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アナログオーディオ大全

2024.03.21
カートリッジ

カートリッジについて Vol.25 SPU GT編

このページでは、「カートリッジについて」のVol.25をお送りします。

本ページは、レコード針(カートリッジ)についての専門的な内容となる、オルトフォンのMC型カートリッジ「SPU GT」シリーズについての説明を中心としています。基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「カートリッジについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

SPUとGTシリーズの特徴

2023年にレギュラーモデルとして復活した、Ortofon SPU GTE 105

SPUシリーズは、1950年代末のステレオレコード登場にあわせて開発されたMC型カートリッジです。モノラル用カートリッジとの区別をはかるために「Stereo Pick Up」の頭文字を取ってSPUと名付けられた本シリーズは、誕生以来60年以上にわたって生産され続けてきました。

オールドSPUと呼称される、旧SPU GT

SPUの最大の特徴は、『オルトフォン・タイプ』と呼ばれる磁気回路(磁石とコイルを備え、動作によって発電を行う機構)をステレオレコード登場とほぼ同時に実用化させた点にあります。下図はその磁気回路を模式図として示したもので、現代のMC型カートリッジの大半はこの構造を踏襲した磁気回路を用いています。

下の動画は、本邦におけるアナログ研究の第一人者である海老沢 徹 先生が、SPUで完成した『オルトフォン・タイプ』の磁気回路について解説しているものです。ここまでに述べた内容を更に詳しくお話されておりますので、併せてご参照ください。

そしてSPUシリーズのうち、Gタイプのヘッドシェル(Gシェル)内部に専用の小型MC昇圧トランスを搭載しているものを「SPU GT」シリーズと呼称しています。読んで字の如くではありますが、「GT」のGはGシェル、Tはトランスを指しています。

また、GTの後に「E」が付記される「GTE」というモデルが存在しますが、これはスタイラスチップの形状が楕円針(Elliptical)であることを指しています。

楕円針の模式図と、音溝上での接触点についての解説
音溝再生中の楕円針を再現した3D図

反対に、型番表記が「GT」のみの場合は丸針(Spherical)となります。丸針は楕円針に比べ、微細な音声信号のピックアップが難しくはありますが独特の音色を好むファンが多く、根強い人気を誇ります。

丸針の模式図と、音溝上での接触点についての解説
音溝再生中の丸針を再現した3D図




Ⅰ.SPU GTシリーズの内蔵昇圧トランスについて

先に述べた通り、SPU GTシリーズはヘッドシェル内部に昇圧トランスを内蔵したMC型カートリッジです。この昇圧トランスの存在により、GTシリーズはアンプ側がMM入力やMMポジションのみであっても使用可能という特徴があります。本項では、GTシリーズの内蔵トランスについて解説してゆきます。

旧SPU Classic GTシリーズの内部構造を示した模式図

上図は旧SPU Classic GTシリーズ(後述)の内部構造を示した模式図です。Gタイプのヘッドシェル内部に、磁気回路が収められたSPUユニットと昇圧トランスが収められていることが分かります。

一般のMC型カートリッジであれば、音声信号はヘッドシェルリードワイヤー→ヘッドシェルとトーンアームのシェルコネクター→アーム内部配線→アームとフォノケーブルのコネクター→フォノケーブル(1.2mのものが多数)を経た上でフォノイコライザーアンプのフォノ入力に到達し、昇圧やゲイン増幅(音量アップ)が行われます。MC型カートリッジは出力電圧が0.2~0.5mV程度と極めて微細につき、先に述べた一般的な信号経路を経ているうちに大きなロスを生じてしまいます。

これに対し、SPU GTシリーズの内蔵昇圧トランスはSPUのユニットに直結されています。ユニットのすぐ後ろで昇圧が行われるため、音声信号のレベルを減衰させず、また細かな信号のニュアンスも欠落させずに送り出すことが可能となります。

SPU GTシリーズの音色を表すとき、独特の「鮮烈さ」や「躍動感」という言葉がよく使われます。この表現をつくり出しているものこそ、GTの肝である昇圧トランスに他なりません。

そしてアナログファンの誰もが知るところではありますが、昇圧トランスそのものにも固有の音色が存在します。オルトフォンが現行製品として3機種の仕様が異なる昇圧トランスをラインナップしていることからも分かるように、MC型カートリッジの再生にあたって昇圧トランスの占めるウェイトは大きく、接続しているカートリッジの傾向にあわせたトランスを用いるとシステムのサウンドはより一層魅力的となります。

2023年に復活したSPU GTE 105でも、開発が最も難航したのは内蔵トランスでした。音響用トランスの名門として名高いスウェーデンのLundahl社と共同開発されたこのトランスは、当初はコア材を同社の得意とするアモルファスで製作する予定となっていました。しかし試作品が完成し、実際に音を出してみると極めて高品位ながらそれはオルトフォンの考える「GT」の音色ではなかったため、往年のシリーズと同じくパーマロイコアのトランスを採用することとなりました。

