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アナログオーディオ大全

2022.09.05
フォノ関連機器
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MC昇圧トランスについて Vol.1 トランス概説編

本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時に使用するMC昇圧トランスについてご紹介する前に、「トランス」とは何かという解説を行います。

基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「MCカートリッジの昇圧・音量増幅の方法について」のお目通しをお勧めします。

トランス=変圧器、その概要と役目について

Ortofon SPU-T100 MC昇圧トランス(生産完了)

本項からはレコード再生時に用いるMC昇圧トランスについての解説を行いますが、その前に「トランス」とは何なのかという基礎的な内容について解説してゆきます。

トランスの基礎知識

①:トランスの語源は英語のTransformer(トランスフォーマー)を略称したもの

②:トランスの主な役目は電気を通した時にその電圧(単位:V、ボルト)を変えることにあり、これをそのまま「変圧」と呼ぶ。そのため、日本語でも英語とほぼ同様に変圧器と称されている。

③:トランスを通して変圧を行う際、出力電圧を上げることを「昇圧」、逆に下げることを「降圧」と呼称する。

④:電気回路上においてトランスに電気を入力する側を1次側、出力する側を2次側と呼ぶ。

⑤:1次側と2次側にはそれぞれ決められたターン数(巻数)コイル巻線が巻かれ、1次側に対して2次側がどの程度のターン数をもつかで出力される電圧レベルが変わる。2次側の方がターン数が多いと昇圧され、逆に少ないと降圧される。1次側と2次側のターン数の差は巻線比昇圧比)として表され、そのトランスがどの程度の幅で変圧を行うことができるかを示している。

⑥:トランスの1次側と2次側の巻線は直接結線されていないため、回路上では絶縁しながら電気の伝達を行うことが可能。

これらの内容・用語は本項以降で頻出しますので、覚えておきましょう。

そして音響機器というジャンルひとつに絞ってみても、トランスは様々な機器の部品または単体機器として用いられています。また、実際に使用されている環境下でトランスが果たしている様々な役目のうち、本項では下記の3つについて解説します。

Ⅰ.電源回路における変圧 (電源トランスなど)

Ⅱ.信号回路における変圧 (MC昇圧トランス、ライントランスなど)

Ⅲ.回路の伝送系統での絶縁 (電源トランス、ライントランス、出力トランスなど)

この3例はトランスという部品でどのようなことができるか、また実際の使用方法を理解するうえで非常に重要となります。これらの内容については下記で述べてゆきます。

Ⅰ.電源回路における変圧

音響機器や家電などを使用する環境下では、様々な理由で機器や使用目的に合わせて変圧を行う必要がありますが、その最も身近で重要な例としては発電所から家庭のコンセントに電源を送る送電経路が挙げられます。その順序を、トランスの使用実例と絡めながら下記に解説してゆきます。

①:電気が発電所から送り出される際の電圧は、送電時の損失を避けるために数十万Vという超高電圧状態となっている

②:送電経路の中継点となる変電所をいくつか経由するうちに、電圧は6,600V程度まで徐々に下げられてゆく。この際に発電所が送り出した超高電圧状態の電気を通電させ、電圧を下げる機器が変圧器(トランス)であり、先述の変電所などは施設そのものがひとつの巨大なトランスであるとも言える

③:配電用の変電所から送り出された電気は、(我々がよく見る)電柱に取り付けられた電線によって各家庭へと配電される。

④:一般家庭の手前で最後の変圧を行うのが、電柱の上に取り付けられた柱上変圧器(柱上トランス)である。この変圧器を通ることで、発電所から来た電気の電圧は一般家庭などで使用可能な100Vまで降圧(電圧を下げること)され、家庭内のコンセントに供給される

このように、発電所→各家庭のコンセントに至るまでの送電経路では数多くのトランスが使用されており、電気の使用目的に合わせた降圧を担っています。

Ortofon LMA-80 プリメインアンプ(生産完了)に使用したRコア方式の電源トランス

更にコンセントから先のアンプやプレーヤー、PCなどのコンセントに接続して使用するタイプの機器は多くの場合、上の写真のような電源トランス(パワートランス)が内蔵されているか、トランスを内蔵した電源部やACアダプターを接続することで動作に必要な電圧を得ており、100Vから更に降圧したり、または逆に昇圧したりするなどしています。

Ortofon Kailas b4 MkⅡ 真空管式プリメインアンプ(生産完了)

特に上の写真のような真空管式アンプの場合は、真空管を動作させるために概ね100V以下の低電圧の電源(A電源)と、100Vを超える高電圧の電源(B電源)の両方を必要とします。

Ortofon Kailas b4 MkⅡ 真空管式プリメインアンプの電源トランス(中央)

そのため、真空管式アンプの電源トランス(上の写真中央の大きなブロック部分)は1次側にAC100Vの電気を入力すると、出力を司る2次側からは30V程度の低電圧電源や200Vを超える高電圧電源をそれぞれ別口で得ることもできます。これは先程「トランスの基礎知識」⑤で述べた、トランス2次側のターン数を用途に合わせて最適値に調整しているためです。これは音響機器に限らず、家電などでも概ね同様です。


Ⅱ.信号回路における変圧

Ortofon T1000 MC昇圧トランス(生産完了)

