ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2024.06.10
中級編
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レコード針(カートリッジ)の針圧について

本ページでは、レコード針(カートリッジ)の使用時に不可欠となる『針圧』についての解説を行います。

カートリッジをよい音で鳴らすには、針圧への正しい理解が欠かせません。また針圧を正しくセッティングすることは、レコード盤やカートリッジに掛かる負荷を低減させることにもつながります。

本ページでは最初にカートリッジの構造についての概要を述べたあと、針圧についてや適正針圧、針圧範囲、針圧の調整方法などについても弊社公式YouTube動画を交えつつ解説してゆきます。

Ⅰ.カートリッジの構造について

MC型カートリッジの代表例、SPUの内部構造図

カートリッジは、レコード盤を用いて音楽再生を行う際に必要となる機器です。

上図はオルトフォンの代表的なカートリッジ、SPUの内部構造を示した図です。ほぼ全てのカートリッジに共通する仕様として、使用時にヘッドシェルもしくはトーンアームに取り付けられ、レコード盤に物理的に刻まれた溝(音溝)表面の凹凸を針先部分のスタイラスチップでなぞる(トレースする)ことで振動として読み取り、カンチレバーを伝達してコイル(MC型)やマグネット(MM型)などを動作させることで発電させています。

MC型(左)・MM型(右)の動作原理を示した図

つまり、カートリッジとはレコード盤に刻まれた音溝表面の物理的な凹凸を読み取り、電気信号へと変換させるセンサーとしての役割を果たしていると定義づけることができ、この変換された電気信号がレコード再生時にスピーカーやヘッドフォンなどから出力される音声信号=音楽となります。

音声信号のピックアップ(再生)を行っている、Ortofon MC Verismo

カートリッジを正しく動作させるためには、センサーの先端であるスタイラスチップとレコード盤面の音溝の表面同士を『適正』に接触させる必要があります。

この『適正』とは、レコード盤の音溝に接触するスタイラスの形状が適正であるということも意味していますが、それに加えて重要となるのが『針圧』です。本ページでは、この針圧について詳しく解説してゆきます。

Ⅱ.なぜ『針圧』をかけなくてはならないのか

Ortofon Concorde Music Blueの先端をクローズアップした様子

カートリッジを用いてレコード盤を再生する際は、必ず針先部分に針圧をかけなければなりません。

その理由は、先に述べた『接触』がキーワードとなります。先にも述べた通りではありますが、レコード再生は盤の音溝にカートリッジのスタイラスチップが接触していなくては音楽再生を行うことができません(スタイラスチップ未接触の場合は、いわゆる「針が上がった」状態)。また、針が下りた状態でも音溝表面とスタイラスチップ表面の接触状態が適切でないと、音のかすれや途切れビリ付きや割れなどが発生します。

楕円針のスタイラスチップが音溝に接触している様子を示した図(赤点は接触部分を示す)

スタイラスチップを万全の状態でトレースさせるためには、針先に適切な値の圧力をかけて音溝に正しく接触させねばなりません。この圧力こそが『針圧』であり、スタイラスチップ表面をレコード盤の音溝表面に正しく接触させることが可能な針圧のことを『適正(もしくは推奨)針圧』と呼称しています。

スタイラスチップを適正な針圧値で音溝に接触させた時にのみ、カートリッジはその性能を十全に発揮させ、設計者が意図したとおりの音楽を再生することができます。そういった意味でも、レコード再生時の針圧加圧は不可欠といえますし、カートリッジを良好に動作させ、かつ再生時の事故を防ぐためにはカートリッジごとに定められた適正針圧値のとおりにトーンアームを調整することが推奨されます。 

適正針圧や針圧範囲、またそれを逸脱した際に発生することについては、次項以降で更に詳細な解説を行ってゆきます。

Ⅲ.適正針圧とは

カートリッジのスペック欄には、『適正針圧』もしくは『推奨針圧』と記された項目が存在します(メーカーによっては適正値が存在しない製品もあります)。これはカートリッジの設計者が当該機種の特性や機構、ダンパーの硬さなどをよく理解した上で、一定の気温下(再生機器を設置した部屋の室温を摂氏20度と条件づけている場合が多い)でその機種が最もよく性能を発揮できる針圧値として定めたものです。

また、当該機種と同一シリーズにラインナップされている機種は、適正針圧値も同一もしくは近似している場合があります(例:Ortofon MC Qシリーズなど)。一般的な状況でトーンアームのセッティングを行う際には、この適正針圧値に合わせてセットすることを推奨します。

