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アナログオーディオ大全

2023.08.08
ヘッドシェル

ヘッドシェルについて Vol.3 質量編Ⅰ

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生に用いるヘッドシェルの質量についてと、カートリッジトーンアームとの相性についての解説を行います。カートリッジをヘッドシェルに取り付ける方法や取付ネジについて解説したページもございますので、先に「レコード針のヘッドシェル取付方法について」および「カートリッジのヘッドシェル取付用ネジについて」「ヘッドシェルについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

Ⅰ.ヘッドシェル質量とカートリッジとの相性について

Ortofon MC DiamondにLH-9000ヘッドシェルを取り付けた様子

現在商品化されているヘッドシェルは、自重が10gを切る軽質量なものから単体で16gを超える重量級のものまで、その仕様は多岐にわたります。前ページではヘッドシェルの本体に用いられる素材とその傾向について解説しましたが、本ページではヘッドシェル本体の質量(重さ)とカートリッジ・トーンアームとの相性について述べてゆきます。

通常、カートリッジを取り付けるためのヘッドシェルを選定する際は、再生音の傾向に直結する本体部分の素材や使い勝手にかかわるフィンガー(指かけ)のサイズ、カートリッジ取付ネジの通し方などに注意が向きがちです。もちろん、これらの要素が極めて重要であることは言うまでもありませんが、これに加えてヘッドシェル自体の重さ(自重)とカートリッジとの相性を考慮した上で選定を行うと、よりハイクオリティなレコード再生を行うことが可能となります。

また、この相性を踏まえてカートリッジとヘッドシェルの選定を行った場合、再生音が(ある程度ではありますが)一定の傾向をもって変化します。

多くの場合、ヘッドシェルを軽量化させると再生音の重心位置が高域方向に上がり、音抜けの良い腰高な音色となる傾向にあります。ご自身のオーディオシステムにこの効果を望む場合は、(使用しているトーンアームの対応自重の範囲内で)ヘッドシェルの軽量化を推奨します。しかし、逆に重心が低く腰の据わった音色を志向する場合は、同様になるべく質量の大きい(重い)ヘッドシェルを用いた方が望む結果を得られる可能性が上がります。

本項では、カートリッジ+シェル+リードワイヤー+ネジをあわせて『ヘッド部分』と呼称

また、本項ではヘッドシェルにカートリッジを取り付け、ネジやリードワイヤーも装着された状態のものを、便宜上『ヘッド部分』と呼称します。このヘッド部分の自重を、ヘッドシェルの脱着が可能なユニバーサル型トーンアームのスペックに存在する『対応自重』と照らし合わせることで、カートリッジとヘッドシェルをトーンアームに取り付ける際の使用可否を判断する目安となります。


Ⅱ.軽質量なヘッドシェルと相性のよいカートリッジ

軽質量なMM型は、同じく軽質量なヘッドシェルとの相性が良い傾向にある

MM型カートリッジの多くはカートリッジ自体の重量(自重)が5~8g程度と極めて軽量で、振動系のコンプライアンスも高い(柔らかい)傾向にあります。この特徴を十全に生かすためには、同様に自重10g以下の軽質量なヘッドシェルとの組み合わせを推奨します(自重が10gを切る軽質量なMC型カートリッジも、同様に軽質量ヘッドシェルと組み合わせた方がよい場合もあります)。

軽質量なMM型カートリッジの一例、Ortofon 2Mシリーズ(自重7.2g)

ローマス・ハイコンプライアンスが志向され、各社の間でこれが競われた時代には、オルトフォンもカートリッジとヘッドシェルを一体化した上でヘッド部分の自重を10g以下に抑えたモデルを実用化していました。

そして1970~80年代前半頃までに開発・生産されていたトーンアームは、このように軽質量に特化したカートリッジでの再生を前提としているモデルが多数存在します。

徹底的な軽量化が行われた、Ortofon Concorde 30(生産完了)

こういったトーンアームは対応自重を概ね18g未満に抑え、軽質量なカートリッジを十全に再生するためにアーム自身の可動部を極限まで軽量化していることが多いため、本体自重が15g程度の重質量なヘッドシェルを使用するとトーンアーム側の対応自重の上限をオーバーしてしまい、感度の低下を招いたり過負荷からくるダメージを機構部に与えてしまう恐れもあります。

そのため、軽質量カートリッジ用に設計されていると思われるトーンアームを使用する際は、努めて軽量なヘッドシェルの使用を推奨します。


DJ用のプレーヤーに付いているトーンアームの多くは、軽質量針/シェルとの相性がよい

またDJ用カートリッジも、基本的にMM型が用いられること、DJ用ターンテーブルに取り付けられているトーンアームとの兼ね合いから軽質量なヘッドシェルとの相性がよい傾向にあります。スクラッチやバックスピン(逆回転)などのハードなプレイを行う際は、(プレイスタイル次第ではありますが)重質量なヘッドシェルを用いてヘッド部分を重くした方が、針飛びを防ぐことが可能となるケースもあるようです。

ここまでは対応自重が5~18g程度までの、軽質量なカートリッジの取り付けを前提としたトーンアームを想定した解説となります。

その一方で、トーンアームによっては対応自重の最低値が10g台後半~となっているものも存在します(例:Ortofon AS-212R/AS-309R、標準ウェイト使用時の対応自重18-26g)。

トーンアームの対応自重が重めの場合は、対応可能な質量をもったヘッドシェルを用いる

こういったケースの場合、自重10g以下の軽質量なヘッドシェルを使用するとトーンアームの対応自重範囲外となり、ヘッド部分が軽すぎるために適正な針圧を取ることが難しくなる可能性もあります。これを防ぐためには、上の写真のようにあえて重量のあるヘッドシェル(例:LH-4000/自重目安値14.3g)を用いてバランスを取り、トーンアームの対応自重範囲に合わせるという方法もあります。

本ページではここまで、軽質量かつ(結果的に)軽針圧なカートリッジと相性のよいヘッドシェルについての解説を行ってきました。次ページでは、重質量・重針圧なカートリッジと相性のよいヘッドシェルについての解説を行います。


ヘッドシェルについて Vol.4 質量編Ⅱに続く

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