先に述べた電源回路の場合と動作原理は基本的に同一ですが、通信機器や業務用音響機器、また民生用の音響機器などではトランスを信号回路に接続して出力電圧の昇圧/降圧(音響機器の場合、音量アップ/ダウンを指す)を行うことがあります。業務用音響機器で用いられるマイクトランスレコード再生時に用いるMC昇圧トランスがその代表例で、音量調整(出力電圧の変圧)と合わせてトランスの1次側・2次側にそれぞれ接続する機器間のインピーダンス補正を併せて意図している場合もあります。

レコード再生に使用するカートリッジのうち、MC型カートリッジはコイルの巻線数が少ないなどの理由から出力電圧が低く(再生時の音量が小さく)、フォノイコライザーアンプに直結すると基本的には再生時の音量が足りません。これを補うため、プレーヤーとアンプのPHONO入力の間にトランスを挟んでMM型カートリッジと同程度まで出力を昇圧させることが行われるようになりました。

またトランスで昇圧を行った場合は、真空管や半導体で信号を増幅して音量アップを図るマイクアンプやMCヘッドアンプのように電源を必要とせず、またそれらのように自身の動作時にノイズを発することがないため古くから用いられてきましたが、近年の半導体のローノイズ化と高性能化、小型化によって現在では一部の高級品に用いられるに留まっています。しかし多くのマイクトランスやMC昇圧トランスには、個々の製品に独特の音色があったりトランス特有のエネルギー感などがあるため、高コストであるにもかかわらず敢えてこれらを使用する向きもあります。

Ortofon EQA-2000フォノイコライザーアンプに内蔵されたMC昇圧トランスのユニット

上の写真はEQA-2000 フォノイコライザーアンプの信号回路に内蔵された2種類のMC昇圧トランスユニットです。オルトフォンはレコード再生の黎明期からMC型カートリッジの再生時には昇圧トランスを推奨しており、その姿勢は現代に至っても変化していません。

Ⅲ.回路の伝送系統での絶縁

Ortofon Kailas b4 MkⅡ 真空管式プリメインアンプの背面。中央の黒色ブロックは電源トランス、両端は出力トランス

上の写真は真空管式プリメインアンプの背面を示したものです。本体中央の黒色の大きなブロックは電源トランス、両端にある少し小型のブロックは出力トランス(アウトプットトランス、OPTとも表記)で、これもトランスならではの役目を担っています。

Ortofon Kailas b4 MkⅡ 真空管式プリメインアンプの出力トランス

真空管式アンプの出力トランスの最も重要な役目はアンプ内部の回路とスピーカーユニットとのインピーダンスを整合する橋渡し役ですが、この説明は本項では割愛します。

先のⅠおよびⅡでは、トランスを用いた電源や信号の変圧について述べましたが、トランスにはその他にも重要な役割があります。それは、交流の電気を伝達しながら絶縁するという離れ業です。

一般的な電線や回路基板上などでは、電気はそのまま導体の中を流れます。しかし一般的なトランスは1次側と2次側の巻線が結線されていないため、回路の上では絶縁されている扱いとなります。絶縁されているものの間でどのように電気が伝達されるのか、という問いが当然発生しますが、それに対して以下に解説を行います。

①:トランスの1次側コイルにコンセントからの100V電源や音声信号などを入力した場合、コイルの中心で磁力線の束となる磁束が発生する。コイルの巻線数が多いほど磁束は増え、これを「磁束密度が上がる、増す」と表現する。

②:この磁束は、1次側と2次側のコイル双方の中心を通っている透磁率の高い(磁力を通しやすい)素材の、主にケイ素鋼やパーマロイなどを用いたコア(鉄芯)を通じて2次側コイルに伝達される。

③:コアの2次側コイルが巻かれている部分に磁束が入ると、1次側のケースとはちょうど真逆の順序で磁束が変化し、発電が誘起されて2次側から電気が出力される。

④:この時、トランスの1次側の巻線数が1002次側の巻線数が200巻線比1:2の状態でAC100Vの電気を1次側に入力すると、2次側からは(理論上)AC200Vの電気が出力される。

このように、トランス内部では磁力の働きを利用した電磁誘導によって、回路上は絶縁状態にもかかわらず(波形状に電圧が変化する)交流電圧を伝達することを可能としています。そして基本的に電圧が一定である直流電圧はこの方式では発電が不可能なため、アンプ回路の出口に出力トランスがあるとDC漏れを防ぐことができ、結果的にアンプの先にあるスピーカーユニットを保護することができます(トランスの1次側コイルが焼損して使用不可となる可能性はあります)。

なお、通信機器や高精度な測定器、医療機器などを使用する環境やレコーディングスタジオ、高性能なオーディオシステムを用いる環境などでは電源経路にトランスを接続する場合がありますが、これも一般的な商用電源からの絶縁をねらったものです。商用電源には家電やPC、スイッチング電源などを接続して動作させた際などに発生するノイズが含まれており、高精度な機器を商用電源に直結すると動作に悪影響を及ぼす場合があります。これを避けるため、絶縁を行いながら電気を伝達できるトランスの特性を利用してノイズフィルターとし、ノイズから機器を保護するという利用方法もあります。

本項ではここまで、「トランス」がどのような仕組みであり、またどのような活用方法があるかを述べました。次項では、レコード再生に用いるMC昇圧トランスに絞った内容を解説してゆきます。

MC昇圧トランスについて Vol.2 へ続く

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