このページでは、SPUなど重質量なカートリッジのセッティング方法・注意点についての解説を行います。
本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、重質量なカートリッジのセッティングやその注意点についての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
レコードプレーヤーを使用し、アナログレコード再生を楽しむ趣味を深めてゆくと、カートリッジを増やしたりアップグレードを検討し始めることがあるでしょう。
そういった際に、検討モデルのカートリッジがヘッドシェル込みで20g台後半を超える重質量なモデルであった場合、お手元のプレーヤーにセットされているトーンアームで使用することが可能かを確認する必要があります。本項ではまず、その確認方法についてを解説してゆきます。
最初に、カートリッジ重量の表記方法について説明します。多くの場合、取扱説明書では「自重」という単語が用いられますが、これはカートリッジ自体の重量を指しています。そしてトーンアーム側が対応可能な範囲のカートリッジ自重については「対応自重(もしくは対応重量)」と表記される例が大半を占めます。この「対応自重」はトーンアームに装着し、問題なく使用することが可能なカートリッジの自重範囲を指しており、トーンアームに帰属する仕様です。そのため、対応自重を調べる際はトーンアームの取扱説明書(単売トーンアームの場合)を、販売時にあらかじめトーンアームが据え付けられているレコードプレーヤーの場合はプレーヤーの取扱説明書のうちトーンアームに関連するページの記載を参照しましょう。
一般的に、トーンアームの対応自重は(ヘッドシェル+カートリッジ)10g台前半~20g台後半となっているものが大半を占めます。現在市販されているカートリッジとヘッドシェル自重のボリュームゾーンは合計自重20g台までが多いため、軽質量なカートリッジを使用する際はこれをあまり気にする必要はありません。
しかし、オルトフォンのSPUシリーズに代表される一部の重質量なカートリッジは、ヘッドシェルとの合計自重が30gを超過します。こういったカートリッジの導入を検討する場合は、必ずトーンアーム側の対応自重を確認してください。トーンアームの対応自重範囲をオーバーした状態で重質量なカートリッジを装着すると、ゼロバランスが取れず適正な針圧値を大幅にオーバーした状態となります。その状態で無理にレコード再生を行うと、カートリッジとレコード盤、場合によってはトーンアームにもダメージを与えますので絶対に控えてください。
ヘッドシェルとの合計自重が30gを超えるカートリッジは、基本的にはそれに対応した機構の堅牢なトーンアームでの使用が前提となります(例:Ortofon AS-212/309R)。トーンアームが交換可能なプレーヤーの場合は、カートリッジに適合したトーンアームの検討をすることも一つの方法です。
先にも述べたとおり、SPUシリーズをはじめとする重質量カートリッジが使用可能なトーンアームやプレーヤーは限られます。しかし、重質量なカートリッジを手軽かつ簡単に使用する方法が皆無というわけではありません。その一例を、以下に紹介してゆきます。
ここでは、重質量カートリッジの中からオルトフォンのSPUシリーズを使用する方法を例に挙げて解説します。SPUを取り付ける先として選択したプレーヤーは、ダイレクトドライブ式フォノモーターを使用したTechnics SL-1200シリーズです。現行シリーズが存在し入手性もよく、また初心者でも取り扱いが容易なSL-1200は、プレーヤーに取り付けられたトーンアームにカウンターウェイトを装着するためのウェイトシャフト先端にサブウェイト取付用のネジ穴があります(初代モデルを除く)。ここにサブウェイトを装着すると、未装着時に比べてはるかに広い範囲のカートリッジ自重に対応することが可能となります。
そしてSL-1200シリーズには、かつて純正の重質量サブウェイトSH-1200W-S(生産完了)があり、これのSPU用ウェイトを使用することで自重30~33gまでの重質量カートリッジに対応していました。このサブウェイトを装着して重質量カートリッジを使用する方法を解説しているのが、下の弊社公式YouTube動画です。
ただ、この方法ではヘッドシェルを含む自重33gまでのカートリッジであれば対応可能ですが、これ以上の自重をもつカートリッジを使用することはできません。SPUシリーズの場合、特に重質量な現行GTシリーズなどはこのウェイトの対応範囲外でした。
この状況に対応するため、オルトフォンは自重38gまで対応可能な重質量サブウェイト、OP-1200-SPUを開発しました。トーンアームへのウェイト装着方法は純正品と同一としつつ、ウェイトを二分割方式とすることで自重30g以下のカートリッジ(例:SPU SynergyやMC Xpresson、自重28g)や、反対に33gを超えるもの(例:SPU GTE 105、自重34g/SPU GTXシリーズ、自重38g)への対応も可能としています。
SL-1200シリーズ(Mk2モデル以降)にOP-1200-SPUを装着し、重質量なカートリッジを使用した際の対応自重範囲は以下の通りです。
・メインウェイトのみ :ヘッドシェルを含むカートリッジ自重28~32g
・追加ウェイト「小」併結時:ヘッドシェルを含むカートリッジ自重32~36g
・追加ウェイト「大」併結時:ヘッドシェルを含むカートリッジ自重36~38g
SPUシリーズを例とした場合、軽量なSynergy(自重28g)やClassicシリーズ(30g前後)はメインウェイトのみでの使用が可能ですが、自重34gのGTE 105は追加ウェイト「小」の併結が必要となります。更に重量級となる38gのGTXシリーズの場合は、追加ウェイト「小」を外し「大」へ交換することで使用が可能となります。
なお、上記の対応一覧はあくまでも目安値です。実際の使用にあたっては、歴代SL-1200シリーズの仕様差や個体ごとのカウンターウェイト重量差などにより上記対応一覧から若干の差異が発生する可能性もあります。
また、本製品使用時に加圧可能な針圧の最大幅(目安値)は3.5~5.0gです。一部で最大針圧4.0gまでとなる個所もあります。
そして本項ではSPUシリーズを例として解説していますが、ヘッドシェルを含む自重が上記対応一覧の範囲に適合するカートリッジであれば同様に使用することが可能です。製品の仕様上、使用にあたってのハードルが高い重質量カートリッジをより手軽に導入するための一助となりましたら幸いです。