ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2023.08.22
ヘッドシェル

ヘッドシェルについて Vol.4 質量編Ⅱ

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生に用いるヘッドシェルの質量についてと、カートリッジトーンアームとの相性についての解説を前ページに引き続いて行います。カートリッジをヘッドシェルに取り付ける方法や取付ネジについて解説したページもございますので、先に「レコード針のヘッドシェル取付方法について」および「カートリッジのヘッドシェル取付用ネジについて」「ヘッドシェルについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。


Ⅰ.重質量なヘッドシェルと相性のよいカートリッジ

前ページでは、「ヘッドシェルについて Vol.3 質量編Ⅰ」としてヘッドシェル質量とカートリッジとの相性の概要と、軽質量なヘッドシェルと相性のよいカートリッジについての解説を行いました。本項ではこれに引き続き、重質量なヘッドシェルと相性のよいカートリッジについてを述べてゆきます。

高性能なMC型カートリッジのうち、現行製品の多くは強力で大型のマグネットを組み込んだ磁気回路金属素材のハウジングを備えているため、カートリッジ本体の自重が10gを超えるものが大半を占めます。このようなカートリッジは自身の質量を支えるために頑丈なダンパーを備え、適正針圧を重め(基本的に2g以上、2.5gを超えるものも多数)としてトレースの安定化を図っています。

こういったカートリッジを十全に再生可能と判断できるヘッドシェルに必要な条件としては、カートリッジを強固に取り付けられ、また再生時にヘッドシェル本体によじれや不要な共振を発生させないことが挙げられます。これを踏まえると、ヘッドシェル本体がある程度厚手で質量が大きい(重い)ことが理想となります。

オルトフォンのMC型カートリッジもその例外ではなく、一部を除いて上位モデルの多くは自重10gを超えており、現行シリーズでは最軽量となるMC Qシリーズもカートリッジ本体の自重9g、適正針圧は2.3gとなっており、組み合わせるヘッドシェルとしてはLH-4000を推奨しています。

MC Diamond(自重17.5g)にLH-10000(自重目安値14.5g)を取り付けた様子

更なる重量級の例としては、上に挙げたMC Diamondが挙げられます。本機はカートリッジ本体部分のみで自重が17.5gに達しているため、薄型・軽質量のヘッドシェルよりは厚手で重いヘッドシェル(例:LH-9000LH-10000など)や重質量カートリッジに対応したトーンアームと合わせて使用することを推奨します。


重質量なヘッドシェルにカートリッジユニットが組み込まれた、SPUシリーズ

また、古くから重質量・重針圧カートリッジの代表格とされてきたSPUシリーズもこの一群に属しています。業務用カートリッジに源流をもつAタイプヘッドシェルと、MC昇圧トランスの内蔵を目的として開発されたともいわれるGタイプヘッドシェルの中にカートリッジ本体(ユニット)が組み込まれて一体型となった本シリーズはヘッドシェル+ユニット(いわゆる『ヘッド部分』)の自重が28~30g後半までと現代のカートリッジの中では重く、前ページで取り上げたような軽質量・軽針圧カートリッジの使用を前提としたトーンアームで使用すると十分なトレースが難しく、再生音の異常やトーンアームの機構部、カートリッジやレコード盤の破損を生じさせる恐れもあります。

ここまではカートリッジ本体の質量とヘッドシェル質量の相性について述べましたが、次項ではヘッドシェル+カートリッジ本体をあわせた『ヘッド部分』の質量と、トーンアームの針圧加圧方式との相性について解説してゆきます。

Ⅱ.針圧加圧方法とヘッド部分質量の相性について

トーンアームの針圧加圧方式が『スタティック・バランス型』と『ダイナミック・バランス型』の2種類に大別されることは、先のページで述べたとおりです。

そしてこの2種類の加圧方式は、それぞれが機構上の特徴をもっています。以下に解説する2方式の特徴と傾向を踏まえた上でカートリッジやヘッドシェル、またはトーンアームのアッセンブリーを行うとそれぞれの利点・性能を十全に生かすことが可能となります。

