本ページでは、レコード盤の再生を行うための機器であるレコードプレーヤーの駆動方式について解説してゆきます。
レコード針(カートリッジ)やヘッドシェル、トーンアーム、フォノケーブルについては、それぞれのリンク先をご参照ください。
また、レコード再生初心者の方は、最初に「はじめてのレコード再生・機材編」「はじめてのレコード再生・操作編 Vol.1」「はじめてのレコード再生・操作編 Vol.2」をお目通しされることをお勧めします。

レコードプレーヤーにとって最も基本的な役割は、レコード盤側で指定された回転数(主に33 1/3・45・78回転。稀に16回転盤も存在する)にあわせて正確に回転し、音溝に刻まれた振動の凹凸を電気信号(音声)に変換することです。
このうち、「指定された回転数にあわせて正確に回転する」ことはプレーヤー本体のフォノモーター、「振動を電気信号に変換する」ことはカートリッジやトーンアームがその任を担います。本ページでは、このうち「正確に回転する」ことに焦点を当て、これを担うフォノモーターの駆動方式についての解説を行います。
なお「正確な回転」という言葉には、単に指定された回転数に対しての回転ズレやムラが少ないという意味だけでなく、レコード盤に刻まれた振動以外の不要なノイズを発生させないという意味も含まれます。
プレーヤーの設計者は、時代ごとの技術的限界や要求される仕様とのすり合わせを行いながら様々な駆動方式を考案し、工業製品としての実用化を行ってきました。ここからは、レコードプレーヤーの駆動方式として代表的な4つの方式を例に挙げてゆきます。
「レコードプレーヤー」という単語をレコード盤再生のための機器と解釈するならば、19世紀末から20世紀初頭に用いられた機械式の蓄音機もレコードプレーヤーに含まれます。
電気式モーターの小型化とその普及、また一般家庭の電化が進むよりも前には、同時代の置時計と同様に蓄音機もゼンマイ(渦巻ばね)に蓄えられた力でプラッター(レコード盤を載せる回転部分、ターンテーブルとも)を回転させ、ガバナー(遠心力を利用した調速機)を併用することで一定速の回転数となるよう工夫が凝らされていました。また、ゼンマイの力を使い切った場合はクランク式のハンドルなどを用いて巻きなおし、再び動力を蓄える必要がありました。
蓄音機の時代のレコード盤は78回転のいわゆるSP盤ですが、電気録音が実用化されるよりも前の盤では80回転前後のものも存在していました。これらに対応するため、蓄音機によってはブレーキシューをプラッターに押し付けるタイプの簡易的な回転数調整機構をもつものも存在していました。
技術の発展に伴い、蓄音機の回転に電気モーターが用いられるようになると電蓄(電気蓄音機)という言葉が一般化します。これらの蓄音機は機械式・電気式を問わずゼンマイやモーターの回転を直接プラッターに伝える、広義のダイレクト・ドライブ(後述)といえるものでしたが、回転機構にゼンマイやモーターの回転数を下げるためのウォームギアをかませる必要があったため、現代のレコードプレーヤーで一般化しているダイレクト・ドライブ方式とは若干異なる点もあります。
下の動画は、我が国のアナログ研究の第一人者である海老澤 徹 先生がこれら蓄音機の駆動方法について解説しているものです。こちらもあわせてお目通しください。
LPレコードの誕生によって、それまでのSP盤では考えられないほどにスクラッチノイズ(針先がレコード盤面に触れた時に発せられる擦過音)を大幅に減少させることが可能となりました。
それと同時に、それまで以上に低音域から高音域にかけての広帯域をレコード盤に記録し、かつカートリッジ側もこれを再生できるようになります。スクラッチノイズの減少とレコード盤・カートリッジの高性能化が同時にもたらされたことで、レコードプレーヤー(蓄音機)のモーターから出る振動や漏洩磁束に起因するノイズも同様に、明瞭に異音として再生することができるようになってしまいました。
これに伴って、従来主流であった電気モーターの回転を金属などの硬い素材のギアで減速する方式ではなく、駆動モーターの回転軸とプラッターの回転軸の間に柔らかな介在物を設けてモーターの振動ノイズをプラッターに伝えないことを意図した回転方式が模索されました。そうして登場したのが、このアイドラー・ドライブとベルト/糸ドライブ(後述)です。
モーターの振動ノイズを減衰させる方法のひとつとして考案されたアイドラ―・ドライブは、モーター回転軸から独立した中間軸にゴムタイヤのようなアイドラ―(遊び車)を挟み、片方をプーリー(滑車)つきのモーター回転軸、もう片方をプラッター裏側面に接触させて回転を減速・伝達させる仕組みがとられ、主に1950年代から70年代初頭にかけての高性能なフォノモーター(プレーヤーの回転機構部分)で数多く採用されました。
