ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2021.11.15
カートリッジ(総合)

カートリッジについて Vol.9 モノラル編Ⅰ

このページでは、「カートリッジについて」のVol.9をお送りします。

本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、モノラルレコードやモノラルカートリッジに関する内容の記述を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

モノラル盤とステレオ盤のちがい

モノラルカートリッジについてのお話に入る前に、モノラル盤とステレオ盤のちがいについてご説明します。上図はステレオ盤(左)とモノラル盤(右)の音溝を模式的に示したものです。ステレオ盤はV字型の音溝の表面に凹凸があり、これを針先がトレースすると左右チャンネルの音声信号を縦方向の振動としてピックアップします。このため、ステレオ盤を再生するカートリッジのカンチレバーは上下左右、つまり縦・横双方の振動に対応出来なくてはなりません。

それに対し、モノラル盤は上図の通り横方向にのみ振動(音声信号)が刻まれているため、モノラル信号の音溝をトレースする際にはカートリッジのカンチレバーは横方向にのみ動けば用が足ります。そのため、ステレオ盤の実用化以前に設計されたモノラルカートリッジのほとんどは、カンチレバーが横方向にしか動きません。このタイプのカートリッジでステレオ盤を再生すると、音溝表面の凹凸(縦振動)をトレースすることができずに音溝を傷つける恐れがあります。オルトフォンの現行製品の中ではCG25Di MkⅡCG65Di MkⅡがこれに該当しますので、この2機種でステレオ盤を再生することは絶対にお止めください。

また、下の動画は本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、モノラルカートリッジについて解説しているものです。本項に書かれた内容についても詳しく述べられておりますので、まず最初にご参照ください。

モノラルとオルトフォンのあゆみ

1948年、世界最初のモノラルLP盤が発売されました。オルトフォンはこれに先立つこと2年前、1946年にモノラルLPの音溝を刻むためのカッターヘッドを開発。このカッターヘッドで刻んだラッカー盤を再生するため、当時としては非常に高性能なモノラルMCであるType-C(上図)という業務用カートリッジも開発しました。

SPUの誕生よりはるか昔、ステレオレコードが発売(1958年)される以前のモノラル時代にはこのType-CがカッティングされたLP盤のサウンドチェックに用いられただけでなく、ラジオ放送局が音楽を流す際の業務用プレーヤーにも取り付けられていました。Type-Cはまさに、当時のプレイバック・スタンダードと言っても過言ではありません。このようにオルトフォンとモノラルLPレコードの関係は非常に深く、製品が実用化される以前から研究・開発をリードしてきたトップランナーでもありました。業務用機器として使用されることを想定して設計されたカートリッジは、その高い技術力と耐久性、音質の高さを評価されて同時代のレコードファンの垂涎の的になったともいわれています。

そしてオルトフォンは、モノラルLPの全盛期である1940~50年代から現代に至るまでモノラルLP用のカートリッジをつくり続けてきた、当時を知る数少ないメーカーでもあります。また上述のType-Cを原型としたCG25/65Diシリーズ(後述)は今なお現行品として生産が行われており、我々の歴史的遺産の中でも最古のものにあたります。

モノラルカートリッジの構造について


モノラルカートリッジには、磁気回路や内部構造などの違いによっていくつかのタイプがあります。このページでは、代表例としてオルトフォンのモノラルカートリッジを挙げ、以下にご説明します。

Ⅰ.CG25Di MkⅡ ・CG65Di MkⅡ

CG25/65シリーズは、先に述べた横方向にのみカンチレバーが動く古典的スタイルを今に伝えるMCカートリッジです。上から見るとコの字型になっている磁気回路の開口部に、縦方向の軸状になったアーマチュア(コイル巻芯)が配置され、コイルは1チャンネル分のみ巻かれています。この軸状アーマチュアの上下端にはゴムダンパーが、下端のその先にはカンチレバーとスタイラスチップが取り付けられており、スライラスチップがモノラル盤に刻まれた左右方向の振動(音声信号)をピックアップするとアーマチュアが左右に振れて発電が行われ、音声信号となって再生されます。

この構造は先述のType-Cが原型機となっており、オルトフォンの現行品ではCGシリーズのみに残された真のモノラル専用構造を現代に伝える、まさに生きた化石といえる存在です。

