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アナログオーディオ大全

2023.03.07
トーンアーム

トーンアームについて Vol.6 使用時の注意事項編Ⅰ

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生用トーンアーム使用時の注意事項についての解説を行います。トーンアーム調整方法について重点的に扱っていたり、基礎的な内容について解説したページもございますので、先に「トーンアームの調整方法について」および「トーンアームについて Vol.1 基礎編Ⅰ」「トーンアームについて Vol.2 基礎編Ⅱ」のお目通しをお勧めします。


トーンアーム使用時の注意事項―セッティング編

トーンアームの使用に際しての基本的な内容は上に示したリンク先で述べたとおりですが、本項ではその内容以外にも留意すべき注意点を述べてゆきます。今回は「セッティング編」と題し、トーンアームのセッティング時に留意すべき内容をまとめています。そして次ページでは「メンテナンス・輸送編」と題してトーンアームのメンテナンスや、移設などに伴う輸送時の注意点を述べます。

ここに述べる内容は、過去に物損事故が発生した実例をもとに記しております。ご一読の上、教訓としてご活用頂けましたら存外の喜びです。


Ⅰ.カウンターウェイトは純正品を使用する

トーンアーム使用時には必ず純正カウンターウェイトを使用する

トーンアームに付属しているカウンターウェイトは、付属先の製品に合わせて専用に設計されているものが大多数を占めます。トーンアームに純正品でないウェイトを取り付けた場合、アーム本体のシャフトとウェイトの穴径が合わない、また針圧目盛の文字盤通りに針圧がかからない、ゼロバランスが取れない等の様々な弊害が発生します。極端な場合、トーンアームやカートリッジ、レコード盤の盤面を破損する可能性がありますので、トーンアーム使用時には必ず純正品のカウンターウェイトを使用しましょう。

また、トーンアームの機種によってはカウンターウェイトの他に質量追加用のサブウェイトが付属品もしくはオプションパーツとして用意されている場合があります。これらが純正品もしくはトーンアームの製造メーカーによって性能が保証されたものであれば積極的に活用するべきですが、トーンアームの質量バランスや機構部分の強度などを考慮せずに製造された純正外のパーツを使用するとアームの機構部分を傷める可能性があります。

特に散見されるケースは、1970~80年代までの間に生産された軽質量・軽針圧カートリッジ向けのトーンアームに本来の対応自重(後述)を遥かに超えた自重のカートリッジを取り付け、またウェイト側に純正外のオプションウェイトや鉛テープなどを装着し、強制的にゼロバランスを取って使用したことでトラブルや破損事故が発生したというものです。これらのトーンアームは質量を軽減するためにアームパイプの材料を軽く薄いものとしたり、ヘッドシェルなどの構成部品を省くか肉抜き穴を開けるなどの加工が施されている例が多く、ローマス・ハイコンプライアンスな軽質量・軽針圧カートリッジの使用には最適ですが(オルトフォンのSPUシリーズのような)重質量・重針圧なカートリッジの振動系を十全に動作させることは難しく、これらの再生には向きません。

Ortofon SME 30H(生産完了)

こういった軽質量・軽針圧カートリッジ向けのトーンアームとカートリッジの究極の例として挙げられるのが、上の写真で示した英SME社の3009/Series ⅢおよびⅢ Sトーンアームとそれにあわせて開発されたオルトフォンのSME 30Hカートリッジです。両者はローマス・ハイコンプライアンスの究極点を目指して設計されたためトーンアーム・カートリッジ共に徹底した軽量化が図られており、カートリッジ部分と薄いチタニウムのアームパイプは一体となっており、カートリッジ交換はパイプごと行います。またトーンアーム側も可動部の質量を極限まで減らすためナイフエッジなどの機構部やカウンターウェイト(重量追加のサブウェイトなし)には金属を用いておらず、カートリッジ交換用の端子がアーム支点近くにあることで先端方向に質量バランスが寄ることを防いでいます。

