本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時に使用する、MC昇圧トランスについてご紹介します。
基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「MCカートリッジの昇圧・音量増幅の方法について」および「MC昇圧トランスについて Vol.2 基礎編」のお目通しをお勧めします。
MC昇圧トランスには、フォノケーブルに設けられているアース線(上の写真参照)を接続するためのアース線端子が多くの機種に備え付けられています。これを接続することで、トーンアームやフォノケーブル(特にオルトフォンTSWシリーズのようなダブルシールド構造の場合、下図参照)とMC昇圧トランスのシャーシ(金属製ケース)との間でアースを取り、音声信号を通すケーブルの外周を覆うシールドを形成することができます。
カートリッジがレコード盤の音溝からピックアップする音楽は微細な電気信号であり、更にヘッドシェルのリードワイヤー→トーンアーム→フォノケーブルという長い距離を引き回しているため外部ノイズに対しては非常に脆弱です。また、この長距離を引き回しているケーブルの付近にノイズ源となるもの(後述)がある場合、ケーブル自体がいわばノイズを拾うアンテナの役目も果たしてしまいます。これを避けるため、トーンアームの外殻(パイプやハウジング、シャフトなど)部分やダブルシールド構造のフォノケーブル、そして昇圧トランスのアース線端子をアース線で接続し、強固なシールドを形成することはアナログ再生を行う上で極めて重要です。
基本的にプレーヤー→MC昇圧トランス間と、MC昇圧トランス→アンプのPHONO入力(MMポジション)との接続を行う場合は、それぞれのアース線とアース端子をすべて結線することが望ましいですが、これには一部の例外があります。この例外については、この後で詳しく解説します。
またオルトフォンのST-90など、XLR端子によるバランス入出力が可能なMC昇圧トランスの場合はXLR端子の3本のピンのうち1番がGND(アース)に割り当てられているためXLR端子を接続するだけでアース線の接続も行うことが可能です。そのため、バランス伝送時は基本的に別途アース線を接続する必要はありません。
既にMC型カートリッジを使用している環境下で、新たにMC昇圧トランスを導入・接続して音楽再生をしたら「ブーン」や「ブー」というハムノイズが混じるようになった場合、 MC昇圧トランスやフォノケーブルがノイズを拾っている可能性があります。この「ノイズを拾う」症状は、MC昇圧トランスやフォノケーブルが、アンプの電源トランスや電源ケーブル等の非常に強力なノイズ源の至近に設置されており、そこから発するノイズを拾って発生する例が大半です。無論、昇圧トランス側でも透磁率が高くシールド効果に優れたケースを採用したり、ケーブル側では先に述べたようなダブルシールドを施すなど万全のノイズ対策を行っていますが、電源環境に起因するノイズに対してはあまり効果がありません。
電源まわりから発生しているノイズを拾っている場合、対処方法は昇圧トランスやフォノケーブルをノイズ源から離すしかありません。再生時にハムノイズが出る場合は、まず最初に昇圧トランスやフォノケーブルがアンプもしくはプレーヤー等の電源トランス・電源ケーブルの至近にないか確認し、該当する場合は両者の距離を離してみましょう。距離を離すことが困難であったり、フォノケーブルと電源ケーブルをどうしても交差せざるを得ない場合は、ケーブル同士をなるべく垂直に交差させ、可能な限り並行させないようにしましょう。
また、昇圧トランスやフォノケーブルの位置を移動させる場合は安全のためにアンプのボリューム位置を最小とするか、もしくはいったん電源を切りましょう。移動時にケーブルが抜けてアンプやスピーカーにショックを与え、破損させる恐れがあります。
なお上記の症状は、アナログプレーヤー→アンプのPHONO入力間でも発生する場合があります。その際も、同様にフォノケーブルとアンプ・電源ケーブルなどの距離を離すことで改善する可能性があります。
また、MC昇圧トランス→PHONO入力間にアース線を接続している場合は、いったんこれを外してみることも効果的です。アースのループが原因となってハムノイズが発生している場合もあり、外すことでノイズが収まった場合は、この箇所のアース線は外したままで問題ありません。
ただ、アナログプレーヤー→PHONO入力間を直結している場合は必ずアース線を結線して下さい。アナログプレーヤー→MC昇圧トランス間も同様です。
既にステレオのMC型カートリッジを使用している環境下で、新たにモノラルMCカートリッジを導入・接続して音楽再生をしたら「ブーン」や「ブー」というハムノイズが混じるようになった場合も、先述のケース同様に伝送経路の途中にあるMC昇圧トランスやフォノケーブルがノイズを拾っていることが原因で発生している可能性があります。
この現象の特徴は、ステレオのMC型カートリッジを使用している際には感知できず、モノラルのMC型カートリッジに交換した時のみ発生する点にあり、その理由はモノラルMC型カートリッジのコイル数にあります。
上の図はモノラルMC型カートリッジCG/CAシリーズの内部構造を示したものです。モノラル仕様のため、コイルの巻線が1チャンネル分しか存在していないことが分かります。
それに対し、上図のようなステレオMC型カートリッジの場合はコイルの巻線が井桁状に2チャンネル分巻かれています。この場合は、仮に伝送経路でノイズを拾っても(結果的に)左右チャンネルで同じノイズ信号となって打ち消し合うため、実際はノイズが出ていてもそれに気づかないこともあります。コイルが1チャンネル分しかないモノラルカートリッジの場合はこのような作用は発生しないため、モノラルカートリッジを使用して初めて気づくケースが大半です。
しかしこの症状が出た時は、システムの音質向上をはかるチャンスでもあります。モノラル再生時にノイズが出ないようにフォノケーブルや昇圧トランスの位置を調整すると、結果的にステレオ再生時のS/N感も向上します。ハムノイズが出たことをよい機会ととらえ、ノイズ対策を行ってみましょう。その際も、先に述べたようにアンプのボリュームを最小とするか、電源を切ることを忘れずに行ってください。
そして下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生がモノラルカートリッジについて解説しているものです。ノイズ対策に対しても解説されていますので、あわせてご参照ください。