本ページでは、レコード針(カートリッジ)の取付ネジを本体に直留めする利点についての解説を行います。
カートリッジをヘッドシェルに取り付ける方法について重点的に扱っていたり、基礎的な内容について解説したページもございますので、先に「レコード針のヘッドシェル取付方法について」と「カートリッジのヘッドシェル取付用ネジについて」、「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
レコード針(カートリッジ)は、トーンアームやヘッドシェルに固定して使うことが一般的です。その際に最も多く用いられる方法は、小型のネジを用いてカートリッジをヘッドシェルやトーンアームに取り付けるものです。この場合、下記の3パターンが主流となります。
ⅰ.ヘッドシェルの貫通穴にネジを通し、ナット留めを行う

古来より一般的なのは、ヘッドシェルの貫通穴に取付ネジを上から通し、カートリッジ本体をネジの間にはめ込んでから下端部をナット留めして固定するものです。この方法を用いるカートリッジは、固定ネジを上下双方から通すことができるため対応可能なヘッドシェル(および一体型トーンアーム)の範囲が広いという利点があります。オルトフォンでは、この方法をOMシリーズとVNLシリーズで用いています。
ⅱ.ヘッドシェルの貫通穴を通したネジを、カートリッジ本体天面で締める

先の方法を一段階合理化させたものとして、カートリッジ天面に2本の取付ネジ用穴を開け、そこにタップを切って取付ネジを直接カートリッジ本体にネジ留めする方法があります。オルトフォンでは、この方法を先述の2シリーズを除く全モデルで採用しています(ヘッドシェル一体型のカートリッジを除く)。

この方法の特徴や利点については、次項「Ⅰ.カートリッジ本体のネジ取付穴について」で詳しく解説します。
ⅲ.カートリッジの底面からネジを通し、シェル裏面に固定する

もうひとつ古典的な方法としては、カートリッジ本体にネジを下から通してヘッドシェルの裏面でネジ留めするものです。ヘッドシェルが文字通り「シェル」状の形をしていた時代はこれが一般的で、オルトフォンのSPUシリーズなどはこの特徴を受け継いでいます。構造やデザイン上の制約などで、天面にネジ穴を貫通させないタイプのヘッドシェルはこの方式を用いることがあります。

ここでは、オルトフォンのカートリッジで用いられている天面のネジ穴について解説を行います。
天面に2本開けられているネジ穴は、中心点間の距離が1/2インチ(12.7㎜)となっており、これは全ての機種に共通です。
また、穴には「M2.5」のタップが切られており、これに合ったネジを直接締め付けることができます。なお、ネジ径「M2.5」はオルトフォンが用いている規格で、国内各社で用いられている「M2.6」のネジを使用することはできません。
この方法の利点については、次項で解説します。
先にも述べたように、オルトフォンのカートリッジの多くはカートリッジのハウジング天面に開けられたネジ穴で、取付ネジを直接締めて固定するタイプとなっています。これにより、ネジ締め用のナットを必要としないことを最大の特徴としており、その利点を以下に述べてゆきます。
ⅰ.部品点数の削減
ネジ締め用のナットは、最低でも左右分の2点を必要とします。場合によっては、これにワッシャーが加わります。取付ネジを本体に直止めすることで、これらの部品点数を減らして製造コストを削減することができます。また、ネジの取付作業にあたってもナット取付分の工数を減らすことができるため、これを容易とするメリットがあります。
ⅱ.ヘッド部分質量の削減
カートリッジ本体に取付ネジを直留めすると、ナットの分の質量を削減することができます。しかし、ネジ締め用の小さなナットが減ったところで、削減可能なヘッド部分(ヘッドシェル+カートリッジ本体の総称)の質量はわずかなものです。これについては、ただ質量が減らせるということではなく、ナットの位置と質量がカートリッジ動作時に与える影響という点に主眼を置く必要があります。これについては、下記に述べてゆきます。
ⅲ.ヘッド部分の動作を「正確」に近づける
言葉を選ばずに書くなら、ヘッド部分におけるカートリッジの取付ネジとナットは「必要悪」そのものと言えます。
カートリッジとヘッドシェルの交換が容易になる、ネジの材質で音色を変化させる選択の楽しみが増える、ということ以外に特段の利点はなく、ヘッドシェルの左右両端にありシェルの面から上下に張り出した格好のネジとナットは、レコード再生中にヘッド部分がトーンアームの支点を中心点として上下左右に動作すると、錘として不要な遠心力を加える要因となります。
SPUシリーズなどの重質量・重針圧でコンプライアンスも低いカートリッジを除き、一般的に極めて軽量である振動系の動作時には、錘となったネジやナットが与える質量移動の影響を無視することはできません。また、振動系のコンプライアンスが高い、もしくはカートリッジの自重が軽いほどその影響は多大なものとなります。これを極力回避して「正確」な動作を実現するため、オルトフォンは下の写真で示したMC Xシリーズなどでカートリッジ天面に直接ネジ穴を開け、ナットを廃すると同時にカートリッジ動作時の質量移動にかかる影響を最小限としました。

これに加え、オルトフォンはカートリッジ取付ネジの長さにも着目しています。ここで述べたMC Xシリーズはネジ穴が貫通式となっているため(構造上は)長い取付ネジの使用も可能ですが、上位モデルのMC Cadenzaシリーズやそれ以上のハイエンドモデルではカートリッジ天面のネジ穴に底が設けられており、長いネジを使用することができません。

これは先に述べたナットと同様で、不必要に下方向へと長く伸びた取付ネジもまた、カートリッジの「正確」な動作には不要な錘となります。特に上の図で挙げたMC A MonoやMC 90X、MC Verismoなどではハウジングの中央部分がくり抜かれたスケルトン形状のボディを採用しており、極限まで質量配分を最適化させています。
仮に、ここに長い取付ネジや重さのあるナットを取り付けた場合、上記シリーズのボディ形状に込められた設計者の意図を完全に無視することとなります。こういった事態を避けるため、これらのモデルでは取付ネジの長さに(事実上の)制限を設けています。
このことは、カートリッジの本体形状もまた同様に左右の端まで張り出さないことが望ましいと結論付けることができます。オルトフォンの現行モデルの多くは、前面から見ると取付ネジを受けるための天面が左右に張り出している以外は磁気回路の幅にハウジングの厚みを足した程度の厚みをもったT字状のボディをもつものが多数を占めます。

なお、レコード再生(カートリッジ動作)を行うヘッド部分の質量バランスとその挙動を完璧なものとすべく、追い求めた理想を現実として結実させたのがオルトフォンのConcordeシリーズです(後述)。「必要悪」である取付ネジやナットだけでなく、ハウジングにも一切の贅肉を排したその姿は、特有の「正確」な音色を誇ります。

ここまではヘッドシェルにカートリッジをネジ留めした際の方法を述べましたが、これの一歩先としてカートリッジとヘッドシェルを一体構造とした方式についても解説します。オルトフォンではConcordeシリーズがこれに該当し、カートリッジ本体とヘッドシェルは同一のハウジングに収まっています。これにより「必要悪」なネジとナットが排され、カートリッジ+ヘッドシェルの質量配分はより理想的なものとなり、トレース時のカートリッジ動作と、それに伴う音溝の読み取りをより正確にすることができます。
ただし、この方式の製品はユニバーサル型トーンアームへの取付を前提としているため、下の写真のようにヘッドシェルとトーンアームのパイプが一体型となっているタイプのものには取り付けることができません。その場合は、一般的な形状のカートリッジを用いる必要があります。
