本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生に用いるトーンアームの取付や交換方法についての解説を行います。
トーンアームの調整方法について重点的に扱っていたり、基礎的な内容について解説したページもございますので、先に「トーンアームの調整方法について」および「トーンアームについて Vol.1 基礎編Ⅰ」のお目通しをお勧めします。
英国SME(The Scale Model Equipment Company)社は、レコード再生機器、中でもトーンアームについて語る際には避けて通ることのできない存在です。
ステレオ録音のLPレコードが登場した1950年代末、オーディオをこよなく愛していた同社創業者のアイクマン(Alastair Robertson-Aikman, 1924-2006)氏は、その黎明期にいち早くSPUを愛用していました。
彼はStereo Pick Upの名を冠したこのカートリッジを、オルトフォンが純正品として設計していたRMG/RMAシリーズなどのトーンアームとはまた違ったアプローチで楽しみたいと願い、自社の精密工作機械と加工技術を駆使して(当時としては)驚異的な高精度を誇るトーンアームを完成させます。
後に3012と呼ばれたこの製品は、日本を含む世界中のトーンアームに多大な影響を与えました。SME 3012はシリーズを重ね、ショートモデルの3009やセミロングモデルの3010なども加えながら今なおトーンアームの銘品としての名を不動のものとしています。

先にも述べたように、SME社のトーンアームはオルトフォンのSPUを再生するために誕生した経緯があります。そのため、初期のSME社製トーンアームにはオルトフォンが製造したSPUのGシェルが付属されていました。Gシェルに使用されていたシェルコネクター(およびそれに対応するトーンアーム側コネクター)は、これに対応するSME社のトーンアームが世界各国で称賛されたことで「SMEコネクター」「欧州規格」などの名称とともにそのまま広まり、日本でも多くのトーンアームに採用されました。
このコネクター形状はIECやJISなどの規格で公的に定められたものではありませんが、自然発生的なデファクト・スタンダードとして現在ではユニバーサル型トーンアームとそれに対応するヘッドシェルのコネクターとして定着しています。

下の動画は、本邦のアナログ研究の第一人者である海老澤 徹 先生が、SME社のシェルコネクター誕生の経緯について解説しているものです。ここまでに書かれた内容についても詳しく述べられておりますので、あわせてご参照ください。
こういった歴史的経緯もあり、オルトフォンとSME社は協調して製品開発を行うことがあります。その最たる例がSME 3009 Series Ⅲトーンアーム専用に開発されたカートリッジ、SME 30H(下の写真)です。これは両者がローマス・ハイコンプライアンスを極限まで追求した結果誕生したもので、アームパイプまで一体型のSME 30Hカートリッジを3009 Series Ⅲトーンアームに挿して使用するものでした。

先に述べたように、英国SME社のトーンアームは登場から60年以上にわたりトーンアームの代名詞として巷間に伝わってきました。SPUシリーズに対応しているモデルであれば相互の相性も良いため、オルトフォンの純正トーンアームと並び多くの方に愛用された「定番」の組み合わせといえます。
ただ、その多くは製造から60~40年程度が経過しており、(適切なメンテナンスが施された個体についてはその限りではありませんが)各部品や内部配線、端子部分の経年劣化を考慮すべき時期となりつつあります。こういった事情から、長年愛用したトーンアームを現行製品に交換したいというお問い合わせを多く頂きます。
また、現在新品として販売されているアームレスのレコードプレーヤーは、プレーヤー側アームベースの差し替えによって様々なトーンアームの取付に対応しているものが多数を占めます。これらのプレーヤーには、多くの場合で標準オプションとしてSME社のトーンアーム用ベースがラインナップされています。
SME社のトーンアーム取付穴は特有の長く伸びた楕円型で、その四隅にベース取付用のネジ穴が開けられています。これは同社製品のトーンアーム側のアームベースが針先位置の調整用にスライド式となっているためで、オルトフォンなど他社トーンアームのような丸穴ではありません。
そのため、愛用してきたトーンアームの交換や、SME用ベース穴を活かして位置がスライド可能な状態での他社トーンアーム取付を希望する場合は、これに対応したアームベースの使用によって解決を図ることができます。