繰り返しとなりますが、ステレオ盤の実用化以前に設計されたCGシリーズのカートリッジはカンチレバーが横方向にしか動きません。このタイプのカートリッジでステレオ盤を再生すると、音溝表面の凹凸(縦振動)をトレースすることができずに音溝を傷つける恐れがあります。この2機種でステレオ盤を再生することは絶対にお止めください。

さらに、CG65Di MkⅡはスタイラスチップがSP盤専用の極めて太いタイプとなっているため、ステレオ・モノラルに関係なくLP・EPレコードを再生することはできません。

また、下の動画は海老沢 徹 先生がCG25シリーズの特徴と取扱上の注意点を解説しているものです。上記内容をさらに深彫りした内容となっておりますので、あわせてご参照ください。




Ⅱ.SPU Mono G MkⅡ

上述のCG25Di MkⅡ、CG65Di MkⅡとは異なり、ステレオMCカートリッジであるSPUをベースモデルとして開発された製品です。振動系の構造はステレオ仕様のSPUシリーズ(上図)とほぼ共通ですが、アーマチュアの配置された向きがステレオ仕様の菱型状(◇)から正方形(☐)状に変更され、アーマチュアとコイルは横振動のピックアップに特化されています。

このSPU Mono G MkⅡはステレオMCカートリッジをベース機として開発されたため、本機のカンチレバーは上下左右に動作し、振動系の構造上はステレオ盤を再生することが可能です。しかし、本機のスタイラスチップはモノラル盤用の太いモデルとなっているため、一部のステレオ盤の音溝には収まらず、再生ができない場合がありますのでご注意ください。

また、下の動画は海老沢 徹 先生がSPU Monoシリーズの解説を行っているものです。こちらもあわせてご参照ください。

Ⅲ.MC A Mono

ステレオMCカートリッジMC A95をベースとしたMC A Monoは、極めてHi-Fiな最高峰のモノラルMCカートリッジとなるために磁気回路が再設計されました。上図左がMC A Monoの磁気回路内部を示したものですが、アーマチュアが十字状に配置され、腕状に伸びた両側2か所にのみコイル線が巻かれていることが分かります。

それに対し、ベースモデルとなったステレオ仕様のMC A95(上図右)のアーマチュアはX字状に配置され、コイルの巻線は各方面の4か所に巻かれています。これがSPU Mono G MkⅡ同様のモノラルとステレオの違いで、レコード盤の音溝に刻まれた横方向の振動のみを読み取ってピックアップするようにできています。本機種もステレオカートリッジがベースとなっているためカンチレバーは上下左右に動作し、ステレオ盤を再生することが可能です。

Ⅳ.MC Cadenza Mono・MC Q Mono

上の写真左がMC Cadenza Mono、写真右はMC Q Monoです。上述のMC A Mono同様、この2機種もステレオMCカートリッジをベースとし、磁気回路がモノラル仕様に再設計されました。アーマチュアが十字状に配置され、腕状に伸びた両側2か所にのみコイル線が巻かれているのも同様です。

2機種のベースモデルとなったのは、MC Cadenza Red(→MC Cadenza Mono)と、MC Q10(→MC Q Mono)です。いずれもコイル巻線に銀線を使用しているため再生音に煌びやかさをもたらし、現代的なモノラルサウンドを楽しむことができます。

この2機種もステレオカートリッジがベースとなっているためカンチレバーは上下左右に動作し、ステレオ盤を再生することが可能です。

Ⅴ.2M Mono・2M 78

MMカートリッジである2Mシリーズにも、モノラル仕様のモデルが2機種存在します。上の写真左が2M Mono、写真右は2M 7878回転のSP盤仕様)です。この2機種は、本来ステレオカートリッジである同シリーズのボディ内部にあるコイル巻線がモノラル仕様に結線されています。この2機種ともステレオカートリッジがベースとなっているためカンチレバーは上下左右に動作し、2M Monoはステレオ盤を再生することが可能です。

しかし、2M 78はスタイラスチップがSP盤専用の極めて太いタイプとなっているため、ステレオ・モノラルに関係なくLP・EPレコードを再生することはできません。


カートリッジについて Vol.10へ続く

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