このページでは、「カートリッジについて」のVol.18をお送りします。
本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォンのDJ用カートリッジの特徴と歴史、またConcordeシリーズについての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
オルトフォンのDJカートリッジは、以下の3種類に大別されます。最初に各製品のコンセプトをご説明します。
①Concorde(コンコルド)シリーズ
ConcordeシリーズはオルトフォンのDJカートリッジの代名詞で、トーンアームに直接取り付けるヘッドシェル一体型のモデルです。単体使用を想定したSingle(シングル)と、2本同時使用を想定したTwin(ツイン、フライトケース付属)の2タイプがあります。
②OMシリーズ
OMシリーズは、Concordeシリーズをベースとして開発されたヘッドシェル取付可能モデルです。一般のヘッドシェルに取り付けたり、ヘッドシェル一体型のトーンアームに取り付けて使用することができます。
③VNL
最新型のDJカートリッジであるVNLは、OMシリーズ同様にヘッドシェルに取り付けて使用するタイプです。このカートリッジの革新的な点は、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの3種類の針先の中から1つを選び、自分にとって最も望ましい針先の柔らかさをカスタマイズすることが可能となったところです。これまで以上に自由度が高く、多彩な表現ができるようになりました。
なお、これらのDJ製品を含むオルトフォンのカートリッジは全てが北欧デンマークの本社工場で生産されています。下の動画(英文)は、ドイツのターンテーブリストDJ Rafikが本社工場を訪れ、セールスマネージャーのAnders Bentley氏と共にConcordeシリーズの製造工程を見学しているものです。Concordeがひとつひとつ、丁寧に生み出されていく様子をご覧ください。
そして本項では、上記①のConcordeシリーズについてのご紹介を行っていきます。OMシリーズおよびVNLについては、次項「カートリッジについて Vol.18 DJカートリッジ編Ⅲ(工事中)」をお目通しください。
Concordeシリーズの誕生は、1979(昭和54)年に遡ります。数年前に就航したばかりの夢の超音速旅客機から発想を得て開発されたこのカートリッジは、まさに新時代の象徴といえる存在でした。
シェルコネクターから針先に向かって真っすぐに伸びるハウジングと一体成型のフィンガー、ネジやワッシャー・リードワイヤーによるセッティングを必要とせずユニバーサル型アームに即座に取り付け可能な利便性を両立させたConcordeは、多くの賞賛と好奇の目に迎えられつつ、この年のデンマーク工業デザイン賞を受賞しました。
なおこの時点では、ConcordeはDJ用ではなくリスニング用に用いられる一般的なカートリッジのひとつでした。時代の趨勢に伴い、リスニング用カートリッジとしてのConcoedeの系譜は一旦途絶えますが、2018年にオルトフォン創業100周年を記念してThe Concorde Centuryが、翌2019年にはConcorde誕生40周年を記念してConcorde 40 Anniversaryが限定復活を果たしています。
リスニング用カートリッジとしての系譜が一旦途絶えたConcordeですが、プロフェッショナル用途であるDJプレイの分野では熱狂的な支持を受け、多数のモデルが開発されました。
その中でも特筆すべきは、現代における最も著名なターンテーブリストの一人でありスクラッチの神様と称されるDJ Qbertと、Concordeの共同開発を行いConcorde/OM Qbertとして結実させたことでしょう。オルトフォンは、常に最前線を行くトップランナーたちの声を真摯に受け止めて製品開発を行い、アップデートを欠かすことはありません。
前項でも述べた通り、オルトフォンはDJカートリッジの登場よりはるか前から放送局用の業務用カートリッジを開発・生産していました。この経験はスタイラスチップの形状だけではなく針圧にも反映されています。3gを超える重針圧をかけることで安定したトレースを行い音飛びを防ぐ、という設計思想は業務用カートリッジで用いられる手法そのものです。
また、リスニング用Concordeの頃から存在していたヘッドシェル取付が可能なOMシリーズ(下の写真左)は、DJ用途においても引き続きラインナップに加わりました。Concordeはヘッドシェル一体型のトーンアームへの取付はできないため、状況に応じて使い分けることが可能です。
創立100周年を迎えた2018年、オルトフォンはConcordeシリーズをフルモデルチェンジしました。新たに誕生した5機種のConcorde MkⅡシリーズは、これまでのConcordeが育んできた伝統を引き継ぎつつ基本コンセプトを一新、次の100年を迎えるに相応しいモデルとなっています。
