ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2023.02.13
トーンアーム

トーンアームについて Vol.4 ダイナミック・バランス編

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時に使用するトーンアームのうち、「ダイナミック・バランス型」のトーンアームについての解説を行います。トーンアーム調整方法について重点的に扱っていたり、基礎的な内容について解説したページもございますので、先に「トーンアームの調整方法について」および「トーンアームについて Vol.1 基礎編Ⅰ」「トーンアームについて Vol.2 基礎編Ⅱ」のお目通しをお勧めします。

Ⅰ.ダイナミック・バランス型とは

ダイナミック・バランス型トーンアーム、Ortofon RS-212D(生産完了)

ダイナミック・バランス型トーンアームは、スタティック・バランス型とは異なり主にスプリング(バネ)を用いて針圧の加圧を行うトーンアームを指します。

多くの場合、カートリッジとの質量バランスを取るためのカウンターウェイトはゼロバランスを取るためだけに使用され、針圧の加圧はトーンアームに組み込まれたスプリングが担います。そのためスタティック・バランス型に比べ再生時の安定感が増し(詳細は後述)、再生時に発生する振動やレコードプレーヤーの傾きに対しても耐性が高い傾向にあります。

針圧加圧機構としてスプリングを備えたダイナミック・バランス型トーンアームは、アームパイプやカートリッジの動作にスプリングが介在するためスタティック・バランス型に比べ感度は優れない傾向にあり、軽針圧・軽質量でハイコンプライアンスなカートリッジ(多くはMM型)との相性はあまり良くありません。しかしその一方で重針圧・重質量かつローコンプライアンスなカートリッジ(オルトフォンのSPUシリーズなど、多くはMC型)に対しての相性は良好で、ローコンプライアンスなカートリッジに使用されている頑丈なダンパーゴムを自在に動かすには最適な加圧方式であるといえます。

また基本的にMC型は振動系の支点近くにアーマチュアコイルが含まれるため、ここがマグネットのみであるMM型に比べて針先部分の実効質量(可動部の重量)が重くなりがちで、(MM型に比べ)MC型のコンプライアンスが低めとなる原因のひとつでもあります。この傾向もまた、ダイナミック・バランス型トーンアームと重針圧・重質量なMC型カートリッジとの相性が良い理由のひとつとなります。


さらに上記に述べた機構上の相性を鑑みた結果、ダイナミック・バランス型トーンアームには重質量・重針圧なカートリッジでの使用を想定して非常に堅牢かつ重質量につくられている製品が多くみられます。大まかな目安として、ヘッドシェルとカートリッジを合わせた部分(取付ネジ・リードワイヤーなども含む。便宜上、以降「ヘッド部分」と呼称)が25gを超える重質量なMC型のカートリッジを使用する際はダイナミック・バランス型トーンアームの使用も視野に入れることを推奨します。


Ⅱ.ダイナミック・バランス型トーンアームの基本構造

ダイナミック・バランス型トーンアームの基本構造

先に述べたとおり、ダイナミック・バランス型トーンアームのカウンターウェイトは(基本的に)支点を挟んだ先にあるカートリッジ側との質量バランスを取る、つまりゼロバランスを取るためだけに使用されます。そのため、(針圧加圧後のスタティック・バランス型と異なり)支点を挟んだ両端にあるカートリッジとカウンターウェイトの質量バランスは等しくなります。この状態を保ったままスプリングで針圧の加圧を行うと、双方のバランスが保たれたままで針圧がレコード盤面に印加されます。そのため、トーンアームのゼロバランスと左右のラテラルバランスが完璧に取れていれば、理論上はレコードプレーヤーを垂直に立てたり、天地を逆さまにしてもレコード再生が可能となります。

Ortofon RMG-309(生産完了)を例とした針圧加圧用スプリングの使用方法

またダイナミック・バランス型トーンアームで行われているスプリングでの加圧は、多くの場合アーム中心軸位置とウェイトの間などに張られたスプリングの伸び具合を調整することで加減されます。その代表例となるのが上図に挙げたオルトフォンのRMG-309ですが、アーム中心軸位置とウェイト間に針圧加圧用のスプリングが露出していることが分かります。

