このページでは、「カートリッジについて」のVol.23をお送りします。
本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォンのMC型カートリッジ「MC Q」シリーズについての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
MC Qシリーズの解説を行う前に、MC型カートリッジについての概要を述べてゆきます。
MM型カートリッジと異なり、MC型カートリッジはカンチレバー基部に取り付けられたコイルを動作させることで発電を行い、レコード盤の音溝に刻まれた凹凸を電気信号へと変換します。そのためMoving Coli(ムービング・コイル)=MC型と称されます。
そして現在製造されているMC型カートリッジの多くには、下図のような「オルトフォン・タイプ」と呼ばれる磁気回路が内蔵されています。これは1950年代のステレオレコード実用化にあわせて開発されたオルトフォンのSPUで初めて製品化されたもので、以降様々なMC型カートリッジの規範となった「MCの原器」と言うべき存在でもあります。
シンプルな構造で高性能であったSPUシリーズは、放送局やレコード会社の録音スタジオなどでプレイバック・スタンダードとして用いられ、当時の基本構造を踏襲したモデルが今なお生産され続けています。また、コイル巻線に銀や高純度銅、金・銀合金などを採用したり磁気回路を新規設計したモデルが誕生するなど、オリジナルの枠にとどまらない様々なアプローチも並行して進められています。
オルトフォンはSPUでMC型カートリッジの基礎を構築しましたが、時代は更なるローマス・ハイコンプライアンスを追求していきました。これに対応すべく、オルトフォンは自らが生み出した「オルトフォン・タイプ」の小型化と軽量化に邁進してゆきます。
1960年代から本格化したローマス・ハイコンプライアンスを求める流れは、マテリアルや部品加工の技術発展に伴って更に加速してゆきました。オルトフォンもこれに応え、SPUの基本構造を踏襲しつつ発展させたS 15、SL 15・20シリーズを発表しています。
また1970年代に誕生したCD-4(4チャンネルステレオ)への対応を行うため、従来以上の高帯域再生を可能としたSL 15Q、SL 20Q(Q=Quad、4を示す。上の写真右)を発表しています。この一連の流れの中で、シリーズの集大成として誕生したのが初代MC 20(上の写真中央)です。
このMC 20は、1976年8月から2006年末までの30年にわたってオルトフォンのチーフエンジニアであったペア・ウィンフェルド氏を責任者として開発が進められました。オルトフォンの新時代を象徴するMC型カートリッジとなった本機は、カートリッジ自重7g、適正針圧1.7gという軽質量・軽針圧に沿った仕様を実現し、当時主流となっていたローマス用トーンアームとあわせて一世を風靡しました。
またMC20を更に高性能化させた初代MC30では、現代のオルトフォンのハイエンドモデルの多くに採用されているWRDの礎となったセレクティブ・ダンピング方式が実用化されました。これにシリーズのエントリーモデルとなるMC 10が加わり、以降SPUシリーズを除くオルトフォンのMC型カートリッジはしばらくの間、このMC 10・20・30の3機種を基軸としたシリーズ展開を続けてゆきます。
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その後、MCシリーズはMkⅡ、Super、Super Ⅱ、(派生形となる)HMC、S、Wとモデルチェンジを繰り返し、現行のQシリーズへと至ります。
Qシリーズにおける初の試みとして、歴代MCシリーズの中で初めてエントリーモデルとなるMC Q5とモノラル仕様のMC Q Monoがラインナップに加えられた5モデルでの展開となっていることが挙げられます。より手軽に、そしてより多彩にハイ・クオリティなレコードライフを送るにあたって、Qシリーズはなくてはならない存在です。
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MCシリーズの現行型、MC Qシリーズはカートリッジ天面に3点支持式のスペーサーがあり、また2本のネジ穴が切られていてカートリッジ本体に直接ヘッドシェル取付ネジを挿入することができます。そのため、取付ネジを下から貫通させて取り付けるタイプのヘッドシェルには装着できませんのでご注意ください。また、オルトフォンのカートリッジ本体に取り付けるネジの規格はJISに当てはめると「M2.5」となっています。他社製品によく用いられる「M2.6」のネジを用いるとカートリッジやネジ穴を破損する恐れがありますので、絶対に使用しないでください。
下の動画はシリーズのエントリーモデルMC Q5を、Qシリーズにあわせて開発されたLH-4000ヘッドシェルに取り付ける方法を紹介しているものです。Qシリーズの他機種もセッティング方法は共通ですので、この動画を参考にカートリッジをヘッドシェルに取り付けてください。また、「レコード針のヘッドシェル取付方法について」もあわせてお目通しされることをお勧めいたします。