ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2025.03.28
レコード盤
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レコード盤について Vol.4 クリーニング(洗浄)編

本ページでは、レコード針(カートリッジ)を用いて再生する、レコード盤(アナログレコード)についての解説を前ページに引き続いて行います。

今回はレコード盤のクリーニングについての概要を述べた後に、この『アナログオーディオ大全』の他ページや弊社公式Youtubeチャンネルも交えて具体的な内容をお伝えします。

なお、カートリッジそのものについての基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

レコード盤クリーニングの重要性について

「レコードに針を降ろす」という言葉があります。その言葉の通り、レコード盤を再生する際にはレコード針(カートリッジ)の針先を直接盤面に接触させることで、そこに刻まれた音楽をピックアップ(読み取る)ことが可能となります。

レコード盤音溝の形状模式図(左:ステレオ盤/右:モノラル盤)

上の図はレコード盤に刻まれている音溝の模式図です。ステレオ盤の場合、左右45度に刻まれたV字型の音溝表面にも無数の凹凸が刻まれています。ここに針が降りると、下図および下の写真のような様子となります。

様々な種類のスタイラスが音溝に降りている様子
Ortofon 2M Redのスタイラスがレコード盤面をトレースしている様子

上の図および動画を見ると、音溝に針先が降りている時の様子とスタイラスごとのトレース動作の違いをご理解頂けることと思います。また、カートリッジの針先(スタイラスチップ)は肉眼で辛うじて視認できる程度のサイズにつき、実際のサイズ感覚は上の写真程度となります。

つまり、レコード盤の音溝とカートリッジ針先は双方ともに極めて微細なものであり、これらの表面が奇麗であって初めてレコード再生は完璧となります。逆に双方の表面に異物やゴミなどの付着やホコリなどの巻き込みがあると、その全てが再生音のクオリティを損ねる原因になります。そればかりか、レコード盤面の読み取り時に盤面を痛めたり、カートリッジの寿命を著しく縮める原因にもなり得ます。

これを避けるため、レコード再生にあたってはレコード盤面とカートリッジ針先のクリーニングの双方が不可欠となります。本項では、このうちレコード盤面のクリーニング方法について代表的な4パターンを挙げ、解説を行ってゆきます。


Ⅰ.乾式レコードクリーナー

Ortofon Record Brush

乾式レコードクリーナーは、レコード盤のクリーニング方法として最もポピュラーなものといえます。

上の写真に挙げたようなブラシ式のものやベルベットの布地を用いるものなど、古くから数多くの製品が存在しています。日頃レコードを聴く方であれば、レコードプレーヤーの傍らにひとつくらいは乾式クリーナーが置かれているのではないでしょうか。

ちなみに、上に挙げたオルトフォンのRecord Brushは、カーボンファイバーの微細毛を前後2列に配し、毛の先端でレコード盤上のゴミやホコリを排除するタイプのブラシ型乾式クリーナーです。本製品の場合はカーボンブラシとハウジングに導電性があるため、盤面にブラシをかけると同時に盤面→ブラシ→人体を経由して静電気を逃がす(除電)ことが可能です。

レコード再生に際して、静電気は様々な理由でその大敵となります。そのため、日頃の簡易な乾式クリーニングとあわせて小まめに盤面の除電を行うことを推奨します。

Ⅱ.湿式レコードクリーナー

湿式レコードクリーナーは、先に述べたブラシやベルベット方式のクリーナー、専用クロスなどに精製水やクリーニング液を付けてレコード盤面に塗布し、汚れ落としと除電をあわせて行うものや粘着式の素材にゴミを付着させるタイプのものが一般的です。乾式クリーナーの使用だけでは除去することが困難な汚れやホコリも、精製水やクリーニング液で浮かせることで落としやすくすることが可能です。また、水で濡らすことでより完全にレコード盤に帯電した静電気を除去することが可能なため、しばらくクリーニングしていない盤や未洗浄の中古盤などは湿式クリーニングを行った方が良い場合もあります。

ちなみに、湿式クリーナー使用時に洗浄液や水を用いた場合、使用後の十分な拭き取りもしくは乾燥を行わないと、盤面にシミが残ったり洗浄液の成分が盤面に残存してしまう可能性があります。