ちなみに、現代のカートリッジの大半では、適正針圧値の表記は小数点以下第一位までの範囲(例:2.3gなど)で記載されています。小数第ニ位までの指定があるもの(例:OM 5シリーズ、適正針圧値1.75g)は現代においては少数派であり、英SME社のトーンアームのように0.75、1.25、1.75gなどといった適正値ちょうどの針圧目盛がトーンアーム側に存在する場合を除いては、近似値となる1.8gに合わせてしまっても差し支えはありません。

また、近年はデジタル針圧計の普及により小数第二位までの針圧を可視化することが可能となりましたが、メーカーがスペックとして公表している適正針圧値は小数第一位までの場合が大半です。公表値以上の精度を求めることは興味深いことではありますが、極めて趣味性の高い行為であるとも言えます。

なお、一般的なカートリッジの適正針圧値はカタログに記載されたスペック値の通りですが、メーカーによっては同一機種であっても適正値が個体ごとに定められている製品も存在します。その場合は、当該個体に添付されたスペック一覧表の記載を参照してください。

Ⅳ.針圧範囲とは

先に述べた通り、カートリッジには適正針圧の値が定められています。その上で、スペック欄に当該カートリッジの『針圧範囲』が併記されている場合もあります。この針圧範囲がメーカー発表の公式スペックに表記されている場合は、適性針圧値を中心とした針圧範囲の間で好みや必要に応じて針圧の加圧値を加減させることが可能です。この場合、針圧3gを超える重針圧のカートリッジでは適正針圧値の±1g程度、中~軽針圧のカートリッジでは±0.2~0.3g程度となっている例が大半を占めています。

また、メーカーによっては適正針圧値が存在せず、針圧範囲のみがスペック欄に記載されている製品も存在しています。その場合は、スペック上に示された針圧の範囲内で使用して下さい。

Ⅴ.適正針圧、針圧範囲を逸脱した際に発生すること

適正針圧や針圧範囲は、メーカーの設計者がカートリッジを正常動作させるために定めている値です。これを逸脱させてカートリッジのスタイラスをレコード盤の音溝に接触させ、再生を試みた場合、いくつかの不具合が発生する可能性があります。本項では、逸脱時に発生する不具合とその原因、またこれに付随して発生しうる破損などの事故例についても解説してゆきます。

別ページの「レコード再生時の音かすれ・途切れへの対処について」および「レコード再生時の音ビリ付き、割れへの対処について」もあわせてお目通しください。


ⅰ.適正針圧もしくは針圧範囲よりも軽い方向に逸脱した場合

カートリッジの針圧を、公式スペックの適正値もしくは範囲内よりも軽い状態でレコードを再生した場合、スタイラスがレコード盤の音溝に正しく接触できず、針先が常に軽く浮き上がったような不安定な状態におかれます。

そのため、安定した接触を継続できないことで音が途切れたり、かすれたりすることがあります。更に極端な場合は、スタイラスが音溝を外れてカートリッジが内周や外周側に滑っていってしまうこともあります。この場合、レコードの盤面や音溝にもダメージを与えて修復不可能な傷が付く場合もあります。

余談ではありますが、放送局やレコード会社におけるプレイバック・スタンダードとして誕生したSPUシリーズや、DJプレイ用としての仕様を備えたConcordeOM、VNLシリーズなどは、概ね適正針圧値が3g以上に設定されています。これは放送局のスタジオやクラブのDJブースなどのプロユースの現場で発生する、振動や衝撃などに起因する音飛びや音の途切れを防止し、その上で安定した音楽再生を続けるためには欠かせない仕様です。これらのカートリッジは、適正針圧値を一般的なカートリッジのそれよりもあらかじめ重く設定することで針先の浮き上がりを防いでいます。

レコード盤面との確実な接触を目指して重針圧に設定された、Ortofon SPUシリーズ
多くが適正針圧3~4gのDJ用モデル、Ortofon Concorde MkⅡシリーズ

また、スペック上の適正針圧値が重めであるカートリッジは、設定された適正値で安定したトレースができるように設計されているため、これを針圧範囲以下まで軽くするとスタイラスチップが適正な接地圧を得ることができず、振動系の正常な動作を妨げてしまい、そのカートリッジ本来の性能を発揮することができません。針圧調整を行う際は、必ずカートリッジのスペック欄を確認した上で適正な値、もしくは範囲の針圧を加圧するようにしましょう。