昇圧トランスの音色でサウンドが変化するという点はGTシリーズも例外ではなく、むしろヘッドシェル内蔵という距離の近さを鑑みると通常の据え置き型以上に変化が大きくなります。そのためSPU GTE 105の内蔵トランスは、シリーズのイメージを崩さないよう細心の注意をもって設計されました。

下の動画は、海老沢 徹 先生が、SPU GTシリーズの内蔵トランスについて解説しているものです。ここまでに述べた内容を更に詳しくお話されておりますので、併せてご参照ください。


Ⅱ.SPU GTシリーズのGタイプヘッドシェルについて

SPU GTシリーズの開発を発端としてGシェルが誕生したことは先に述べましたが、このGシェルにもいくつかのバリエーションが存在します。本項では、歴代のSPU GTシリーズに使用されたGシェルを各シリーズごとに紹介してゆきます。

ⅰ.旧SPU GTシリーズ

旧SPU GTシリーズのヘッドシェルは、年代によって若干仕様が異なります。古くはシェル素材をエボナイトで成型していましたが、後に軽質量の金属製に変更されました。

エボナイト製のGシェルを用いた最初期のSPU GT(海老沢 徹 先生所蔵)

またSPUのユニットの固定方法は、エボナイト製の最初期モデルではアルミスペーサーと真鍮ネジを用いてヘッドシェルに直接ネジ留めされていました。しかしシェルの素材が変更された頃から、真鍮製のプレート型スペーサーにネジ留めする方式に変更されています。


ⅱ.SPU Classic GTシリーズ

1994年に数量限定で復刻されたSPU Classic GT/GTEでは、最初期のエボナイト製シェルへの原点回帰を狙って樹脂製のヘッドシェルが開発されました。このシェルは旧シリーズの復刻に重点が置かれたため、SPUユニットの取り付けは最初期のエボナイトシェルと同様にアルミスペーサーと真鍮ネジで行われています。


ⅲ.SPU GTE 105

Ortofon SPU GTE 105

2023年にレギュラーモデルとして復活したSPU GTE 105では、これまでのGTシリーズとは全く異なるコンセプトでGシェルを新規に設計しています。これまでのシリーズでは、ヘッドシェルとSPUユニットの間にスペーサーなどの介在物が存在し、不要な共振を発生させる原因となっていました。この不要共振が旧GTシリーズの再生音に乗ることで、ヴィンテージファンの間で賞された特有の魅力が生じていた点は否めません。しかし、その一方でこれが意図せぬ付帯音であったことも事実です。

SPU GTシリーズを21世紀の定番製品として復活させるにあたり、オルトフォンはGTE 105のGシェルを完全に新規設計として先に述べた介在物の一掃をはかりました。これにより、従来はスペーサーを介してGタイプのヘッドシェルに取り付けられていたSPUユニットは、シェル本体と一体成型されたベース部分に直接固定することが可能となりました。

そして先に述べたように内蔵昇圧トランスも同様にヘッドシェルへの直接固定が可能となったため、これまでのGTシリーズとは比較にならないレベルで不要共振の排除に成功しています。これにより、GTシリーズは本来あるべきだった原音の再生という理想にまた一歩、近づきました。

Ⅲ.SPU GTシリーズ使用時の注意点

SPU GTシリーズはGシェル内部に昇圧トランスを内蔵しているため、トーンアームからのフォノケーブルをフォノイコライザーやアンプのフォノ入力に接続する場合は、MM入力への接続もしくはMMポジションへの設定が必要です。MC入力やMCポジションの設定では正常な再生ができませんのでご注意ください。

そして本シリーズは、ヘッドシェルとユニット、内蔵昇圧トランスを含む自重が30gを超える極めて重量級のカートリッジです。(例:SPU GTE 105は自重34g

そのため、本シリーズを使用する際はトーンアーム(もしくはレコードプレーヤー)の取扱説明書に記載された「対応自重」の範囲内であることを確認する必要があります。トーンアーム側の対応範囲内であれば問題はありませんが、軽~中質量のカートリッジ取付を前提としたトーンアームの場合はこの対応範囲が20g台前半までのものも多くみられます。

その場合は、無理に使用せずにトーンアームを交換するか、再生可能なトーンアームが装着されたプレーヤーで再生するようにしましょう。軽~中質量カートリッジ用のトーンアームに重質量のカートリッジを装着し、ウェイトに純正外の錘を装着してゼロバランスを取ろうと試みることはトーンアーム機構部の破損に繋がる上、カートリッジを万全な状態で動作させることも困難につき推奨はいたしかねます。

SPU GTシリーズを含む重質量なカートリッジは、同様に重質量で堅牢な機構を備えたトーンアームとの組み合わせがベストです。

SPUシリーズの使用を想定して開発された、Ortofon AS-212R

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