ortofon JAPAN CO,LTD.

アナログオーディオ大全

2022.08.17
フォノ関連機器

フォノイコライザーについて Vol.3 RIAAカーブ編 Ⅱ

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生用のフォノイコライザーアンプに使用されているイコライザーカーブ、RIAAカーブについて前項に引き続きご紹介します。

基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「フォノイコライザーについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

※本項は、RIAAカーブに関する内容についての基礎的な解説を行うものです。RIAAカーブ制定以前のイコライザーカーブは多岐にわたり、またRIAAカーブ制定以降の長い歴史の中には様々な例外や特殊な事例が存在していますが、これらは本項で扱う内容を超えた専門的な事項となるため割愛し、基礎・原則に絞った解説を行っています。

Ⅰ.RIAAカーブと速度比例型、そしてカッターヘッド

前項では「RIAAカーブ」と「速度比例型」のカートリッジについての基礎的な内容を解説しました。本項では一般的なカートリッジと同じく速度比例型である、レコード盤の録音に使用される機器「カッターヘッド」とそこから生まれた(同じく速度比例型の)MC型カートリッジについて述べ、この内容を踏まえた上で次項「フォノイコライザーについて Vol.4 RIAAカーブ編 Ⅲ」ではRIAAカーブと速度比例型という2つのキーワードを軸としつつ、RIAAカーブが具体的にどのようなはたらきを担っているのかを述べてゆきます。

そして本項と次項の内容を理解するためには、アナログレコードがどのように録音されているかを知る必要があります。そのため、本項ではレコードの録音を行う際の手順を述べた上で、レコーディングシステムの終端にあたるカッターヘッドについて解説するという手順を踏みます。

このカッターヘッドの存在や動作原理が、一般的なフォノイコライザーアンプに用いられているRIAAカーブの特性を決める上で大きく影響していたことはあまり知られていません。全てのレコードはカッターヘッドの動作によって音溝が刻まれており、この作業のことを「カッティング」と呼びます。

速度比例型のカッターヘッドで音溝をカッティングし、それを同じく速度比例型のカートリッジで再生する際に必要不可欠なものがRIAAカーブであるということを、その原理も含めて理解するための一助となれば幸いです。

Ⅱ.アナログレコードのカッティングに至るまでの手順

レコード盤のカッティングに至るまでの工程

上の図は、レコード盤への録音を行う際の大まかな流れを示したものです。古くはオープンリールのテープレコーダーで録音されていた音源は、近年では録音時点でA/D(アナログからデジタルへ)変換されることも増えてきました。

録音に際してはレコーダーに2本のマイクを接続して2トラックを用いた(最もシンプルなステレオ録音)ものもありますが、多くの場合は各楽器やボーカルなどを24あるいは48トラックなどのマルチトラックレコーダーで録音したオリジナルのテープもしくはデータ音源に対し、ミキシング・コンソールで録音自体の音圧や楽器ごとのレベルや位置調整などを行うミキシングを行います。マルチトラック録音された音源の場合、そのままではレコード盤へのカッティングが出来ないためオリジナルのデータは左右2チャンネル分の2トラックにトラックダウンされ、2チャンネルのステレオレコードの録音が可能なテープが製作されます。このテープはレコード盤へのカッティングを行う際に実際に使用される最終データ、つまりマスターとなるため、「マスターテープ」と呼ばれています。そしてマスターテープの製作作業をマスタリングと呼びます。

完成したマスターテープの音声信号は、再生時にカッティングに適した状態に調整された上で増幅され、カッティングを行うためのレコードプレーヤーともいえるカッティング・レースへと送られます。その信号の行きつく先は、同様にカッティング専用のカートリッジと例えるべき存在であるカッターヘッドです。このヘッドによって、レコードをプレスするための盤側のマスターとなるラッカー盤に音溝(グルーヴ)が刻まれてゆきます。


Ⅲ.カッターヘッドの構造と動作の方式について

Ortofon Type DSS 731 ステレオカッターヘッド

次に、実際にラッカー盤のカッティングを行うカッターヘッドの構造とその動作原理について解説してゆきます。カッターヘッドがレコード盤のカッティング作業において極めて重要な機器であり、その点で理解が必須であることは言うまでもありませんが、先に述べた速度比例型カートリッジとRIAAカーブとの関係についてを理解する際においても避けて通ることは不可能な内容です。

Ortofonのカッターヘッドの基本的な機構とマグネット(左)、コイル(右)それぞれの配置を示した模式図

上に示したものはオルトフォンがかつて開発・生産し、実際に多くのカッティング・レースに装着されていたType DSS 731ステレオカッターヘッドの模式図です。カッターヘッドの構造と動作の方式については代表的なものが数種類ありますが、本項ではそのひとつであるオルトフォンが用いた機構を例として解説します。