また外観デザインは著名なインダストリアルデザイナースタジオ、ミュラー・イェンセン・イノベーション&デザイン(Møller Jensen Innovation and Design)の手によってモダンで機能美に満ちたデンマーク・デザインとなりました。
➡Concorde MkⅡシリーズに対し、レジェンドたちがジャッジを下したスペシャルサイトはこちら
Concorde MkⅡシリーズで導入された新たな仕様は、
①フィンガーリフトは脱着式とし、カラーバリエーションをもたせることでカスタマイズ可能とする
②フィンガーリフト自体を幅広とし、また裏面を滑り止め加工とすることでグリップ力を向上させる
③頑強さと操作性に優れ、従来よりも幅広となったボディ部分
④脱着式の針先部分にはロック機構を追加、ハードなプレイ時の脱落を防止
⑤旧Concordeのカラーリングイメージを踏襲しつつ、正面に描かれたグラフィックマークはカートリッジの用途をアイコン化してより明確とする
⑥レコード音溝の狙った位置に針を下ろすため、U字型カットアウトを広くとり視認性を向上させる
といった点が挙げられます。
下の動画は、Concorde MkⅡシリーズのリリース時にデンマーク本社によって公開されたアナウンス動画(英文)です。MkⅡシリーズの特徴が簡潔に示されています。
また、下の動画には英国文化庁公認ビザを取得し、ロンドンをベースとして活躍する日本人DJのTakahiko DJ TakakiがConcorde MkⅡシリーズのレビューを行った際のコメントが収録されています。第一線のステージに立ち続けるDJから、使用感を含めた生の声を聞きました。
Concorde MkⅡ Mixは、Concordeシリーズの中で最もベーシックなモデルです。先代Pro Sのようなオールラウンダーでもあるので、最初に使うConcordeに迷ったらまずはこのMixをおすすめします。耐久性にも優れ、スタイラスにはスクラッチやバックキューイングにも適した丸(円錐)針を使用。また適度な音量を得られるように出力電圧は6mVとなっており、コストパフォーマンスにも優れています。
100年の歴史が紡ぎ出す重厚・骨太で芯の通ったオルトフォンのサウンドを、まずはご体感ください。
Concorde MkⅡ DJは、スクラッチやバックキューイングといったハードなプレイを特に想定した堅牢なモデルです。先代DJ Sの特徴を引き継ぎ、グルーヴ(音溝)の保持力にも優れ、丸(円錐)針を使用することで連続した激しいプレイ時にもレコードの摩耗を低く抑えるよう設計されています。適度な音量を得るため、出力電圧は6mVですがMixに比べると重低音のブースト感に優れます。
低音厚めのサウンドを得たい時は、このMkⅡ DJの出番です。
Concorde MkⅡ Scratchは、その名の通りスクラッチやバックキューイングを極めんとするDJのために開発されたカートリッジです。著名なターンテーブリスト達の多くが愛用した先代Scratchの名を受け継ぎ、バトルDJに求められる過酷な要件の全てが盛り込まれています。
極めてハードかつ素早いプレイを行っても針先がグルーヴに残るよう丸(円錐)針を採用し、またトレース性能と再生時の安定感向上を意識して開発されており、更に出力電圧は10mVのハイパワーを誇ります。
よく伸びる高音とマッシヴで深い低音、そしてエネルギー感に満ちた大音量のサウンドとあわせ、これまでの常識を超えた最高のスクラッチパフォーマンスを魅せることが可能です。
Concorde MkⅡ Digitalは、昨今の現場で主流となっているDVS(Digital Vinyl System)での使用に最適化されたカートリッジです。先代Digitrackを進化させて10mVのハイパワー仕様とした理由は、PCソフトが拾うアナログ音声信号のレベルが上がるとノイズとの差が明瞭となり、ソフトがタイムコード・ヴァイナルの信号を識別しやすくなるためです。
また、レコード盤への負荷が少ない丸針を使用することでタイムコード・ヴァイナルの寿命を延ばし、更にスクラッチノイズが発生する周波数帯域の再生レベルを下げることで、ソフトが読み取りエラーを起こす可能性を最小限に押えています。もちろん、10mVのハイパワーな音圧を活かしたエネルギッシュな音楽再生もお手のものです。
Concorde MkⅡ Club最大の特徴は、サウンドクオリティを追求して採用したDJ仕様の特殊楕円針にあります。この特殊楕円針は、他のDJカートリッジに用いられている丸針と比較するとグルーヴの音溝に刻まれた音声信号をより忠実に読み取ることができます。
そのため、先代Night Clubシリーズの血を引く本機の音色はConcordeシリーズ随一のクリアさを誇ります。繊細な音色の表現にも向いており、8mVの出力電圧により大きすぎず小さすぎない、程よい音圧感を得ています。不必要にボリュームを上げる必要もないため、現場の環境によるノイズの影響も受けにくくなっています。
また、レコードの音声をデジタル化するアーカイブ用途にも最適です。かつてオルトフォンが販売していたArkiv同様、グルーヴの細かな信号を正確に読み取ることが可能です。