また、モーターに電気が流れることで発生する漏洩磁束への対策として、モーターの設置位置をカートリッジから極力離すことが一般化しました。プラッターを時計の文字盤に準えた場合、カートリッジが配置される位置は時計の4時近辺にあたります。そこから最も離れているのは、反対側の8時から10時近辺となります。プレーヤーの機構面での制約もあるため絶対ではありませんが、アイドラ―・ドライブのプレーヤーのモーターは概ねこの8時から10時近辺に配することでカートリッジが拾う漏洩磁束を最小限に留めようという意図がみられます。
アイドラー・ドライブのフォノモーターは、タイヤ状のアイドラ―がモーターのトルクを強力に伝達するため、回転スタートから定速に至るまでの時間が(ベルト・ドライブに比べ)速く、ダイレクト・ドライブ(後述)が普及するまでは放送局やレコード会社のプレイバック用に多く用いられました。また、このトルクに起因する力感あふれるサウンドを好むレコードファンも数多く存在します。
その一方で、回転伝達の肝となるゴム製のアイドラーが経年劣化で硬化や変形、摩耗すると本来の振動減衰性能や回転精度を得られなくなります。さらに、回転数切替機構や回転スタート・ストップ機構、回転軸の軸受などの機構部品は定期的なメンテナンス(摩耗部品の交換や回転部のグリスアップ、注油など)を前提としているものが多くあります。機構がシンプルである分、定期的なメンテナンスと整備部品の確保によっていつまでも使い続けることができるのがこのタイプのプレーヤーの強みでもありますので、アイドラー・ドライブ式プレーヤーを使用する際は整備経験が豊富なショップ様との関係を築き、良好な状態を保ち続けることを推奨します。
下の動画は、海老澤先生がアイドラ―・ドライブの駆動方法について解説しているものです。こちらもあわせてお目通しください。

ベルト・ドライブ方式は、モーターの力をゴムやシリコンなどのベルトでプラッターに伝え、これを回転させるタイプのプレーヤーを指します。
先に述べたアイドラー・ドライブに比べるとプレーヤー始動から回転数が定速に至るまでの時間はかかりますが、瞬時の回転立ち上がりが必須となる放送局用の製品と異なり、民生用のフォノモーターやプレーヤーではこれが問題視されることは多くありません。そのため、ベルト・ドライブや糸ドライブ(後述)のプレーヤーは基本的に業務用機器ではなく、一般家庭で音楽再生を行うための製品として認識されています。
また、この機構の最大のメリットとして挙げられるのは(軸受さえ耐えられるのであれば)プラッターを無限大に重質量化させて慣性モーメント(レコードプレーヤーの場合、一旦回転し始めた物体をいつまでも回り続けさせる力)を得ることで回転ムラを小さくできるということが挙げられます。さらにベルトを長く伸ばすことでプレーヤーから振動源であるモーターを離すことも容易であるため、モーターの振動をプラッターに伝えないことを最優先とするならば理想的な駆動方法であるといえます。
ただ、重質量なプラッターの回転を立ち上げるためにはモーターを高トルクとするか、始動時に何らかの補助力をつける必要があります。そのため、一部の海外製プレーヤーなどでは回転スタート時に手でプラッターを回し、回転立ち上げの補助を行うタイプのものもあります。
なお、ここまでの話とは方向性が異なりますが、ベルト・ドライブは他の方式に比べると機構が極めてシンプルで部品点数が少ないため、非常に廉価なプレーヤーをつくることも可能となります。そのため、ベルト・ドライブ方式のプレーヤーは最廉価のものから最高級品まで非常に幅広いラインナップをもち、多種多様な製品を選択できるメリットがあることも追記しておきます。
下の動画は、海老澤先生がベルト・ドライブの駆動方法について解説しているものです。こちらもあわせてお目通しください。

糸ドライブのプレーヤーは、先に述べたベルト・ドライブのドライブ用ベルトを細い糸に変更したもので、機構の上ではベルト・ドライブの一種と捉えることもできます。
ベルト・ドライブ式プレーヤーではモーター設置位置がプレーヤー内部/外部の双方となっているのに対し、糸ドライブの場合は(プラッター外周に糸をかけるため)モーターをプレーヤー外部に独立して設置するパターンが大半を占めます。
変わった例としては、上の写真に挙げた機種のように糸ドライブを想定したプレーヤーでありながらドライブ用の糸をシリコンやゴム製のベルトに交換することが可能なものもあります(プーリーの形状などの制約により、糸ドライブ専用/ベルト・ドライブ専用となっているプレーヤーの方が一般的です)。