この3009/Series Ⅲは極端な例ではありますが、近似の設計思想をもつトーンアームに無理やり重質量で重針圧なカートリッジを取り付けて動作(再生)させた場合、トーンアームが設計時に想定されていた以上の負荷を受けて滑らかなトレースを行えなくなったり、極端な場合は機構部が破損して使用不可となる可能性があります。そのためオルトフォンのSPUシリーズのように重質量で重針圧なカートリッジを使用する場合は、同じく重質量で頑丈な可動機構を備えたトーンアームの使用(例:オルトフォンのRMG/RMAシリーズなど)が前提となります。カートリッジが重質量かつ重針圧になるにつれ、バランスを取るためのカウンターウェイトもあわせて重くなります。その分、これを支えるベアリングなどの可動機構にかかる負荷も大きくなりますので、これを前提条件として設計されているトーンアームでなくては満足なトレースを行うことができません。

上記の内容を踏まえると、トーンアームに純正品として付属されているカウンターウェイトはその製品が軽質量カートリッジ専用であるか、または重質量カートリッジにも対応可能であるかを示すひとつの目安となります。質量追加用のサブウェイトが存在しないか、サブウェイトを含めても軽量なカウンターウェイトしか存在しないトーンアームに重質量なカートリッジを無理やり取り付けるべきではありませんし、カートリッジを付けたら軽すぎてゼロバランスすら取れないような重質量向けトーンアームに軽質量・軽針圧なカートリッジを組み合わせることも望ましくはありません。

カートリッジとトーンアームの相性に留意し、対応自重(下記参照)の範囲内でこれらを組み合わせると、双方の持つ特性を十全に活かすことができます。


Ⅱ.カートリッジ自重は対応自重の範囲内に収める

カートリッジ本体やヘッドシェルなどの総重量がアームの対応自重内かを確認する

基本的に、トーンアームには対応自重と呼ばれるスペックが定められており、トーンアームにカートリッジを取り付ける際にはカートリッジ本体とヘッドシェル、取付ネジ、リードワイヤーなどをこれに定められた範囲内の重量に収める必要があります。

トーンアームの対応自重を無視して重質量なカートリッジを装着してレコードを再生することは、自動車に例えると車体やサスペンションの限界を無視して荷物を搭載し、最大積載量を超えた過積載状態で公道を走らせている状態に等しく非常に危険です。この過積載状態でレコードを再生してカートリッジの針先やトーンアームの機構部分、またレコード盤の音溝を破損した事例もあり、他にも再生音がビリ付くなどの症状が発生する可能性も考えられます。

これらの事故を避けるため、トーンアームにカートリッジを取り付ける際はアーム側(プレーヤー据え付けのアームの場合はプレーヤー)のスペックに記された対応自重を確認し、無理のない範囲でレコード再生を楽しみましょう。

なお、トーンアームによっては純正パーツのカウンターウェイトが軽質量もしくは標準質量用と重質量用で2つ存在するものもあります(例:Ortofon AS-212R/AS-309R。標準ウェイト時の対応自重は18~26g、重量ウェイト時は26~38g)。この場合は、ウェイトごとに対応自重が異なりますのでカートリッジ側の自重に合わせてそれぞれのウェイトを挿し替えましょう。

Ⅲ.プレーヤーやアーム基部の水平状態を確認する

レコードプレーヤーの水平確認・調整を行う

トーンアームは、取付先のレコードプレーヤー天面が水平であるときに最高の性能を発揮します。レコードプレーヤーに傾きが生じていると回転盤部分(プラッター)の中心にある回転軸が傾いてしまい、回転ムラやスピード遅れが発生したり、極端な場合には回転軸の焼き付きや損傷が発生する恐れがあります。そして、本体となるプレーヤーが傾いていると取り付けられているトーンアームも同じく傾いてしまいます。トーンアームの機構部が傾いていると質量バランスが狂ったり、動作軸にかかる力が左右で不均等になるなどして安定したトレースが難しくなりますので、レコードプレーヤーの水平確認は入念に行いましょう。

トーンアームについて Vol.7 使用時の注意事項編Ⅱに続く

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