ⅱ.適正針圧もしくは針圧範囲よりも重い方向に逸脱した場合

次に前項の逆パターンとして、公式スペックの適正値もしくは範囲内よりも重い状態でレコードを再生した場合に発生しうる状況について述べてゆきます。

この場合には、先に述べたような針先の浮き上がりは発生しません。しかし、その一方で範囲内を逸脱した値を針先に加圧すると、レコード盤面の音溝スタイラスチップカンチレバーダンパーを含む振動系、果てはトーンアームにまで機器設計時の想定を超えた負荷がかかります。そのため、ここに挙げた機器やその部品の摩耗・劣化を引き起こし、その寿命を縮める恐れがあります。

特に直接の接触点であるレコード盤の音溝表面とスタイラスチップ表面に掛かる負荷とその影響は大きく、これらの破損につながります。また、ダンパーの支持能力を超えた針圧をカートリッジの振動系に加圧した場合、スタイラスチップ部分だけでなくカートリッジの底面とレコード盤面が接触してしまい、適切な再生が不可能となる可能性もあります。さらにこの場合、カートリッジ底面との接触で盤面に傷が付く恐れもあります。

そして、針圧の過剰な加圧によって生じる悪影響はこれだけではありません。現在市販されているカートリッジの大半は『速度比例型』と呼ばれる機構を備えており、スタイラスチップを含む振動系の動作速度が上がるほど出力電圧を得ることができます。そのため、適正値もしくは範囲内を逸脱し、かつ針圧過多である場合は、レコード再生時に本来想定されている範囲の自由な動作を行うことができず、スペックにある出力電圧や特性を得られなくなってしまいます。

この事象が実際のカートリッジ使用時に発生しうる例としては、先に挙げたDJ用モデルのConcorde MkⅡシリーズと音楽再生専用モデルのConcorde Musicシリーズ(下の写真)の適正値混同などが考えられます。

DJ用モデルと異なり、適正針圧が1.8gに設定されているOrtofon Concorde Musicシリーズ

Concorde Musicシリーズは通常の音楽再生を前提として設計されたカートリッジであり、適正針圧が1.8gに設定されています。

重複した解説となりますが、Concorde Musicシリーズは針圧1.8g時に最も『適正に』動作するよう設計されています。

これに対し、前項で解説したDJ用モデルのConcorde MkⅡシリーズは多くが適正針圧3~4gで『適正に』動作するよう設計されています。同じ形状をしたConcordeシリーズであっても、DJ用/Musicシリーズを含む全モデルの適正値が同一とは限りません。そのため、Concorde MusicシリーズにDJ用モデルのConcorde MkⅡシリーズの適正値である3~4gの針圧加圧を行うと、振動系部分の機敏な動作を阻害する結果となり、正常な動作を行うことができません。それに加え、先に述べたカートリッジ底面とレコード盤面の接触が生じる可能性もあわせて想定されます。

このように、適正針圧や針圧範囲よりも軽い場合とは逆となる針圧過多の場合もまた、カートリッジやレコード盤にとっての悪影響が生じます。このような事態を防ぐためにも、適正針圧値や針圧範囲を意識した上でトーンアームのセッティングを行うようにしましょう。

なお、唯一の例外はDJ用カートリッジをDJプレイに使用する際です。特に激しいスクラッチやバックキューイングなどを多用するスタイルのDJは、個々に編み出したプレイスタイルにあわせて針圧範囲を超えたセッティングを行うケースがあります。オルトフォンのDJ用カートリッジは堅牢なダンパーやカンチレバーを備えているため多少の針圧過多に対する適応は可能ですが、プレイに支障が生じる場合は上記内容を意識して再セッティングを行いつつ、針先やレコード盤への負荷も軽減可能なポイントを探すことを推奨します。

Ⅵ.針圧の調整方法について

針圧の加減は、カートリッジを取り付けたトーンアームの針圧加圧機構を調整することで可能となります。トーンアームは針圧の加圧方式によってスタティック・バランス型ダイナミック・バランス型に大別されており、それぞれの加圧操作の手順は異なります。また、トーンアームは機種ごとに操作方法や使用可能な機構が異なるため、必ずお手元のトーンアームの取扱説明書を熟読の上、操作手順や注意事項を理解した上でご使用下さい。

ウェイトを回転させて針圧の加減を行うスタティック・バランス型、Ortofon AS-212R

また、針圧の正確な読み取りを行うアクセサリーとしてデジタル針圧計の活用も推奨しています。デジタル針圧計の使用方法については、別ページの「デジタル針圧計の使用方法について」もあわせてお目通しされることをお勧めします。

デジタル針圧計、Ortofon DS-3



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