ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2022.06.20
アナログ講座・応用編

MCカートリッジの昇圧・音量増幅の方法について

本ページでは、レコード針(カートリッジ)の音量アップに用いる、MC昇圧トランスMCヘッドアンプの概要・使用方法についてご紹介します。

最初にMCカートリッジと使用機器の概要を述べた後に、弊社公式YouTube動画も交えて具体的な内容をお伝えします。

Ⅰ.MCカートリッジの音量アップ方法について

レコード針(カートリッジ)を用いて音楽再生を行う際、レコードプレーヤーから伸びている信号ケーブル(フォノケーブル)は多くの場合アンプのPHONO入力に接続して使用します。ただ、使用するカートリッジのアップグレードなどにより、MC型カートリッジを使用する場合はそれに対応した機材や使用環境を整える必要があります。

MM型(左)とMC型(右)の内部構造図

上図はMM型とMC型の内部構造を示した図です。左側のMM型はカートリッジ本体にコイル巻線(赤銅色部分)が大量に巻かれているため出力電圧を高く(音量を大きく)取ることが可能ですが、コイル巻線が巻かれた部分が振動系(下図)として動作するMC型の場合は巻線のターン数(巻数)を増やすことが難しく、結果としてMM型に比べ出力電圧が低く(音量が小さく)なります。

一般的なMC型カートリッジの振動系を示した図

このように、基本的にMC型はMM型に比べて再生時の音量が小さいため、それを補うための機材や再生環境が必要となります。現在その方法は、

① MC昇圧トランスによる昇圧

② MCヘッドアンプによる音量増幅

③MC昇圧トランス内蔵のフォノイコライザーアンプを使用

④MCヘッドアンプ内蔵のフォノイコライザーアンプを使用

の4種類が主流となっています。それぞれの方法について、下記に説明します。

① MC昇圧トランスによる昇圧

MC昇圧トランス Ortofon SPU-T100(生産完了)

MC型カートリッジの音量アップの方法として、最も古典的かつ王道といえるのがMC昇圧トランスを使用した出力電圧の昇圧です。一般的によく「トランス」とも称されますが、電源トランスや音声信号用のライントランスとの混同を避けるため、本項では「MC昇圧トランス」と呼称します。

MC昇圧トランスの使用時は、レコードプレーヤーに取り付けられたトーンアームから伸びているフォノケーブルを昇圧トランスの入力(一次)側に挿し出力(二次)側から出たケーブルはプリもしくはプリメインアンプのPHONO入力やフォノイコライザーアンプの入力端子(いずれもMM入力)に接続します。いわば、レコードプレーヤーとアンプのPHONO入力との間に音量アップのブースターを噛ませた状態であるといえます。

また本製品の利点は動作に電源を必要としないため、昇圧トランス自体がノイズの発生源とならない点にあります。そして、音色は下に挙げる2つの方法に比べ濃密でエネルギッシュな傾向をもちやすくなります。

最後に、MC昇圧トランスの使用時には併用するMCカートリッジの内部インピーダンスに合わせ、トランス側の対応インピーダンスが対応しているかを確認した方が良いでしょう。そして昇圧トランスを製造・販売しているカートリッジメーカーは基本的に自社のMCカートリッジとのマッチングを最優先として設計しているため、昇圧トランスを初めて使用する際はカートリッジと同一メーカーの製品を使用してみることを推奨します。


② MCヘッドアンプによる音量増幅

MCヘッドアンプ Ortofon MCA-76(生産完了)

MCヘッドアンプは、MC昇圧トランス同様にレコードプレーヤーとアンプのPHONO入力との間に接続してMCカートリッジの音量アップを行うための機器です。結果だけを見ると両者の役目は一緒ですが、音量アップの手段がトランス(変圧器)による昇圧ではなく真空管やトランジスタなどによる音量増幅であること、またこれらの増幅素子を動作させるための電源を必要とする点がMC昇圧トランスとの相違点です。

なお単体製品としてのMCヘッドアンプは、MCカートリッジの出力する信号をMMレベルまで音量アップさせることを役目としています。後述のフォノイコライザーアンプとしての機能は持ち合わせていないため、MCヘッドアンプからの出力はプリもしくはプリメインアンプのPHONO入力、またはフォノイコライザーアンプの入力端子(いずれもMM入力)に接続する必要があります。

MCヘッドアンプ(PNONO内蔵のものを含む)には、アンプ側で負荷インピーダンスの切替が可能な製品があります。この場合は、MCカートリッジ側の推奨負荷インピーダンスの値に合わせてアンプ側のセレクターを最も近い値とすることを推奨します。


③MC昇圧トランス内蔵のフォノイコライザーアンプを使用

MC昇圧トランス内蔵フォノイコライザーアンプ Ortofon EQA-2000

フォノイコライザーアンプやPHONO入力対応のプリもしくはプリメインアンプの中には、MC昇圧トランスを内蔵してMCカートリッジに対応している製品があります。

Ortofon EQA-2000に内蔵されている2種類のMCトランスユニット

先に述べた昇圧トランスの魅力を味わえる一方でパーツとしてのコストが高額となるため、この仕様は多くの場合ハイエンドモデルやメーカーのフラッグシップに、または増設スロットなどを用いた差替式ユニットとして製品アップグレードのメニューに採用されているケースが多数を占めます。