カッターヘッドに音声信号が送られると、ドライブ用/フィードバック用コイルが付けられたヘッドの振動系(針先の可動部分)は、信号に合わせてスピーカーユニットのように動作する

音声信号に合わせて生じる上下運動はジョイントとロッキング・ブリッジを伝ってカッティング・スタイラスに伝わる

左右チャンネルの信号レベル差がそのまま強弱となってラッカー盤にカッティングされる

これは例えるなら、道路工事に用いるような削岩機を左右二連に並べ、先端でブリッジ状に連結してアスファルトの路面に溝を刻んでいると考えればイメージしやすいかもしれません。そしてヘッドに音声信号が流れることで振動系が動作するということは、一般的なMCやMM型などのカートリッジとはちょうど真逆の動作原理となっていることが分かります。

このように、カッターヘッドが動作することでラッカー盤に音溝が刻まれてゆき、塩ビ素材をプレスしたレコード盤となって販売されます。このレコードをカートリッジの針先がトレースすると、音溝の凹凸が再び電気信号に変換され、スピーカーから再生することが可能となります。

Ⅳ.カッターヘッドは「速度比例型」

Ortofon Type DSS 661ステレオカッターヘッド

先に述べた通り、レコード盤に音溝を刻むためのカッターヘッドは一般的に販売されているMCおよびMM型カートリッジ同様にコイルとマグネットを内蔵しています。そのため、カッターヘッドもこれらのカートリッジ同様に速度比例型の構造であるといえます。そのため、録音する音声信号の周波数が高い(音が高い)ほど振動系部分の動作が速くなり、それに比例して音溝としてラッカー盤に刻まれる音声信号の出力も上がり(音量が大きくなり)ます。

図1:RIAAカーブの模式図

RIAAカーブに代表されるイコライザーカーブはカッターヘッド動作時に周波数の高低差によって生じる音量の差をカバーする役目も持っているため、音声信号がカッターヘッドに入る手前でカーブ(上図の赤線)をかけて特性を変化させ、カッティングを可能とするため下図左の状態から右の状態になるように調整されています。

図2:RIAAカーブがかかる前(「図1の緑の点線状態)の音声信号
図3:RIAAカーブがかかった(「図1の赤線カーブ通過後)の音声信号

この一連の詳細については、次項「フォノイコライザーについて Vol.4 RIAAカーブ編 Ⅲ」で解説します。

高性能カッターヘッドにあわせて開発されたType-C

なお、オルトフォンはステレオ録音が実用化されるよりも前の1940年代後半からカッターヘッドの開発をスタートし、若き日のロバート・グッドマンセン氏もこれに深く携わっていました。このモノラルカッターヘッドは当時としてはあまりに高性能であったため、それに見合った性能の検聴(再生)用カートリッジも新たに開発されました。そのカートリッジこそ、現行品CG25Di MkⅡの祖にあたるモノラルMCカートリッジのType Cです。

民生用のType-A・業務用のOrtofon Type-C モノラルMCカートリッジ
Type-Cを祖とするOrtofon CG/CAシリーズの内部構造

上図で示したとおり、このType-CおよびCG/CAシリーズもコイルとマグネットを内蔵しているため、カンチレバー先端のスタイラスチップが音溝に物理的に刻まれた信号をピックアップし、それに沿ってコイルが動作することで発電が行われ、音声は再び電気信号となります。こうして見ると、MC型カートリッジはカッターヘッドとちょうど真逆の動作順序をたどっていることがより明確に理解できるでしょう。速度比例型であるカッターヘッドとMC型(およびMM型)が、互いに構造や動作方法の面で映し鏡のような関係にあるのは、こういった歴史的背景も関係しています。

「ステレオ・ピック・アップ」SPUの内部構造図

なおグッドマンセン氏はType-Cから約10年後のステレオ時代到来にあわせて誕生したMC型カートリッジ、SPU(上図)の開発も主導し、後に「ミスター・SPU」と称せられました。SPUもまたType-C同様に放送局やレコード会社などにおけるプレイバック・スタンダードとして活躍し、速度比例型であるステレオMC型カートリッジの代表例として今なお生産され続けています。

本項ではMCおよびMM型カートリッジと同じく速度比例型の構造をもつカッターヘッドの動作環境やその原理、特徴について解説した後に、オルトフォンが速度比例型のカートリッジを生産するに至った経緯と、その代表例であるType-CSPUについて述べました。次項では、実際にRIAAカーブが果たしている役割を中心に解説してゆきます。

フォノイコライザーについて Vol.4 RIAAカーブ編 Ⅲに続く

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