Ortofon RMG/RMAシリーズのウェイト機構部図

このRMG/RMAシリーズで針圧加圧を行う場合は、ウェイト後端の針圧目盛が振られたノブ部分を回すことでスプリングがウェイト内部へと引き込まれ、針圧が印加されます。

これらの点を踏まえた上で、海老澤先生によるダイナミック・バランス型トーンアームについての解説を聴くとより一層理解が深まることでしょう。


Ⅲ.オルトフォンのダイナミック・バランス型

Ortofon RMG-212iとSPU 85 Anniversary(ともに生産完了)

オルトフォンのダイナミック・バランス型トーンアームとして最も名高いのは、(事実上)SPUシリーズ専用のアームとして設計されたRMG/RMAシリーズであることは言うまでもありません。しかしこのシリーズについては次ページで詳細に解説することとし、本項ではその他のダイナミック・バランス型トーンアームについて述べてゆきます。

ダイナミック・バランス型トーンアーム、Ortofon RS-212(生産完了)

上の図は、オルトフォンがRMG/RMAシリーズに続いて1960年代に開発したダイナミック・バランス型トーンアームRS-212(初代、生産完了)です。

基本的にSPUシリーズまでのカートリッジ専用であったRMG/RMAシリーズは、ゼロバランスの簡便な調整が不可能であるためにヘッド部分を一定の重量に合わせておく必要があり、この部分の自重が様々なカートリッジを交換しながら併用するというリスニングスタイルには不向きでした。また当時のカートリッジ開発はSPUに比べ軽針圧かつ軽質量な製品であるS-15、SL-15シリーズへと主軸が向けられていたため、これらの要件に対応しつつアームリフターやアンチスケーティングも備え、かつ旧時代の重質量カートリッジも使用可能なトーンアームとして開発されたのが本機です。

Ortofon RS-212(生産完了)の機構部解説

針圧の加圧はRMG/RMAシリーズに引き続いてアーム中心→ウェイト間に張られたコイル状のスプリングで行われましたが、本機ではウェイトの前後移動が可能となっていました。また、ウェイト後端には脱着可能な追加ウェイトが装着されており、カートリッジの自重に合わせてこれを脱着することで様々な製品に対応することを目指しています。しかし、機構の複雑化によってRMG/RMAシリーズのような簡便さは失われ、調整の難しいトーンアームとなりました。

ダイナミック・バランス型トーンアーム、Ortofon RS-212/309D(生産完了)

このRS-212の名を継承し、より簡便な調整が可能となったのがRS-212/309D(生産完了)です。アーム後端にあるカウンターウェイトは天頂部にある銀色の飾りネジでロックされ、これを緩めると前後移動が可能となり、ゼロバランス調整を行うことが可能です。

そして、針圧調整時にはアーム中心のハウジング側面に伸びた針圧加圧ノブを回転させることでスプリングに力が加わり、針圧が印加される仕組みです。本シリーズの取扱い方法については下に示した弊社公式YouTube動画でも解説しておりますので、併せてご参照ください。



また、このRS-212/309Dの発展型モデルとして、スタティック/ダイナミック・バランス両用のハイブリッド型トーンアームとなるRSG-309(生産完了)も開発されました。本モデルはロングアームのみで、支点部分を持ちあげて両端を山なりに降ろしたヤジロベエのような重心配置を特徴とします。この方式により、支点を中心としてカートリッジとカウンターウェイトの質量バランスが均一に保たれるダイナミック・バランス型の利点が一層高まり、重心の低い安定した再生音を生み出すことに成功しました。

スタティック/ダイナミック・バランス両用ハイブリッド型トーンアーム、Ortofon RSG-309(生産完了)

先に述べたように、本機はスタティック・バランス/ダイナミック・バランス共用となっています。アーム後端のカウンターウェイトを動かすことでゼロバランスを取り、そのままカウンターウェイトで針圧加圧を行うとスタティック・バランス、ハウジング側面の針圧加圧ノブを用いるとダイナミック・バランスでの針圧加圧が可能となっています。本シリーズの取扱い方法については下に示した弊社公式YouTube動画でも解説しておりますので、併せてご参照ください。

トーンアームについて Vol.5 RMG・RMAシリーズ編に続く

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