④ MCヘッドアンプ内蔵のフォノイコライザーアンプを使用

MCヘッドアンプ内蔵フォノイコライザーアンプ Ortofon EQA-444

フォノイコライザーアンプの仕様として現在多くみられるのが、MCヘッドアンプを内蔵してMCカートリッジにも対応したフォノイコライザーアンプです。回路の構成上MCヘッドアンプは小型化が容易なため、フォノイコライザーアンプ内部に組み込んでMC入力に対応させ、スイッチやケーブル接続でMC/MMの各ポジション変更を可能とし、利便性を向上させています。

また、プリもしくはプリメインアンプのPHONO入力にもMCヘッドアンプを内蔵させてMC入力に対応させている製品もあります。音質のクオリティや対ノイズ面を考慮すると単体製品の方が勝ってはいますが、利便性という点では申し分ありません。


以上がMCカートリッジ使用時の基本的な音量アップ方法です。このうち、本項では①の「MC昇圧トランスによる昇圧」の方法を紹介してゆきます。

Ⅱ.MC昇圧トランス内蔵モデル「SPU-GT」シリーズ

2023年に復活した、Ortofon SPU GTE 105

MCカートリッジの音量アップを行う手段のひとつとして「MC昇圧トランスによる昇圧」を先に述べましたが、この方法にはいくつかのバリエーションがあります。単体のMC昇圧トランスを接続する方法や昇圧トランス内蔵のフォノイコライザーアンプを使用する方法のほかに、MCカートリッジのヘッドシェル内部にMC昇圧トランスを内蔵する方法もあります。

MC昇圧トランスを内蔵したSPU-GTシリーズの内部構造図

これを用いた代表例が、MC昇圧トランス内蔵型のSPU-GTシリーズ(上図)です。一般的なMCカートリッジの本体にあたるSPUユニットのすぐ後ろに昇圧トランスを配置することで、ユニットがピックアップした音声信号の減衰を最小限に抑えることが可能となっています。ユニット、ヘッドシェル、昇圧トランスを合計した自重が30gを超えるため使用可能なトーンアームは限られますが、本シリーズ特有の鮮烈な音色はこの内蔵トランスの賜物です。

下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、SPU GTシリーズについて解説しているものです。先に述べたトランス内蔵の利点やシリーズの特徴など、非常に踏み込んだ内容についても述べられておりますので併せてご参照ください。

Ⅲ.オルトフォンのMC昇圧トランス

ここからは、現在オルトフォンが製造している3種類のMC昇圧トランスを紹介してゆきます。各機種ともに仕様や音色に特徴があるため、使用するMCカートリッジに合わせて選択することが可能です。

なお、いずれの製品もアンプのPHONO入力接続時はMMポジションの入力端子への接続が必須です。MCポジションへの入力は過入力となりますので十分にご注意の上、お控えください。

フルバランス接続に対応したモデル、ST-90

本体シャーシ上に立つ、アルミ切削による2本のトランスユニットケースが特徴的なST-90は、入力(一次)側と出力(二次)側双方のフルバランス伝送を可能としています。またアンプのPHONO入力側がアンバランスのRCA端子のみである場合にも備え、一般のアンバランス接続にも対応可能としています。なおXLR端子(入出力ともに2番ホット)を用いたバランス接続時は、背面中央(下の写真)にあるアース端子にアース線を接続する必要はありません。

なお本機は、自社MCカートリッジをはじめとした様々なMCカートリッジとの組み合わせを想定して可能な限りナチュラルな、色付けの少ないサウンドを目指して開発されました。レコード盤やカートリッジの音色をそのまま再現する昇圧トランスです。

また本機を用いてMC入力のバランス伝送を行う際は、XLR端子が備えられたフォノケーブル6NX-TSW1010Bなどの使用を推奨します。

フルバランス伝送に対応した、ST-90の背面
XLRバランス入力に対応したフォノケーブル、オルトフォン 6NX-TSW1010B



Lundahl社製のトランスユニット採用、ST-70

オルトフォンのデンマーク本社が開発したST-70は、隣国スウェーデンのトランスメーカー、Lundahl社製のオルトフォン専用特注トランスユニットを採用したハイエンドなモデルです。そのサウンドは極めて精緻でクリアにつき、高解像度・ワイドレンジな現代型のMCカートリッジとの相性は抜群です。

なお、ST-70はトランス内部のピンを挿し換えることで対応インピーダンスの変更を行うことが可能です(後述)。

ST-70の背面

コストパフォーマンスに優れたモデル、ST-7

ST-7は、ST-90の廉価モデルとして様々なカートリッジとの組み合わせを想定して開発したMC昇圧トランスです。エントリーモデルらしくコストパフォーマンスにも優れており、最初に使用するMC昇圧トランスとしても最適な製品です。

ST-7の背面

Ⅳ.MC昇圧トランスのインピーダンス切替

MC昇圧トランスは、機種によってトランス側の対応インピーダンスを切替可能な製品があります。インピーダンスの切替方法は機種によって様々ですが、ここではオルトフォンの現行製品ST-70を例として挙げます。

ST-70のインピーダンス切替は、セレクター接点の劣化などを避けるためにジャンパーピンの差し換え方式となっています。詳細は下の弊社公式YouTube動画にて紹介していますので、あわせてお目通し下さい。

最後に、オルトフォン製品をご使用で、かつ本ページを読んで対応策を施しても状況が改善しない場合は、弊社お問い合わせフォームよりご質問下さい。担当者より折り返しご連絡させて頂きます。

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