ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2023.06.07
ヘッドシェル

ヘッドシェルについて Vol.1 基礎編

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生に用いるヘッドシェルの基礎的な内容について解説します。カートリッジをヘッドシェルに取り付ける方法や取付ネジについて解説したページもございますので、先に「レコード針のヘッドシェル取付方法について」および「カートリッジのヘッドシェル取付用ネジについて」のお目通しをお勧めします。

Ⅰ.ヘッドシェルとは何か

一般的なカートリッジをヘッドシェルに取り付けた際の図

ヘッドシェルは、レコード再生に用いるカートリッジ(レコード針)トーンアームに取り付け、その上で容易にカートリッジ交換を行えるようトーンアームとの脱着を可能としているアクセサリーです。トーンアームにカートリッジを固定するためのパーツであるため、汎用品も存在する一方で取り付けるトーンアームやカートリッジがある程度絞られたり、専用品としての使用が想定されているものも存在します。

また、ヘッドシェルには数グラムの軽質量なものから、15gを超える重量級のものまで、さまざまな仕様を持たせた製品が存在します。この理由と使い分けの方法については、次ページで解説を行います。

なおヘッドシェルについての簡単な概要やカートリッジの取付方法については、専用ページとなる「レコード針のヘッドシェル取付方法について」をお目通しください。


Ⅱ.ヘッドシェルの誕生と成立過程について

アナログレコードの黎明期には、ヘッド部分(カートリッジとヘッドシェルをあわせた部分の便宜的な呼称)とトーンアームが一体となっているものも多く、短時間での簡単なカートリッジ交換は困難でした。その後、業務用のレコードプレーヤーを中心にヘッド部分とトーンアームの間にコネクターが設けられるようになり、一体型のピックアップ・システムよりは容易な脱着が可能となりました。ただし、ヘッド部分後端とトーンアーム先端のコネクターには他社製品や他機種への互換性がほぼ無く、あくまで専用の組み合わせとなっているものが大半でした。

ヘッド部分が脱着可能となっているOrtofon Type-AB(生産完了)

上に示しているのは、1940年代にオルトフォンが開発した78回転専用のモノラルカートリッジです。この製品が誕生したころから、徐々にヘッド部分後端とトーンアーム先端のコネクターの規格化が進み始めます。

後端にユニバーサル型コネクターが取り付けられた、SPUのGタイプヘッドシェル

そして1950年代末に誕生したSPUシリーズ(上の写真)では、既に現代のものと同じ形状のヘッドシェルコネクターが採用されています。このタイプの、今日ではユニバーサル型コネクターと呼称されているコネクターは、オルトフォンや英SME社、独EMT社(ピン配置が異なる、下図参照)などが用いていたため1960年代の日本では「ヨーロッパ型」「欧州規格」と呼称され、文献によってはこれをオルトフォン・タイプとして紹介しているものもあります。

一般的な「ユニバーサル型」のピン配置
独EMT社などの業務用ピン配置

そしてこの頃から、ヘッド部分のうちカートリッジ本体を収めた外殻部分を貝殻に擬えて「ヘッドシェル」と呼称し始めるようになります。

カートリッジとヘッドシェルが一体型の、オルトフォンのSPUシリーズ(左:Aシェル/右:Gシェル、生産完了)

上に示したオルトフォンSPUシリーズのヘッドシェルなどはユニットを覆い隠すような形状をしており、まさにヘッド「シェル」と呼ぶにふさわしい姿であるといえます。

Ortofon SPU Wood A(生産完了)を底面側から見た写真

そして上の写真は、SPUのAタイプ・ヘッドシェルを使用したモデルを底面側から見た写真です。ケース状になったAシェルの外殻部分に覆われる形でユニットが納められている様子が分かります。

Gタイプヘッドシェル内部に昇圧トランスを収めた、SPU-GT

次に、現在主流となっているGタイプのヘッドシェルについて解説します。このヘッドシェルは上図に示したようにSPUのユニットとヘッドシェル後端の間にスペースをもたせ、小型のMC昇圧トランスを内蔵することが可能となっています(仕様により、昇圧トランス内蔵不可のGシェルもあり)。なお昇圧トランス内蔵のモデルはSPU-GTと呼称されており、Gシェルは昇圧トランスを内蔵するために開発されたともいわれています。

