本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時にPHONO入力やMC昇圧トランスで行うことが可能なバランス伝送についてご紹介します。
基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「フォノイコライザーについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。
レコード再生時を含む、音響機器間でのアナログ信号伝送に際しては主にアンバランス伝送とバランス伝送があります。本項では最初に2種類の伝送方式についての基礎を解説した後、レコード再生におけるバランス伝送について述べてゆきます。なお、この「Ⅰ.アンバランスとバランスの違いについて」で述べる内容は、レコード再生時だけではなく全てのアナログ音声信号の伝送に当てはまる基礎的な内容です。
ⅰ.アンバランス伝送
上に示した図1はアンバランス伝送用ケーブルの内部結線例を示したものです。ケーブル両端にRCA端子や2極のフォーン標準/3.5㎜ミニ端子などを結線して使用されることが多く、民生用音響機器の音声用ケーブルの大半はこの仕様です。上に示した通りケーブル内部の信号線は最低2本あればよく、信号線はHot(ホット)のみ、もう1本をGND(グラウンドあるいはアース)としています。
信号線の外側を覆う同軸の外部導体が設けられたケーブルの場合は、ここにGNDを落としてシールドとして使用することが一般的です。ケーブルのシールドは接続された機器(例:プレーヤーとアンプ間など)のシャーシ(金属製のケース、筐体)に接続されますが、この状況下では送り線(接続先の機器に向けて出す信号を受け持つ線)のHotはGNDに落ちていないものの、帰り線(接続先から戻ってくる信号を受け持つ線)はGNDに落ちており、兼用となっているため送り線と帰り線で伝送の条件が異なり、いわばアンバランスな状態となってます。故に、この状態を指して「アンバランス伝送」もしくは「不平衡接続」と呼称されています。
ⅱ.バランス伝送
続いて上に示した図2はバランス伝送用ケーブルの内部結線例を示しています。図1のアンバランス伝送とは異なり、信号線がHotとCold(コールド)に分けられています。
音声信号の送り線がHotであるのはアンバランス伝送と共通ですが、帰り線とシールドの役目を分割して帰り線をColdに受け持たせ、GNDにはシールドのみを受け持たせている点が異なります。送り線と帰り線の伝送条件が(基本的に)共通であるため、「バランス伝送」もしくは「平衡接続」と呼称しています。
バランス伝送はアンバランス伝送に比べて外部ノイズの混入に対して耐性があり、また長距離の信号伝送にも適しているため、電話回線や業務用の音響システムでよく使用されてきました。近年では民生用のオーディオシステムでも好んで使用されるようになり、ハイエンドなプレーヤー、アンプの信号接続ではバランス伝送を使用することが一般的となっています。
一般的に、業務用・民生用を問わず音響機器のバランス伝送時にはXLR端子が用いられます。XLR端子の3本のピンには1番から3番までの番号が振られており、現在は2番Hot、3番Cold、1番GNDとするヨーロッパ式が主流で、オルトフォンのバランス接続対応製品も全て2番Hotとなっています。なお、一部の旧製品を中心に3番Hot、2番Cold、1番GNDというアメリカ式のピンアサインも存在しますので、機器間の接続時には注意が必要です。
なお、アンプやラインケーブルの接続端子がXLRである=バランス接続であると考えがちですが、(例:2番Hotの場合)3番と1番を結線させることでアンバランス接続状態の信号伝送を行うことも可能なため、XLR端子を使用している機器=無条件でバランス伝送用という訳ではありません。(オルトフォンのXLR端子使用製品は全てバランス伝送用となっています)
余談ではありますが、MCカートリッジは構造上Hot、Coldの信号線とGNDが接触していないためバランス伝送による接続を行うことが可能です。下の写真はオルトフォン MC Diamondの背面端子を示したものですが、この4色のピンには赤:RchのHot、緑:RchのCold、 白:LchのHot、青:LchのColdが割り振られています。
次に、レコード再生時に機器間をバランス接続した際の利点について解説してゆきます。先に述べたようにバランス伝送時はColdの信号線とGNDが分離しており、GNDに混じるグランドノイズがColdの信号線に混じることはありません。これにより、アンバランス伝送時と比較するとバランス伝送時の音色はS/N感に優れ、音像の定位や空間表現力が増すといわれています。
またMC型カートリッジは信号線にGNDが接触していないため、バランス伝送に対応したフォノケーブルやMC昇圧トランス、フォノイコライザーアンプなどを用いることで伝送経路のバランス化を行うことができます。インプット側にXLR端子を装備するなどしてバランス入力に対応したMC昇圧トランスを使用している場合は、プレーヤー→昇圧トランス間だけでも6NX-TSW1010Bのようなフォノケーブルに変更することでバランス伝送の効果を体感することが可能です。
また下の写真で示したST-90のような、入力のみならずバランスでの出力が可能なMC昇圧トランスを使用するとその傾向はより一層強まります。高解像度やワイドレンジ、ローノイズを追求する場合は言うに及ばず、ヴィンテージアナログを志向する際にも部分的にバランス伝送を取り入れ、SPUのまた一味違う魅力を堪能するという選択肢もあります。
上の写真はオルトフォンのMM型カートリッジ、VNLの背面側にあるリード線端子部分を写したものです。この背面端子を見ると、ピンアサインが緑(RchのCold側)の端子にGNDを結線するためのラグ板が装着されていることが分かります。このように、MM型カートリッジはMC型と異なりカートリッジの信号線とGNDが本体部分で導通しているため、Hot、Cold、GNDがそれぞれ分かれた理論通りのバランス接続を行うことはできません。そのため、バランス接続が可能なレコードプレーヤーやアンプのPHONO入力、フォノイコライザーアンプはいずれも「MC型カートリッジのバランス伝送」を行うものとして設計されています。
オルトフォンも下の写真の通り、自社のフォノイコライザーアンプEQA-2000のMMポジジョンにおけるXLR入力端子の呼称を「MC TRANSFORMER INPUT」とし、先に述べたMC昇圧トランスST-90のようなバランス出力が可能な製品の接続を想定して製品開発を行いました。
そのため、EQA-2000の使用にあたってはXLR端子を備えた「MC TRANSFORMER INPUT」にバランス出力が可能な昇圧トランスからのXLRケーブルを接続し、アンバランス出力の昇圧トランスやオルトフォンのSPU GTシリーズ、またはMM型カートリッジの使用時は隣の「MM」INPUTにアース線つきのRCAケーブルを接続して、それぞれをセレクターで切り替える必要があります。
なお「MC TRANSFORMER INPUT」にアンバランス接続の音声信号を入力して音楽を再生することは基本的に可能ですが、開発段階で想定されている使用方法ではないこと、また使用環境によってはノイズが発生する可能性があるため、メーカーとしてはこれを推奨していません。