状況次第ではレコード再生時にカートリッジ側のスタイラスチップ先端に残存した洗浄液の成分が付着したり、カートリッジそのものにダメージを与える恐れもありますので、クリーナーや洗浄液に付属している取扱説明書をよく読んでご理解の上、指定通りの使用方法を守ることをお勧めします。

Ⅲ.バキューム式レコードクリーナー

先に述べた乾式・湿式クリーナーは、盤面を人の手でクリーニングするという方法では共通しています。しかし、ここからはレコード盤をクリーニング用マシンにセットして機械洗浄を行う際の方法を解説してゆきます。

レコード盤の洗浄を行う機械は、概ねバキューム式と超音波式(後述)に大別されます。本項ではバキューム式クリーナーの概要について解説してゆきます。

バキューム式レコードクリーナーの多くは、クリーニングマシンのプラッター(回転盤)にレコードを載せ、盤面に洗浄液などを塗布して汚れを浮かせたら機器のバキューム機構を作動させて洗浄液ごと吸引してクリーニングを行うものが一般的です。機種によっては回転盤が電動となっていたり、一部機能が自動化されているものもあります。また、盤面洗浄用のブラシが機構として組み込まれているものもあります。

先述の湿式クリーナーを用いた場合に比べ、バキュームで吸引を行うためクリーニング後の汚れ除去がより完璧となる傾向にあります。ただ、吸引機構(概ね掃除機と同様)の作動音が大きいものが多く、集合住宅や夜間の使用が難しい場合もあります。

Ⅳ.超音波式レコードクリーナー

超音波式レコードクリーナーは、洗浄槽内に張った水に高周波の超音波を当てることで水を振動させ、そこで発生した細かな泡が破裂する衝撃のエネルギーでレコード盤表面の汚れを落とす機器です。一般的にはレーベル面やレコード盤外周以外の盤面は水で覆われるため、大切な音溝部分を(ブラシなどを当てずに)完全非接触で洗浄することが可能です。また、盤面を隈なく水で濡らすため除電の効果もあわせて得ることができます。

上の動画は、オルトフォンジャパンが取り扱っている欧州エストニア製の超音波式レコードクリーナー、Degritter MkⅡの超音波ユニットをイメージとして示したものです。

Degritter MkⅡの場合、レコード盤の洗浄のみを目的とした専用品として設計された洗浄槽は、盤面を水に浸けるための最低限の薄さしかありません。その側面には、左右2基ずつ、合計4基の超音波ユニットが搭載されています。レコード盤面に対して最も高効率に超音波エネルギーを当てることを可能とした本機は、超音波式クリーナーの中でも極めて強力な洗浄能力をもちます。

また、本機は本体後部の洗浄水タンクに精製水を入れて電源を投入し、レコード盤をセットすると洗浄→乾燥までを全て自動で行うことが可能です。大量のレコードをもち、手間をかけずに最高の状態で管理したい方にとっては最適な製品と思われます。

さらに、超音波式レコードクリーナーの使用時には洗浄槽の水温上昇が付き物となります。Degritter MkⅡの場合は、洗浄槽内に水温センサーが設けられており、一定の水温を超過すると洗浄作業を停止し、洗浄水の冷却を自動で開始するプログラムが組まれているため、水温の過熱でレコード盤にダメージを与える恐れはありません。

なお、超音波式レコードクリーナーには様々な製品が存在しますが、超音波の使用周波数が10kHz以上、かつその出力が50Wを超えるもの(旧郵政省および総務省の『型式指定』を受けているものは使用周波数50kHzまで)は、電波法第100条で定められた『高周波利用設備』に該当します。これに該当する超音波式レコードクリーナーは、使用者(条文上は『設置者』)自身が電波法で定められた許可申請・届出を提出して総務省より使用の許可状交付を受けねばならず、無許可での使用は違法(罰則あり)となります(先に述べたDegritter MkⅡは、オルトフォンジャパンの扱う正規品は電波法に則った日本専用仕様。なお最大出力300Wでの使用には許可申請が必要となるが、使用者の希望があれば申請手続を代行)。

レコード盤用に限らず、近年は様々な超音波洗浄機が容易に購入可能となっています。しかし、上記の条件を超えるものの無許可設置(使用)は違法となりますので、購入・導入時には機器側のスペックデータを十分に確認されることを推奨いたします。

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