そしてこのGシェルは、当初はオルトフォンの自社製品専用として使用されていました。しかし創立まもないころの英SME社が自社のトーンアーム用にGシェルを採用したことから、その後の同社製品のヘッドシェルおよびヘッドシェルコネクターの仕様に少なからぬ影響を与えています。下の弊社公式YouTube動画では海老沢 徹 先生がこの経緯について解説しておりますので、こちらもあわせてご参照ください。

Ⅲ.現代のヘッドシェルとオーバーハング調整について

英SME社のトーンアームは、我が国に紹介されると民生用トーンアームのリファレンスとしての地位を不動のものとしました。当時の国内メーカーもヘッドシェルやトーンアーム先端のコネクターをこれに準拠させたため、結果的に「欧州規格」のヘッドシェルコネクターがわが国でも共通の規格として受け入れられるようになり、「ユニバーサル型コネクター」という通称で定着してゆきます。

そして、ヘッドシェルが単独のオーディオアクセサリーとして認知されるようになると、カートリッジ取付ネジの位置を前後に移動させてオーバーハング位置の調整を行うことが可能なモデルが登場します。それまでのヘッドシェルはトーンアームやカートリッジの付属品として位置づけられているものが多く、付属先の製品に合わせた仕様となっているものが一般的でした。

SPU Gタイプヘッドシェルの針先→シェル後端は52㎜で固定

そのため、オルトフォンのA/Gタイプヘッドシェルや独EMTのカートリッジと一体となったシェルはいずれもカートリッジ取付位置が固定となっており、これらのシェルの取付を想定したトーンアームと組み合わせることが前提となっています。

SPU Gタイプヘッドシェルの取付を想定したトーンアーム、Ortofon AS-212R

オルトフォンのトーンアームを例にとると、事実上SPU Gシリーズ専用のトーンアームであったRMGシリーズや、SPUシリーズの使用を想定したAS-212/309Rなどではスタイラスポイント→シェル後端の間隔を52㎜に指定(下図参照)しています(注意:この間隔は共通規格ではなく、メーカーによっては50㎜、あるいは54㎜であるなど、指定値が異なる場合がありますのでご注意ください)

Ortofon AS-212Rの針先→シェル後端、オーバーハングなどの値を示した図

なお、英SME社のトーンアーム付属シェルもカートリッジ取付ネジ穴は円形で、ヘッドシェルでの位置スライドは不可能です。しかしトーンアームのベース側が可動式となっているため、シャフト部分をスライドさせることでオーバーハングの位置調整が可能です。

また、ヘッドシェル自体の形状も当時のトレンドであった軽針圧・軽質量に合わせて徐々に軽量化されてゆきます。1960年代後半以降から、ヘッドシェルの形態はSPUシリーズで用いられていた貝殻もしくはボックス状のものから、薄型で一枚板になっているシンプルなものや、シェル本体に肉抜きの穴が開けられて軽量化を図ったものが主流となりました。この傾向は、ハイ・コンプライアンスが至上とされた1980年代初頭まで続きます。

様々なカートリッジを取り付け可能なヘッドシェル、Ortofon LH-4000

また、先に述べたオーバーハング位置の調整が可能なヘッドシェル(上の写真)はこの頃から主流となり、現代においてはほぼ全てのヘッドシェルで位置調整が可能となっています。上に示したオルトフォンのLH-4000ヘッドシェルではカートリッジ取付ネジを緩めることでオーバーハング位置の微調整を可能としていますが、他にヘッドシェル底面にネジ穴の列を設け、穴位置を差し換えることで位置調整を行うことが可能なモデルもあります(注意:ヘッドシェルのネジ取付穴が貫通型でない場合、カートリッジ天面にネジを挿入するタイプのオルトフォンの現行型カートリッジは使用することができません)


オルトフォンのフラッグシップモデル、LH-10000の3D図

なお、製品によっては現代でもオーバーハング位置の調整を想定せず、定位置での固定を前提としたヘッドシェルも存在します。上図はオルトフォンのフラッグシップモデルであるLH-10000の3D図ですが、カートリッジ取付穴は円形となっていて位置調整は不可能です。

Ortofon MC DiamondにLH-10000ヘッドシェルを装着した姿

本機はオルトフォンの上級モデルとの相性を最優先として設計されており、MC Diamond(上の写真)やMC VerismoMC Windfeld TiMC Cadenzaシリーズを取り付けた際に針先→シェル後端間の間隔がSPUと同じく52㎜となります。


ヘッドシェルについて Vol.2 素材とその傾向編に続く

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