なお、下記解説で示すものはあくまで基本的な傾向であり、厳守が義務付けられたものではありません。しかしこれをひとつの基礎として理解しておくと、アナログシステムの構築に無限の可能性が生まれます。


『スタティック・バランス型』のトーンアームは、カウンターウェイトの質量を前後に移動させて水平バランスを取り、その上で支点となる中心軸の反対方向にあるカートリッジ側にバランスを傾ける方法で針圧を得ています。

スタティック・バランス型トーンアーム、Ortofon AS-212/309R

本方式の加圧機構を備えたトーンアームは、その多くが極めてシンプルな機構をもっており、部品点数とその重量を減らすことが可能です。このことからトーンアーム自体を軽質量・高感度な仕様に設計することが(ダイナミック・バランス型に比べ)容易な傾向にあり、また実際に多くのスタティック・バランス型トーンアームがこれを意識して設計されていることから、前ページで述べた軽質量なカートリッジやヘッドシェルとの組み合わせが(どちらかといえば)理想的です。特に軽針圧で軽質量なMM型カートリッジは、同じく軽質量なヘッドシェルと組み合わせた上でアームパイプやカウンターウェイトなどの可動部分が軽量なスタティック・バランス型トーンアームと組み合わせた方がその真価を発揮しやすいといえます。

なお、スタティック・バランス型トーンアームの中にはカウンターウェイトの追加や差し替えなどで重質量・重針圧なヘッド部分の装着を可能としているモデルもあります。トーンアームの純正パーツに追加ウェイトや差し替え式重量ウェイトが存在する場合は、トーンアームの機構部が重量級カートリッジに耐えられる堅牢な仕様となっていると理解して差し支えありません。逆に、純正パーツにこれらのウェイトが存在しないトーンアームは軽質量前提の設計となっている可能性が高いため、社外ウェイトや鉛板を取り付けることは避けましょう。

重量級ウェイトを付属させ、差し替えることでSPUシリーズの再生を可能としたAS-212R



『ダイナミック・バランス型』のトーンアームでは、カウンターウェイトは水平バランスの調整にのみ使用し、スタティック・バランス型のようにウェイトの前後移動で針圧の加圧を行うことはありません。その代わり、本方式のトーンアームには針圧の加圧に用いるバネが装備されており、このバネの張り具合を調整することで針圧の加減を行っています。

ダイナミック・バランス型の最もシンプルな例(Ortofon RMG-309、生産完了品)


ダイナミック・バランス型トーンアームは、針圧加圧に用いるバネとその調整機構が表面もしくは内部に組み込まれるため、スタティック・バランス型に比べると部品点数が増加し、可動部分の質量も大きくなりがちです。ただ、この状況は重針圧・重質量なカートリッジを安定して再生させるためには極めて理想的で、同様に重質量なヘッドシェルとの相性も良い傾向にあります。

Ortofon RMG-212i(生産完了)にSPUを組み合わせて再生している様子

古くから「SPUにはダイナミック・バランス」といわれている理由もここにあり、重針圧で重質量なカートリッジの再生には同じく質量の大きい(重い)可動部(アームパイプ、ウェイトなど)を備えたトーンアームとヘッドシェルの使用が望ましくあります。

逆に軽質量・軽針圧なカートリッジと軽質量なヘッドシェルで構成されたヘッド部分をダイナミック・バランス型トーンアームに取り付けると、軽質量なヘッドと重質量なトーンアームという組み合わせとなるため相性は必ずしも良いとはいえません。軽針圧・軽質量カートリッジの再生も得意とするダイナミック・バランス型トーンアームが皆無というわけではありませんが極めて珍しく、このことからもダイナミック・バランス型トーンアームに本領を発揮させるのであれば、重質量・重針圧なカートリッジと重質量なヘッドシェルで構成されたヘッド部分を取り付けた方がよいと言えます。

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