上の写真はSMEのベース穴にオルトフォンのトーンアームを取り付けるためのオプションベース、TA-Base/SMEを示したものです。楕円形の穴が開いたスライドベースの中央には、トーンアームの中心軸を固定するためのフランジが取り付けられています。このフランジは着脱により中心軸の直径18㎜と20㎜に対応しており、一部製品を除くほぼ全てのオルトフォン製トーンアームを取り付けることが可能です。
なお、このTA-Base/SMEはSMEのベース穴にオルトフォンのトーンアームを取り付け、かつスライド機構も維持するためのものですが、
①:トーンアームの中心軸径が18㎜もしくは20㎜である
②:トーンアーム寸法のうち、スピンドル→軸中心間が212~222㎜程度(ショート・セミロング)、294~315㎜程度(ロング)
という上記2点の条件を満たしている場合、オルトフォン以外の他社トーンアームでも使用可能な場合があります。ただし詳細はお手元のトーンアーム現物や取扱説明書、取付用ゲージなどを確認の上、使用可否をご自身でご判断下さいますようお願い致します。
TA-Base/SMEを用いることで、長年愛用したSMEアームを現代のアームに交換する、またかつてSMEアームが取り付けられていたプレーヤーのベース穴に他のアームを付けて再びプレーヤーを活用することが可能となります。
また、オルトフォンのアームは機種によってスピンドル→軸中心間の距離がわずかに異なる(例:9インチショートアームの212シリーズの場合、212・214・218㎜の3パターンが存在)仕様がありますが、スライドベースの着装によりこれらを包括することも可能です。
そういった意味で、TA-Base/SMEはアナログをより簡便に、かつディープに楽しめるアイテムであるといえます。

ここからは、TA-Base/SMEを用いてSMEベース穴にオルトフォンのトーンアームを取り付ける方法を解説してゆきます。
この先の記述では、「SMEのベース穴は既に開けられている」ことを前提条件とします。新規にベース穴を開ける必要がある場合は、お手元のSMEアームに付属している取扱説明書や取付用型紙(ゲージ)などをご参照頂くか、オーディオ専門店様などにご相談ください。
①:英SME社のトーンアームは、アーム軸中心→センタースピンドル間の距離が
・3009シリーズなどの9インチ(ショート)は8 1/2インチ(215.4㎜)前後
・3010シリーズなどの10インチ(セミロング)は8 3/4インチ(222.0㎜)前後
・3012シリーズなどの12インチ(ロング)は11 9/16インチ(294.1㎜)前後
となります(※上記数値は、取付作業の参考例として英SME社の3009/3010/3012-R用カタログ発表値より抜粋。シリーズや機種により若干数値が異なりますのでご注意ください)。
オルトフォンのトーンアームを取り付ける際には、9インチ(同箇所寸法212/214/218㎜、機種による)のモデルは215.4㎜の3009および222.0㎜の3010シリーズに近似のためベースの可動域内に収まりますが、12インチ(同箇所寸法309/311/315㎜、機種による)モデルは294.1㎜の3012シリーズに比べ長くなっています。これに対応するため、TA-Base/SMEはベース可動域を純正のものより広げ、±22.5㎜としました。詳細は下図もあわせてお目通しください。

