特徴は非常にシンプルな構造と、それに起因してゼロバランスや針圧の調整が容易であることが挙げられます(一般的なトーンアームの場合)。基本的にはアーム後端に取り付けられたカウンターウェイト1つでゼロバランスや針圧の調整を行うことが可能ですが、トーンアームによってはゼロバランス調整用のウェイトと針圧加圧用のウェイトが分割されていて個別の調整が必要な製品(代表例:英SME社製トーンアームの一部)もあります。

またスタティック・バランス型トーンアームは、次ページで述べるダイナミック・バランス型のトーンアームに比べて構造の上では高感度となり、また軽質量・軽針圧なカートリッジや軽量なヘッドシェルとの相性とも良い傾向にあります。特に適正針圧が2g以下のMM型カートリッジを使用する際は、なるべく実効質量を低減させる(カートリッジ・ヘッドシェル・アームパイプやウェイトを含む、アーム可動部を軽くする)ことが望ましいため、このような軽質量・軽針圧なカートリッジを多用する場合はスタティック・バランス型トーンアームの使用を推奨します。

Technics SL-1000R付属のスタティック・バランス型トーンアーム

なお、トーンアームの機構や仕様によっては重針圧・重質量のカートリッジを再生することも可能です。その場合は、カウンターウェイトを重針圧・重質量カートリッジに対応した重量ウェイトに換装する(Ortofon AS-212R/AS-309Rなどの場合)、サブウェイトを追加する(Technics SL-1000R付属アームなどの場合、上の写真)などの対応を行う必要があります。そして、このようなカートリッジを装着するトーンアームは堅牢かつ(結果的に)ある程度の質量があることが望ましいといえます。また、トーンアームのスペック一覧にある対カートリッジの対応自重を確認することも重要です。

Technics SL-1200M7L付属のスタティック・バランス型トーンアーム

そして、DJ用途に用いられるターンテーブル(Technics SL-1200シリーズなど)に取り付けられているトーンアームは、調整時の簡便性を考慮してほぼ全てがスタティック・バランス型となっています。

Ⅱ.スタティック・バランス型トーンアームの基本構造

スタティック・バランス型トーンアームの基本構造

上の図で示しているように、スタティック・バランス型トーンアームはカウンターウェイト(メインウェイト)の位置移動でカートリッジとの質量バランス調整と針圧の加圧を一括して行っています。そのため、トーンアーム側の機構を単純化することが可能で、針圧調整時の手順も簡単かつ多くのトーンアームで共通です。

カウンターウェイトを回してゼロバランス・針圧調整を行う

一般的には、上の写真で示しているようにカウンターウェイトを回転させることで前後移動させ、ゼロバランスを取ったり針圧加圧を行う方式が多数を占めます。ウェイトの位置移動でゼロバランスを取ってカートリッジ側とウェイト側の質量バランスをいったん均一にした後、ウェイトをアーム中心の支点方向に動かしてカートリッジ側に質量のバランスを寄せることで針圧を得ているため、針圧加圧時には双方の質量バランスが均一とはなりません。

そのためレコードプレーヤーに傾きがあるなどの場合、傾斜の低い側に向かってアームが動いてしまう恐れがあります。またダイナミック・バランス型に比べ(理論上は)再生中の外部振動に対しても弱いため、プレーヤー本体の水平調整や設置先の振動対策を綿密に行う必要があります。

これらの点を踏まえた上で、海老澤先生によるスタティック・バランス型トーンアームについての解説を聴くとより一層理解が深まることでしょう。



Ⅲ.オルトフォンのスタティック・バランス型

Ortofon SMG-212/SKG-212 (生産完了)

オルトフォンは、古くからスタティック・バランス型トーンアームの生産・開発を行ってきました。上に示したSMG-212SKG-212は共に放送局やレコード会社の録音スタジオなどでレコードを再生するために設計された業務用のトーンアームですが、これ以上ないほどにシンプルな形状と機構をもったスタティック・バランス型トーンアームの見本のような製品です。これらの製品が生産されていた1950~60年代のカートリッジは現代とは比較にならないほどに重針圧・重質量であったため、本シリーズも針圧の対応範囲を0~10gとしています。また(当時としては比較的軽質量かつ軽針圧であった)SPUシリーズの自重はヘッドシェルを含めると多くの機種で30gを超えますが、大型のカウンターウェイトを備えて重質量なモデルにも十分に対応可能な仕様となっていました。

Ortofon AS-212 MkⅡ (生産完了)の機構部分

その後、時流はカートリッジのローマス・ハイコンプライアンスを徹底して追及するようになります。オルトフォンも1970年代後半に、このような軽針圧・軽質量なカートリッジの再生に対応してアームリフターやアンチスケーティングなども備える現代的なスタティック・バランス型トーンアーム、AS-212を開発します。

Ortofon AS-212(生産完了)

このシリーズは当時主流であったローマス・ハイコンプライアンスなカートリッジでの使用を前提としていたため、カートリッジの対応自重(ヘッドシェル除く)は5~12gという狭い範囲に留まっています。オルトフォンの現行カートリッジと照合すると、MM型の2MシリーズやMC型のMC Qシリーズなど軽質量なカートリッジ以外を使用することができませんが、その一方でアーム全体の自重が390gと極めて軽量で(結果的に)実効質量も軽減されているため、対応自重の範囲内であるカートリッジの再生には極めて理想的なトーンアームです。

このように、トーンアームの開発にあたっては共に使用するカートリッジの自重や針圧などとの兼ね合いが必要不可欠となります。しかしながら、オルトフォンが誇る膨大なカートリッジのラインナップは軽質量なConcordeシリーズ(カートリッジ・ヘッドシェル一体、スペック上の自重18.5g)からSPUシリーズ(同じく一体型、自重28~33g程度)、果てにはCGシリーズ(同じく一体型、自重37g程度)までと極めて広範です。このような場合は、本来であれば先に述べた初代AS-212のような軽質量用アーム・中間用・SPUに対応した重質量用などと最適化したトーンアームを開発することが最も理想的ではあります。

ただ、全ての再生環境でトーンアーム複数本の運用が可能なわけではありません。1本のトーンアームで様々なカートリッジを換装して楽しむこともレコード再生の醍醐味であり、それを望む声が大きいことも運用面を考えると必然ではあります。

Ortofon AS-212R

その結果、これらの点を複合的に考慮して誕生したのが最新型モデルのAS-212R/AS-309Rです。Referenceを意味する「R」を型式に掲げた本モデルは、各部品の素材を使い分けて適切に質量を配分することで広範なカートリッジへの対応を目指しました。

例としては、再生時にプレーヤーに固定されて動作することのないシャフトやその上のベース部分、また支点に当たるセンターシリンダーは堅牢さが求められ、かつ質量の大きさも音質面で有利に働くため真鍮の切削材とし、反対にアームパイプやアーム中心部のハウジングなどは可動部であり、実効質量の軽減が求められるためアルミが用いられています。ただ例外として、アームパイプ先端のヘッドシェルコネクターは部品の機械的強度を考慮して真鍮材を用いています。

オルトフォンには他にもRMG/AシリーズやRSシリーズなど様々なトーンアームがありますが、これらは「ダイナミック・バランス型」に分類されるため次ページ以降で解説を行います。

トーンアームについて Vol.4 ダイナミック・バランス編に続く

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