ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2022.09.12
昇圧トランス

MC昇圧トランスについて Vol.2 基礎編

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時に使用する、MC昇圧トランスについてご紹介します。

基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「MCカートリッジの昇圧・音量増幅の方法について」および「MC昇圧トランスについて Vol.1 トランス概説編」のお目通しをお勧めします。


Ⅰ.MC昇圧トランスとは

Ortofon ST-90 MC昇圧トランス

MC昇圧トランスは、出力電圧の低いMC型カートリッジを使用する際にプレーヤー→アンプのPHONO入力間に接続して昇圧(音量アップ)を行うための機器です。オルトフォンもレコード再生の黎明期から現在に至るまで、様々なMC昇圧トランスを開発・生産してきました(オルトフォンの現行MC昇圧トランスについては別項「MCカートリッジの昇圧・音量増幅の方法について」にて紹介していますので、あわせてお目通しください)。

なお、オルトフォンはかつてMC2000シリーズやMC5000、MC7500などの空芯コイルを用いたMC型カートリッジを生産していましたが、当時の空芯モデルは磁気回路の機構やマグネットのパワーが発展途上であったため、各機種に合わせて昇圧比を最適化させた専用のMC昇圧トランスを開発して純正の組み合わせとしていました。しかし、現在では磁気回路やマグネットの技術が飛躍的に向上し、空芯型のモデルであっても一般のMC型カートリッジのように0.2㎜の出力電圧を得ることが可能となっています。

空芯モデルながら出力電圧0.2mVを誇るMC Diamondの内部構造図

そして下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が鉄芯コイルと空芯コイルの利点・特徴について解説しているものです。鉄芯・空芯とは何か?という疑問に対しても解説されていますので、あわせてご参照ください。


2023年に復活した「GT」、Ortofon SPU GTE 105

また、オルトフォンはヘッドシェル内部にMC型カートリッジのユニットとMC昇圧トランスを組み込んだ、SPU GTシリーズを生産しています。超小型のMC昇圧トランスを製造することが極めて困難であることを除けば、カートリッジが発電した信号をすぐ後ろのトランスで昇圧できるため信号伝送の面では理想的な方式です。

MC昇圧トランスを内蔵した、Ortofon SPU GTシリーズの内部構造図

下の動画は、海老沢先生がこのSPU GTシリーズについて解説しているものです。先に述べたトランス内蔵の利点やシリーズの特徴など、非常に踏み込んだ内容についても述べられておりますので併せてご参照ください。


Ⅱ.MC昇圧トランス使用時の用語解説

ここでは、MC昇圧トランスを使用するにあたって必要となる用語について解説してゆきます。「インピーダンス」という単語が頻出しますが、その解説については「カートリッジについて Vol.16 インピーダンス編」を併せてお目通しください。

ⅰ.内部インピーダンス

MC型カートリッジの構造イメージ図

内部インピーダンス(デンマーク本社の英語表記:Internal impedance)は、カートリッジ内部に組み込まれたコイルのインピーダンス(抵抗)値のことを指します。内部インピーダンス値はカートリッジの構造や仕様によって千差万別で、MC・MMどちらの方式にもスペックとして存在していますが、ここではMC型カートリッジの例のみ解説します。

一般的なMC型カートリッジの振動系拡大図

MC型カートリッジの場合、コイルは振動系と呼ばれる可動部分に含まれるため、コイル巻線のターン数(巻数)を極端に増やしてコイルを重くすることは構造上望ましくありません。このため、MCカートリッジのコイル巻線の全長はMM型のそれに比べ短くなります。その結果、内部インピーダンスは2~10Ω程度か、高くとも40~100Ω程度の製品が大半となっています。

MCカートリッジ分類時の「ローインピーダンス」「ハイインピーダンス」という区分方法については、この内部インピーダンスの高低を指して呼称しています。オルトフォンの製品は、一部例外はありますが内部インピーダンス2~10Ω程度の「ローインピーダンス」に属しているものがほとんどです。

昇圧トランス使用時は、MCカートリッジの内部インピーダンスと昇圧トランス入力側(1次側)の対応インピーダンス(後述)が整合している(マッチングしている)ことが理想的です。なお、MCカートリッジと昇圧トランス間のインピーダンスが整合していない場合、低音が薄く聞こえるなどの変化がみられることはありますが接続しているオーディオ機器が故障したり、破損することはありません。

ⅱ.昇圧比
前項「MC昇圧トランスについて Vol.1 トランス概説編」で述べた通り、トランスの1次側と2次側にターン数の差があると出力時に変圧することができます。MC昇圧トランスの場合は「昇圧」とある通り2次側のターン数が増やされていて、1次側から2次側に信号を流すと数倍~数十倍の昇圧を行うことが可能です。

昇圧比はdB(デジベル)で表記されることもありますが、この数字が大きいほどトランスによって昇圧されるレベルが上がるとご理解ください。

ⅲ.対応インピーダンス

対応インピーダンス切替が可能な、Ortofon ST-70

対応インピーダンス(デンマーク本社の英語表記:Recommended cartridge impedance)は、MC昇圧トランスに接続する相手となるMC型カートリッジ側の内部インピーダンスに対し、昇圧トランス側が対応しているインピーダンス値を記したものです(例:昇圧トランス側の対応インピーダンスが2-60Ωと表記されている場合、内部インピーダンス2-60ΩまでのMC型カートリッジに対応していることを指す)。

よく誤解されがちではありますが、昇圧トランスの1次側インピーダンスを表記したものではありません。また、英語表記に「Recommended」とある通り、この値は推奨値です。対応インピーダンスの範囲を超過した内部インピーダンスのMC型カートリッジを接続しても、機器が破損することはありません。

フロントパネルで対応インピーダンス切替が可能な、Ortofon EQA-2000
Ortofon EQA-2000のMC入力回路に搭載されている昇圧トランスユニット

また、オルトフォンの現行製品ST-70や同一ユニットを搭載したEQA-2000 フォノイコライザーアンプのように、一部の昇圧トランスでは対応インピーダンスの切替が可能な製品もあります。その場合は、なるべく接続対象のMC型カートリッジの内部インピーダンスに合わせて設定を行うようにしましょう。ST-70の対応インピーダンス切替方法については、下の動画を参照してください。

下の動画は、アナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、MC昇圧トランスやMCヘッドアンプの対応インピーダンスを合わせる時の方法について解説しているものです。使用時のセオリーや心構えについても述べられておりますので、併せてご参照ください。

MC昇圧トランスについて Vol.3 へ続く

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