②:プレーヤー側のキャビネットに開けられたSMEベース穴のうち、9インチの3009用と10インチの3010用はアーム軸中心→センタースピンドル間の距離が似通っており、判別が困難な場合があります。10インチアーム用に開けられたベース穴に9インチアームを取り付けた場合、スライド位置を最内周まで寄せても正しいベース位置に合わせられなかったり、楕円形のベース穴に追加工を要したりする場合がありますのでご注意ください。
③:上記Ⅰにて示した寸法や取付の位置関係は、英SME社により製品に付属されている取付用ゲージに沿った向きでベース取付穴が開けられている場合を想定したものです。取付穴の向きが異なる場合は、上記寸法を参考の上で事前に取付可否をご確認ください。
④:上記①の理由により、本製品は英SME製品の純正ベースプレートよりも可動域を広げてあります。この可動域を全幅にわたって使用する場合、既に加工されているベース取付穴を拡幅するための追加工を要する場合があります。
その場合は、製品付属の取扱説明書とベース穴用テンプレートをご参照の上で作業を行ってください。ご自身での作業が難しい場合は、オーディオ専門店様などにご相談ください。なお、弊社でのプレーヤー側ベース加工は承っておりません。
⑤:RS-212/309D、RSG-309は軸径の都合上、本製品での使用はできません。
ここからは、TA-Base/SMEを用いてオルトフォンのアームを取り付ける方法を解説します。下記①~②は、既に取り付けられているSME社アームを取り外す方法の解説につき、プレーヤーにアームが付いていない場合はこの手順を省略して③からスタートしてください。
①:SME社トーンアームの配線を外す
プレーヤーに取り付けられたSME社のトーンアームには、仕様によって様々な形状ではありますがフォノケーブルが取り付けられています。ご使用システムのアンプの電源がOFFとなっていることを確認した上で、アンプのフォノ入力やMC昇圧トランスなどに接続されているアンプ・トランス側のフォノケーブルを取り外してください。
②:SME社トーンアームをキャビネットから外す
SME社のトーンアームは、スライド式ベースの四隅に通されたネジでプレーヤーのキャビネットに固定されています。ベース四隅のネジを外してトーンアームを抜き、アーム側に接続されたフォノケーブルが着脱可能であれば同時にこれも外してください。SME社アームのフォノケーブルは専用端子もしくはRCA端子を使用しているものが多く、これらの場合はフォノ5pin端子を用いているオルトフォンのアームには使用することができません。専用端子もしくはRCA端子のケーブルを使用している場合は、これも同時に抜き取ってください。
③:Ta-Base/SMEで使用するアームの軸径を確認する
Ta-Base/SMEをプレーヤーに取り付ける前に、使用するオルトフォンアームの中心軸径を確認します。AS-212S/Rは18㎜、旧RMG/RMA/SMG/AS/RS/RFシリーズなどは20㎜です。AS-212S/Rの場合は既に取り付けられている18㎜のフランジで対応可能ですが、これ以外のモデルを取り付ける場合はTA-Base/SME裏面の小型六角キャップネジを外して20㎜フランジに交換してください。

なお、RS-212/309D、RSG-309は軸径の都合上、本製品での使用はできません。
④:プレーヤーにTA-Base/SMEを取り付ける
TA-Base/SMEのフランジ径をアーム側の軸径と合わせたところで、本製品をプレーヤーに取り付けます。取付先のネジ穴形状や径などに応じ、付属品のネジセットもしくは(先の②でSME社のアームを外している場合は)取り外したネジを使用するなどしてTA-Base/SMEを取り付けてください。
なお、ネジ止めに際しては取り付けたネジの頭がスライドベースの動作に干渉しないよう、ベース天面部以下までネジ天面を下げてください。その上で、ゴムブッシュが潰れすぎない程度の締め付けとしてください。
⑤:スライドベース可動部の動作確認を行う

アーム固定ベース天面にある2本のロックネジ(六角キャップ)を軽く緩め、ベース可動部が両端までスライドすることを確認します。もし可動部がプレーヤー固定ネジに干渉する場合は、ネジを締め込んでベース天面以下までネジ頭を落としてください。その上で上の図や、先の「Ortofon/SMEトーンアーム取付位置一覧表」を参照したり、トーンアームに付属しているゲージを用いるなどして、取付を行うトーンアームの適正な中心軸位置までベース可動部を動かしてください。
なお、先の「Ⅴ.ベース取付に際しての注意点」で述べたとおり、特にロングアーム取付時にはプレーヤーのベース穴にTA-Base/SMEのベース可動部が干渉する場合があります。その際は、付属のベース穴テンプレートを用いてプレーヤー側のベース穴を追加工し、穴を広げてください。

⑥:ベース可動部を適正位置で固定する
ベース可動部が適正位置に移動可能であることを確認したら、当該位置でベース可動部を固定します。⑤で緩めたロックネジを締め、ベース可動部が動かないことを確認してください。
⑦:フォノケーブルを通し、アームを取り付ける
TA-Base/SMEの軸穴にフォノ5pin端子の付いたフォノケーブルを通し、ケーブルの端子にトーンアームを接続します。その後、アームの中心軸をTA-Base/SMEの軸穴に挿入し、フランジ側面の軸固定ネジ(2本)を用いて適正な高さでトーンアームを固定してください。
以上でTA-Base/SME側の取付作業は終了です。この先は、トーンアームやカートリッジの取扱説明書を参照の上、適宜セッティングや調整を行ってください。