糸ドライブのドライブ用糸はベルト・ドライブのように介在物が伸縮性を(ほぼ)持たないため、糸の張り具合が適切であればベルト・ドライブ以上の高い回転精度を期待できます(ベルト・ドライブであってもベルト素材の製法や素材選定、軸受の構造などで糸ドライブと同等の回転精度を得ることが可能なものもあります)。また適切な素材のドライブ糸を長く伸ばしてモーターとプラッターとの間を離すことで、モーター動作時の振動を極限まで減衰させ、極めてS/N比の高いサウンドを得ることも可能となります。
その代わり、ドライブ糸の素材選定を誤るとモーターの振動をプラッターに伝えてしまったり、プラッター側面と糸がスリップして回転精度が悪化する、回転しないなどの悪影響を発する場合もあります。また、先に述べたように糸の張り具合を調整するなどの微調整は必須となるため、簡便さを求める方には向きません。

ダイレクト・ドライブ方式は、レコード盤を載せるプラッター(ターンテーブル)部分とこれを回転させるモーターがダイレクトに接続されており(基本的に、モーター軸がプラッター固定軸とセンタースピンドルを兼ねている)、上記3種の方式のようにモーターを減速させず、レコード盤で指定された速度のとおりに回転させる方式を指します。
ここまでに解説した電気蓄音機やアイドラ―/ベルト/糸ドライブ方式のプレーヤーでは、レコード盤の指定に対してはるかに速いスピードで回転するモーターにギアやプーリーを取り付け、介在物やプラッターとのギア/プーリー比を活用してレコード盤の回転数まで回転数を落としていました。ダイレクト・ドライブ方式ではモーターが直接プラッターを回すため、モーターそのものが33 1/3や45、78回転で回る仕組みが設けられています。
ちなみに、電気モーターというものは1分間で数百~数万の回転を行うものが一般的で、その回転数は「rpm」という単位であらわされます。これはレコード再生にも用いられる単位であり、レコード盤によっては「33 1/3 RPM」などと回転数がレーベル面に記載されていることがあります。
つまり、一般的な仕様のモーターに対してレコードプレーヤーの回転は極めて低速であり、プラッターとモーター軸を直結した文字通りの「ダイレクト・ドライブ」を実現するにはレコードプレーヤー専用のモーターを開発せねばなりません。さらに、それまでは多くのプレーヤーでガバナーやギア、プーリー、アイドラ―、ベルトなどを用いて物理的に回転数を制御していましたが、モーターをプラッターに直結させるダイレクト・ドライブではこういった介在物が存在しないため、モーターそのものを電子回路で制御する必要があります。さらにモーター軸がそのままプラッターを回す構造である以上、モーター自体の振動などに起因する異音が発生した場合は吸収する手段がありません。
これらの難点を解決することが極めて困難であったため、ダイレクト・ドライブの実用化は容易ではありませんでした。一般的用途からは考えられないほどの超低速、かつ事実上「無」といえるほどに低振動のモーターを開発して量産し、高価とはいえ一般に普及できる程度まで製造コストを下げることは開発力と生産力に優れ、加えて大きな販路をもつ製造メーカーでなくては不可能であったといえます。
これを現実のものとしたのが、日本の松下電器産業株式会社(現:パナソニック株式会社、ともに敬称略)のTechnicsブランドから1969(昭和44)年に発表された世界初のダイレクトドライブ方式ターンテーブル(フォノモーター)、SP-10です。ダイレクト・ドライブ専用モーターのみならずトランジスタなどの半導体や制御回路の自社開発・生産を可能とした同社の存在なくしては、この時代のレコードプレーヤーの性能向上は望めなかったかもしれません。
ダイレクト・ドライブ方式の利点は、電子回路で制御されたモーターを動作させることで極めて高精度な回転を行うことが可能であること、回転系の介在物がないため10年以上にわたってメンテナンスフリーでも使用可能なものが大半を占めること、操作や設置、セッティングが他の方式に比べて容易であることなどが挙げられます。
特に現代のダイレクト・ドライブ方式プレーヤーでは制御回路に水晶(クォーツ)発振器を組み込み、発振器から出る信号を基準としてプレーヤー側が回転速度を補正しながらモーター制御を行うものが主流となっており、今なお進化を続けています。
本ページ冒頭で述べた、「正確に回転する」という命題に対するひとつの回答がこの方式であるといえます。
下の動画は、海老澤先生がダイレクト・ドライブの駆動方法について解説しているものです。こちらもあわせてお目通しください。